カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

文字の大きさ
71 / 454
第九話 花綻ぶ夏の夜

第九話 一三

しおりを挟む
 花びらでできた張子に灯りがともされて、頭上には光球が浮かんでいるかのようだった。灯り自体は優しい黄色をした暖色だが、それを覆う花びらの色によって橙色、朱色、桃色、藤色、水色、黄緑色とひとつひとつ異なる色の球を作り出している。
 また、鉢植えにも小さな照明が取り付けられており、下からのほのかな照明光と上から降り注ぐ柔らかな張子の光により、花そのものが淡く発光しているように見えた。街のいたるところにある鉢植え全てがそのようになっていたので、その光景といったら圧巻だ。
 ウタセの言ったように、通りは昼間以上のひとで溢れかえっていた。普段であれば鬱陶しいだけのひとごみも、花祭の今日だけは特別で、ひともまた花祭を飾り立てる一要素だと思えた。
 華やかで、賑やかで、幻想的な風景に、慈乃の目は縫い留められた。
ウタセに手を引かれて、まだ見ていない屋台を覗いていく。
 街中に展開された屋台は半日だけでは回り切れないほどに多く、こうして屋台めぐりを再開しても飽きることはなかった。
「わっ、きれい……」
 慈乃が目にしたのは飴細工の屋台だった。花を模した透明の飴は、繊細で美しい。夏の花祭にちなんでか、アサガオ、ヒマワリ、ハイビスカス、ニチニチソウなど夏の花が並べられていた。木の棒に咲く飴細工ではなく、輪切りにした金太郎飴も売っている。
「飴だね。せっかくだしいくつか買っておこうかな」
 ツユクサ、ガザニア、ジニアの金太郎飴を三袋選び取ったウタセは会計ついでに「飴細工をお願いできますか」と売り子に訊いた。
 売り子は頷くと、ウタセの注文を聞き、隣に座る飴細工職人に注文内容を伝える。職人は見事な手際の良さで、魔法のように花の形を作り出していく。
 慈乃もウタセの隣で飴が出来上がる過程をじっと見つめていた。
 緑色に塗られた木の棒の先端に、黄色の花が咲く。タンポポだった。
「はいよ、兄ちゃん」
「ありがとうございます」
 ウタセは満面の笑みでそれを受け取った。
 慈乃もいいなとは思ったが、人見知りで口下手な性格が言い出すのを躊躇わせる。その様子に気が付いたウタセがすかさず訊いてくれる。
「シノも作ってもらう?」
「……はい、そうしたいです。あ、でも、これは私が買ってあげたいので、ちゃんと私が払います」
 慈乃の言いまわしに、ウタセは目をまるくした。
「『買ってあげたい』ってことは贈り物?」
「カモミールの精に、お土産……といいますか。今もどこかで見ているのでしょうし、彼らが食べられないのもわかっているのですが、私が花祭を楽しんでいたことを私なりに、伝えたくて……」
 変なことを言うと思われただろうか。恐る恐る見上げたウタセの顔は、まさに鳩が豆鉄砲を食ったようだったが、次いで破顔した。
「とっても素敵な考えだね! シノらしくていいと思うよ」
 なかなか言い出せない慈乃の性格を知っているウタセは慈乃に代わって注文だけ告げると、後は慈乃に任せた。
 職人は迷いのない手つきで、黄緑色の木の棒に、黄色の中心花と乳白色の花弁を作り上げる。あっという間にカモミールが花開いた。
 慈乃は代金を支払い、飴細工を受け取った。
 店を離れながら、飴細工をじっと見つめる。透明な飴の向こうに、飴と同じ色をした景色が映る。飴の中の小さな気泡が周囲の光を閉じ込めていた。
 食べるのがもったいないほど美しいそれを見て、カモミールの精はどんな反応を示すだろうか。優しい彼らはまずはじめに慈乃の心遣いに感謝するのだろうが、この感動も共有できたらいいと慈乃は思った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!

忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。 生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。 やがてリオは、 一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。 しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...