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2章~日向の復讐日記

怪人解析班研究員~手がかりがつながっていく~

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経過観察のため、アスカー本部にやってきた俺は
前から歩いてくる影を見て、『げっ』と小さく呟いた。

「……おや、おやおや?先輩じゃないですか?」

その人物は俺に気づくなり、片側の口角だけを上げて、
こちらを見下したような笑みを浮かべて話しかけてくる。

「久しぶりですねぇ。
敵にやられた挙句、装備一式を盗まれ、
ヒーローの力も失った日向先輩、
僕、すごく心配してたんですよ。
調子はどうですか?」

「たった今最悪になった」

こいつは水無瀬ラク。
俺の一つ下の後輩。
戦闘員でありながら、
怪人解析班・班長を務める研究員。

IQ200あるとか、天才だとか言われているが、
はっきり言って性格は最悪だ。
人の弱みを握るのが趣味だという。

陰鬱に目までかかった髪の下からぎょろりと
瞳をのぞかせながら、俺を見るこいつは
心底うれしそうだった。

そうだろう。
目の上のたんこぶのような嫌な先輩の弱みを
握ることができたのだから。

「用がないなら行くから、じゃ」

と言ってラクの横を通り過ぎようとした俺のポケットから
コロンと透明なボールが転がり落ちた。

「あっ」

これは信の部屋のおもちゃ箱から見つけたものだ。
俺が気づいて拾おうとする前に、
ラクが素早くそれを拾ってまじまじと見た。

ガラスの奥から浮かび上がる二重螺旋を見た時、
ラクの表情が変わった。
驚きと興奮に血色悪い肌が紅潮する。

「これ…どこで見つけたんですか!?先輩」
「は?なんだよ、返せよ」
「いいからどこで手に入れたかって聞いてんだよ!」

興奮して我を忘れてつかみかかるラクに呆気にとられる。
はっと我に返ったラクが俺から手を放し、
コホンと咳払いする。

「ここじゃなんなので研究室に来てください、
そこで話します。いいですか、先輩、これはマジで
貴重なものなんです」
「…ああ、わかった」

※※※

ラクの研究室は薄暗く、ごちゃごちゃとモノにあふれていた。
青いライトを頼りに椅子を探って座る。
ラクは白いスクリーンに先ほど俺が持っていた
ガラス玉の中身を映し出した。

「これは、怪人のDNAの模型です、やっぱり間違いない」
「へっ?」
「はぁ、理解できてますか?、先輩。
知っての通り、僕は怪人解析班ですが、普通怪人は倒されると
塵となって粒子レベルで消滅してしまうので、肉片すら残りません。
怪人のDNAを手に入れることは非常に困難なんです
僕たちはスーツに微量に付着している肉片から怪人の解析を行っていました。
ですので、こんな完璧な形の構造体を見たのは僕でも初めてです
本当にこんなものどこで手に入れたんですか?」
「…なんでそんなのが信のおもちゃ箱にあったんだ?」
「信?誰ですか、それ」
「ああ、これ…」

そういって俺は先日信の部屋で見つけたアルバムから拝借していた
写真をラクに手渡した。
その写真には信と父親が映っている。

「…はっ?あ?この方は…!」
「ああ、有名な科学者なんだろ。その人」

ラクは怪訝な顔をしてそれを受け取った後、
再び興奮に顔を紅潮させた。

「この写真に写ってる子どもが信なんだけど、
先日この人の家に行った時にあった」
「家に行った?ま、それ本当ですか?」
「ああ」

そこでラクが言葉を区切る。
そして顎に手を当てて考える。
しばらくそうしてからラクが口を開いた。

「先輩にお願いがあるんですが…」


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