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1章~葛葉信の思惑~

悪の科学者とヒーローの和やかな日常~水族館デート~

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「お前から水族館誘うなんて珍しいな」

ゆらゆら流れる巨大な水槽。
優雅に泳ぐ魚を眺めながら、日向ははしゃいでいるようだ。

「最近会ってなかったし、ちょうどええやん。
わしも大学の研究ひと段落したんや。息抜きも必要やろ」

「ああ、そうだな。きれいだな」

休日ということもあり、それなりに人で混んでいる水族館を
歩いていく。



「それにしても人多いなぁ、誤算だったわ」
「仕方ないさ。今は夏休みだからな」
「まあそうやね」

その時、悲鳴が聞こえた。

「きゃーっ!」


女性の声だった。

それを皮切りに水族館の深海ゾーンから
出口方向に向かって人が押し寄せてくる。

「怪人が、怪人が出たっ」
「ひぃっ助けてくれっ」
「やだっ、怖いよぉ」
「どけっ!」
「やめてっ、助けてっ」

群集が逃げ惑い、水族館の出口へとなだれ込む。

「どうやら行くしかないみたいだな」
「せやね。急ごうか」

わしらは群集とは反対側の声の方へ急いで駆け出した。

『館内に怪人が現れました。皆様は避難誘導に従って、
すぐに避難してください。繰り返します。館内に…』

そうしている間にも水族館のアナウンスが繰り返され、
職員が人々を誘導する。

二人は深海魚ゾーンに到着した。

そこ薄暗い青いライトに照らされて、
2メートル級のサメのような怪人が姿を現した。

「変身!っ」

手元の端末を操作して、日向がヒーロー用のコスチュームに早変わりする。

「お前も急げっ…」

と日向がわしの方を振り返った。
しかしそれを無視して、わしは深海ゾーンの大きな水槽のガラスに手のひらを付ける。

「…そろそろやね」

『館内に残っているお客様がいらっしゃいましたら、すぐに…』

バチンっ。
急に館内が真っ暗になった。
とたんにアナウンスの声も消える。
水族館内が暗闇と静寂で満たされる。

「なんだっ、おい、大丈夫か、信!」

暗闇の中で日向がわしを呼ぶ声がする。

「~♪~」

歌が聞こえた。
真っ暗な水槽の中から。

「何してんだ!早く返事をしろ!」

再び聞こえた日向の声。

「悪いけど、もう手遅れなんよ」

わしは水槽の中の”それ”に声をかける。

「おはよう、わしの美しい”ローレライ”」

すると、水槽がぼぉっと淡い青く光った。

「~♪~」

それが姿を現す。
美しい少女の上半身に魚の下半身。
彼女は両手を広げて水槽の中をくるりと回る。
その動きに合わせて長い髪が揺れた。
その姿はまるで、水の中に咲く大輪の花のようであった。

日向を倒すために作られた怪人。
全長は5メートル級の人魚、ローレライ。
サメの怪人が彼女に膝まづく。
彼女は海の女王なのだ。

「なんだよ、なにしてんだよ、信!」
「綺麗やろ、日向。人魚なんて初めて見たやろ。
心配せずとも少しの間眠ってくれたらええんや。
その間に全部終わるから」

「~♪~」

再びローレライが歌いだす。
彼女の歌はすべての生き物を永遠の眠りへと誘う。
例えヒーロースーツを着用していても
その歌声を防ぐことはできない。

がくっ。

ついに日向が膝をついた。

「なんでっ、なんでだっ!」
「お前には申し訳ないと思っとる。ごめんな」

日向は完全にその場に倒れ、意識を失った。
わしは日向に近づき、意識がないことを確認すると、
次の行動に移った。

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