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2章~日向の復讐日記

裏切りと彼の残した傷~水族館その後~

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※ここから日向視点です※※



俺が目を覚ました時、水族館の床にころがされていた。
先ほど変身したはずなのに、普段着に戻っている。

「はっ?なんで…」

そこで気づいた。
ヒーロースーツと装備の一式がなくなっていることに。

「そういえば、信は、信はどこ行ったんだ?」

辺りを見回すも信の姿はどこにもなく、
それどころかあのローレライと呼ばれていた人魚の怪人も、
サメの怪人も消えていることに気づいた。

水族館は全く人がいなくなったこと以外、
来た時と変わらず、ライトに照らされて優雅に魚が泳いでいた。

遅れてやってきたのは怒り。

だまされていた。
裏切られたのだ、信に。
おそらく水族館に誘ったのも信の計略のうちだろう。
俺はあいつの手のひらの上で踊らされていたのだ。

何も知らずに、信から水族館に行こうと誘われて喜んでいた。

そして、まんまと騙された。
湧き上がる怒りと同時に、自分が情けなくなった。
この事態を招いたのは、まぎれもなく俺の落ち度だ。

気づいた。
俺は信が好きだったのだ。
裏切られたとわかった今でも、信への感情は
変わってくれない。

「くそぉ……くそくそくそ!」

拳を思いっきり床に叩きつける。
ドンと虚しく音が響いただけだった。
その時、ポケットに入っていた携帯端末が振動し始めた。
取り出してみると、俺たちの組織であるアスカ―本部からの連絡だった。

『日向隊員、ご無事ですか』
「はい」

珍しく安否確認をされて、戸惑いながら答える。

『こちら基地長補佐です。
本日16:42ごろ、〇〇県△△市××町の水族館内にて発生した
怪人による襲撃事件について報告をいただきたいのですが、
少々問題が発生しているようです。
一旦本部に来ていただけますか?』
「…はい」

俺は通話を切り、重い腰を上げると本部へと向かった。


***
「それで君は敵に眠らされ、スーツと装備を盗まれたと?」
アスカ―本部司令室。
部屋の真ん中には大きなデスクがあり、
その奥に座っている男こそ、我らが組織のリーダーである、
天道龍之介総司令であった。

白髪交じりの髪をオールバックにし、
サングラスをかけた少しチャラい雰囲気の強面の男性だが、リーダーとしての風格がある。
彼は俺の報告を聞くとふーっと煙草の煙を吐き出した。

「しかし、君が無事で何よりだ。
スーツから生体反応が消えた時は君が敵にやられたかと思って、
肝を冷やした。敵にスーツを盗まれたことは痛手だが、
命があって何よりだ。だが君の体にも何かされているかもしれない。
念のため身体検査を行ってくれ、では以上だ」
「あ、はい、失礼します」

※※※※

俺は部屋を出た。
体は快調だし、検査など必要ないように思える……。
そんなことよりも、今は信の事を考えてしまう。
今すぐ信に会わなければ。あいつを捕まえて、
全部、真実を吐かせないと。そして…。

「おい、日向。久しぶりだな」
そんなことを考えながら歩いていると、背後から声をかけられた。
振り向くとそこには俺と同年代の少年がいた。
茶髪でツンツンとした髪型の、イケメン。
細身の体に黒いジャケットを着ており、首元にはシルバーネックレスをつけている。

彼は俺と同じ戦闘員でメンバーの一人である、境一輝。
同じ学校で同じ年。射撃部に所属しており、全国大会常連校だ。
ナンパで軽い性格だが、意外と気配りができるいいやつだ。

「ああ、久しぶりだな。一輝。
お前も来てたのか」
「ああ、今日は部活休みだからよ、 彼女とデートしてたんだ。
そういえばさっきの事件どうだった?だいじょぶだった?
水族館で敵が現れたらしいじゃん?でもなんでお前水族館いたの?
え、まさかデート?彼女いたのかよ、教えろよな~」
「そうだな……」
「あれ?なんか元気ないぞ。
もしかして彼女に振られちゃったとか?
だっから水族館は初デートには向かないんだって
前言っただろ?」
「いや…でも確かに俺、振られたのか」
「あ、まさかからかったのに図星だったの?
あ~悪い。でもさ相手なんていくらでもいるだろ。
お前別に見た目悪くないんだし、その強引なとこと
突っ走りすぎるとこ直せばいけると思うからさ。
元気出せよ」
「ははは……そうだな」
「ん?なんだその乾いた笑いは。
まあいいか、じゃまた明日学校でな。
あ、それと、これやるよ。
昨日ゲーセン行ったら取れたからおすそ分け。じゃ!」

そう言って押し付けられたのは白い狐のぬいぐるみ。
何を考えているのかわからない笑顔が信にそっくりで
思わずそれを強く握りしめてしまった。

そこでふとおかしなことに気づいた。
なんであいつは俺を殺さなかったんだ?

水族館でローレライの歌によって気絶させられたとき、
俺は完全に無防備だった。
いくらでも俺を殺すことができたのに、なぜスーツだけ盗んでいったのか。
あいつが何を考えていたのかわからない。
あんなに近くにいたのに、あいつのこと俺は何もわからない。

信の電話番号、SNS、メールに連絡してみたが、
すでにすべて変更済みのようで、『おかけになった電話は…』とお決まりのフレーズが
聞こえて、俺は電話を切った。

その後、信の大学や研究室に行ったが、姿はなく、
見かけたゼミ生に聞いたところ『海外留学した』とのことだった。

信の自宅の場所はわからない。
ここで俺は信につながる手がかりを見失ってしまった。
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