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短編
遠征任務-長野⑧
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精神病棟 病室B
エイリアン達が3人、扉を開けて部屋に入ってくる。
間一髪、信は埃と砂が積もったベッドの下に身を潜めていた。
うつぶせの状態で耳をそばだてる。
エイリアン達は酷く焦った様子でまくし立てるように異星の言語で話す。
「信じられねぇ。なんであいつがここにいるんだ?バレるはずがなかったのに」
「誰かが裏切ったか、情報をリークしたんだ。くそっ、早くしないとやられるぞ」
「商品はどうする?」
「構ってられるか。置いてくぞ」
一人のエイリアンが少し考え、神妙な様子で話す。
「いや、一つだけ。持っていきたい。今日入荷した、あの白い地球人」
「そうだな。あれは高値が付きそうだ」
その言葉に首を振ると、低い、唸るような声を出した。
「そうじゃない。今、思い出したんだ。ジーゼの下で働いていた時、俺は一度あの地球人を見かけたことがある。ジーゼはなぜかあれを特別視していた」
「…」
「それなら今検品をされてほかの商品と一緒にいるはずだ。早く連れてこよう」
エイリアン達が部屋の扉を開ける。
3人目のエイリアンが部屋を出ようとした。
ベッドの下から足が部屋の外に出る様子を見た信はほっと息をついた。
しかし、その時埃が喉に入って思わずむせそうになり慌てて口をふさぐ。
ぴくり。
一番後ろにいたエイリアンが微かな空気の振動に反応して振り返った。
「…なぁ、この部屋に誰かいるか?」
「誰もいないだろう、なんでだ?」
「…まさか」
エイリアン達は素早く部屋に視線を巡らせる。
「おそらく商品が一つ逃げたんだ。それも俺たちが追っているまさに”それ”が」
ひた、ひた、ひた。
3つの足音が部屋の中央まで戻ってくる。
ー気づかれたー
「赤い目の白鼠ちゃん、出ておいで」
ベッドの下から足が6つ見える。それが部屋を歩きまわり、ロッカー、棚を開けて中を確認し、そしてベッドの下を順番にのぞき込んでいく。
「見つけた」
魚と人間を融合したような黒い目のエイリアンと目が合った。
エイリアンは水かきのある長い手を伸ばして、信の頭を掴むとベッドの下から引きずり出す。
抵抗虚しくベッドから引きずり出され、3人のエイリアンの視線に晒される。
「やっぱりだ。こいつ、ジーゼの上着を着ている。…なぁお前があいつをここに呼んだのか?疫病神め」
「知らん、…放せ」
エイリアンは信の髪を掴むと顔を上げさせる。
「ほう。俺たちの言葉がわかるんだな。なぁジーゼにはどうやって取り入った?たかが地球人が少し頭がいいだけで気に入られるわけがないよな」
「この綺麗な顔で媚びを売ったんだろ?俺たちにもやって見せろよ」
「あのジーゼに異星人とファックする趣味があったとはなぁ」
自分を見て、下卑た笑いを浮かべる彼らを信は冷めた目で見ていた。
そして、隠し持っていたガラス片を頭を掴むエイリアンの手を突き刺した。
「うがっ…くそがっ」
エイリアンが怯んだ隙にふらふらと逃げようとする。
「舐めやがって!」
ほかのエイリアンが信の肩を掴むと力任せに棚に向かって投げとばした。
簡単に体は吹っ飛び、背中を棚に打ち付ける。信は痛みにうめく。
「こいつ、自分の立場をわかってないみたいだな」
「とにかく今はこいつを連れて逃げるぞ」
信は顔を上げると切れて血を流す口元をにぃっと釣り上げて、挑発的な笑みを浮かべた。
「誰が立場をわかっとらんって?」
一瞬、エイリアン達は彼の笑みに見惚れてしまった。
信はポケットから何かを取り出し、投げる。
それは一瞬で煙を上げ、エイリアンの視界を遮った。
ー即席の煙玉だ。ー
自分を掴もうと伸ばされた手を間一髪避けると、信はブレーカーに手を伸ばす。
老朽化し錆びた配線板を引きちぎるように開け、金属片を差し込んだ。
瞬間。
部屋の電気が一斉に消えた。
「おい、何も見えないぞ」
「どこだ、あいつはどこに行った」
スモークと暗闇でエイリアン達は混乱している。
その隙に信は素早く扉の元へ行き、部屋の外に出た。
防火扉前まで来ると作動スイッチを押す。
ガンッ、と金属と床が衝突した衝撃で大きな音を立てる。
今までいた部屋と先にある通路が頑丈な鉄の扉で区切られた。
「はぁ、はぁ、ははっ、どうや、閉じ込めてやったわ…」
だがこれもいつまでもつかわからない。
早くほかの行方不明者を救出して、ここを脱出しなければ。
投げ飛ばされたときに頭を打ったのかどくんどくんと脈打つように頭が痛い。
引きずるように一歩踏み出すたびに、裸足の足にコンクリートや石、ガラスなどの破片が刺さって痛い。
薬のせいか、のしかかる様なだるさがあり、体が思うように動かない。
「ああ、動かん、どないしよ、日向…日向」
