異世界スーパーマンなのに夢が叶わない!

八乃前陣(やのまえ じん)

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☆第二十三話 小さくて超重要な手がかり☆

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「本っ当ぅにっ、申し訳ありませんでしたっ!」
 別宅の居間で、椅子へ腰掛ける金髪の美少女と傍らに控える黒髪メイド長を前に、仮面にマントのヒーローは、深く深く土下座をしていた。
 感知した小さな怒りの感覚に、シーデリアお嬢様とメイド長アリスの危機を想像した正人は、考えるよりも先に怒りの意志で突撃。
 その結果が、金髪少女と黒髪女性の入浴場面だったのである。
 正人の生前世界の謝罪の常識、日本の土下座を初めて見た二人は、湯上がりから簡単な身支度をしたラフな服装で、見知らぬ謝罪を戸惑いながら受け入れていた。
「あ、あの…マサト様、どうかお顔をお上げ下さい…っ!」
「お嬢様も、このように申しておりますです。それに、マサト殿がお嬢様や私の身を案じて下さっていた事は、お嬢様も理解をしておいです」
 シーデリアはまだ恥ずかしそうだけど、主より二つ年上のメイド長は、恥ずかしながらも落ち着いている。
「はぃ…もう二度と、このような失態は…」
 座したままシュンと頭を垂れる青年を、可愛いと感じている様子のシーデリア。
 サラサラ金髪の主に代わって、纏め黒髪のメイド長が問う。
「それで、マサト殿。飛び込んで来た理由を、お聞かせ願えますですか?」
「あ…は、はい。実は…」
 マサトは正座のまま少し考え「シーデリアとアリスになら話しても大丈夫だろう」と判断をして、羊皮紙の件と、マサト自身の悪意探知訓練の件を伝えた。
「…というワケでして。僕も、普段の犯罪行為の悪意と同時に、魔方陣の羊皮紙を持ち込むテロリストたちの悪意を察知しようと、訓練中でして…」
「それで、マサト様は、私たちの浴し――こ、こちらの別宅へ?」
 問いながら、メイド長に背後から頭髪を洗って貰っていた自分たちを思い出し、想わず言葉が詰まる。
 シーデリアは年上のアリスを姉のごとく信頼していて、お風呂も一緒に入るので、マサトが飛び込んで来た時も二人は当然、裸であった。
 そんなシーデリアたちの羞恥に気づく事なく、正人は浴室乱入の事情について答える。
「は、はい…。その、こちらの一室から、なにやら 小さく強い怒りの気配を、感じましたもので…」
「ま、まぁ…」
「なるほど…」
 正人の説明に、シーデリアは驚いて頬を染め、アリスは納得が出来たように微笑んで頷く。
「それで僕はその…お二人が何か、危険な目に遭っているのでは。と、考えまして…」
「それで、お嬢様を護る為にマサト殿が飛び込んで来た。という事情でしたのですか♪」
「はぃ…ほんとうに、申し訳ありませんでした…」
 失態の理由を聞いたアリスは温かい笑みを浮かべ、シーデリアは嬉しそうに恥ずかしそうに俯いて、伏せた笑顔は喜びで艶々していたり。
「お嬢様」
「え、ええ。マサト様、どうか、もうお気になさらず♪」
「お、お許し頂けますのでしょうか…?」
「はい♪ むしろ私とても…コホん」
 とても嬉しそうに何かを言いかけたシーデリアは、ハっと気付いて誤魔化す。
「お嬢様、それ以上は、はしたなく御座います」
「わ、解ってますわ…ぇへ…♪」
 メイド長に注意をされながらも、シーデリアは喜びを抑えられない感じだった。
「それで、マサト殿。火炎の災害をもたらす羊皮紙とは…」
「あ、はい! 実は、このような物でして」