かすむ視界の中、見慣れた姿が見えた気がした。
「信、迎えに来た」
エイリアン達が3人、扉を開けて部屋に入ってくる。
間一髪、信は埃と砂が積もったベッドの下に身を潜めていた。
うつぶせの状態で耳をそばだてる。
エイリアン達は酷く焦った様子でまくし立てるように異星の言語で話す。
「信じられねぇ。なんであいつがここにいるんだ?バレるはずがなかったのに」
「誰かが裏切ったか、情報をリークしたんだ。くそっ、早くしないとやられるぞ」
「商品はどうする?」
「構ってられるか。置いてくぞ」
一人のエイリアンが少し考え、神妙な様子で話す。
「いや、一つだけ。持っていきたい。今日入荷した、あの白い地球人」
「そうだな。あれは高値が付きそうだ」
その言葉に首を振ると、低い、唸るような声を出した。
「そうじゃない。今、思い出したんだ。ジーゼの下で働いていた時、俺は一度あの地球人を見かけたことがある。ジーゼはなぜかあれを特別視していた」
「…」
「それなら今検品をされてほかの商品と一緒にいるはずだ。早く連れてこよう」
エイリアン達が部屋の扉を開ける。
3人目のエイリアンが部屋を出ようとした。
ベッドの下から足が部屋の外に出る様子を見た信はほっと息をついた。
しかし、その時埃が喉に入って思わずむせそうになり慌てて口をふさぐ。
ぴくり。
一番後ろにいたエイリアンが微かな空気の振動に反応して振り返った。
「…なぁ、この部屋に誰かいるか?」
「誰もいないだろう、なんでだ?」
「…まさか」
エイリアン達は素早く部屋に視線を巡らせる。
「おそらく商品が一つ逃げたんだ。それも俺たちが追っているまさに”それ”が」
ひた、ひた、ひた。
3つの足音が部屋の中央まで戻ってくる。
ー気づかれたー
「赤い目の白鼠ちゃん、出ておいで」
ベッドの下から足が6つ見える。それが部屋を歩きまわり、ロッカー、棚を開けて中を確認し、そしてベッドの下を順番にのぞき込んでいく。
「見つけた」
魚と人間を融合したような黒い目のエイリアンと目が合った。
エイリアンは水かきのある長い手を伸ばして、信の頭を掴むとベッドの下から引きずり出す。
抵抗虚しくベッドから引きずり出され、3人のエイリアンの視線に晒される。
「やっぱりだ。こいつ、ジーゼの上着を着ている。…なぁお前があいつをここに呼んだのか?疫病神め」
「知らん、…放せ」
エイリアンは信の髪を掴むと顔を上げさせる。
「ほう。俺たちの言葉がわかるんだな。なぁジーゼにはどうやって取り入った?たかが地球人が少し頭がいいだけで気に入られるわけがないよな」
「この綺麗な顔で媚びを売ったんだろ?俺たちにもやって見せろよ」
「あのジーゼに異星人とファックする趣味があったとはなぁ」
自分を見て、下卑た笑いを浮かべる彼らを信は冷めた目で見ていた。
そして、隠し持っていたガラス片を頭を掴むエイリアンの手を突き刺した。
「うがっ…くそがっ」
エイリアンが怯んだ隙にふらふらと逃げようとする。
「舐めやがって!」
ほかのエイリアンが信の肩を掴むと力任せに棚に向かって投げとばした。
簡単に体は吹っ飛び、背中を棚に打ち付ける。信は痛みにうめく。
「こいつ、自分の立場をわかってないみたいだな」
「とにかく今はこいつを連れて逃げるぞ」
信は顔を上げると切れて血を流す口元をにぃっと釣り上げて、挑発的な笑みを浮かべた。
「誰が立場をわかっとらんって?」
一瞬、エイリアン達は彼の笑みに見惚れてしまった。
信はポケットから何かを取り出し、投げる。
それは一瞬で煙を上げ、エイリアンの視界を遮った。
ー即席の煙玉だ。ー
自分を掴もうと伸ばされた手を間一髪避けると、信はブレーカーに手を伸ばす。
老朽化し錆びた配線板を引きちぎるように開け、金属片を差し込んだ。
瞬間。
部屋の電気が一斉に消えた。
「おい、何も見えないぞ」
「どこだ、あいつはどこに行った」
スモークと暗闇でエイリアン達は混乱している。
その隙に信は素早く扉の元へ行き、部屋の外に出た。
防火扉前まで来ると作動スイッチを押す。
ガンッ、と金属と床が衝突した衝撃で大きな音を立てる。
今までいた部屋と先にある通路が頑丈な鉄の扉で区切られた。
「はぁ、はぁ、ははっ、どうや、閉じ込めてやったわ…」
だがこれもいつまでもつかわからない。
早くほかの行方不明者を救出して、ここを脱出しなければ。
投げ飛ばされたときに頭を打ったのかどくんどくんと脈打つように頭が痛い。
引きずるように一歩踏み出すたびに、裸足の足にコンクリートや石、ガラスなどの破片が刺さって痛い。
薬のせいか、のしかかる様なだるさがあり、体が思うように動かない。
「ああ、動かん、どないしよ、日向…日向」
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「信、迎えに来た」
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