 あらためて犯罪事案の件で問われた正人は、シュンと身を縮込ませた謝罪モードから、人々の平和を護るヒーローぜんと、シャキっと背筋の伸びた正座姿勢で、シームの描いた魔力の無い魔方陣を見せた。
「失礼いたしますです」
 青年から紙を預かったメイド長が、主へと見せる。
 紙を受け取ったシーデリアは、描かれている魔方陣をジっと見て、何かを想いだした様子だ。
「………あら、この模様――ハっ!」
「…お嬢様、お心当たりが?」
「え、えぇとぉ…」
 気付いたお嬢様の、なんともバツの悪そうな驚きと、それを察したメイド長の、やや責めるような物言い。
 そして咎めるような黒髪メイドの視線に焦る、金髪のお嬢様である。
「シーデリアさん、なんでも良いので、気付いた事をお話し下さいっ!」
「あ、は、はい…ア、アリス、先日の、お守りを」
「…承知致しました」
 観念したようなお嬢様の命令に、もう色々と解った感じなメイド長が、やや呆れながら退室をして、とある小物を手に乗せて戻ってきた。
 シーデリアがアリスから受け取ったのは、掌サイズのお目出度そうな小袋である。
 立ち上がって、椅子に腰掛けているシーデリアの目の前へ寄った仮面のヒーローが、開かれた両掌の小袋を、ジっと見つめた。
「それは…?」
「はい。先日、商店エリアから少し外れた住宅エリア近くでお店を開いた、とある小物商店…たしか『マイマイ商店』…で、配られていた、オープニング・プレゼントです」
 赤い生地で作れた小袋は、金色の縁取りでキラキラとしていて、口は白色の紐で綺麗に綴じられている。
「この小袋は『開店祝いのお守り』であると マイマイ商店の前で配られておりまして…時間帯もあり、多くの方たちが 受け取っておられました」
 見た目的には、たしかに普通のお守り。
「お嬢様も、商店の視察という意味で店舗へと立ち寄られ、この小袋を頂いて参りましたので御座いますです」
「そ、それで…」
 アリスから向けられる咎める視線を、気まずそうに意識をしながら、シーデリアは正直に話した。
「この小袋の中に…その…」
 言いながら、シーデリアが小袋の紐を解いて、その中身を取り出すと、それは厚紙のような羊皮紙を無理矢理小さく折り畳んだ、まるでブロックみたいな塊が現れる。
「これは…?」
「マサト様、開いて見て下さいな」
 手渡された羊皮紙のブロックを、ヒーローが丁寧に拡げたら、それは件の魔方陣が描かれた羊皮紙だった。
「っ! な、なんと…っ! シーデリアさんは、この羊皮紙…お守りをっ、小物しょっ――マイマイ商店で手に入れたっ。という事ですかっ?」
「はい」
 シーデリアのハッキリとした返答で、正人の中で、恐ろしい仮説が広がって行く。
「…つまり、テロリストたちは…商店に偽装した拠点をこのオドサンの街に構えていて、お守りという形で人々へ密かに手渡し、広く配布をしている…っ!」
 やはり、テロ組織と見て良いだろう。
 いつから街での配布が始まったのか。
 そして、拠点は一つだけなのだろうか?
 現在、どれ程の人々に羊皮紙が行き渡っているのか。
 そう考えると、事態は想っていた以上に、深刻な進行具合な気がする。
(と、とにかくっ、この情報をいち早くっ、ドングリウルさんたちへ…っ!)
 そう焦る正人を余所に、黒髪のメイド長は、金髪のお嬢様へ、ズイと詰め寄っていた。
「お嬢様、お守りの類は みだりに開封してはなりませんと、何度も申し上げた筈です」
「そ、そぅなんですけれどぉ…だってぇ、私、どうしても気になってしまって~…」
 主従の関係なく、姉に咎められるイタズラな妹のように見える二人だ。
 別に喧嘩でもなんでもない、女子二人の戯れだけど、女性に縁の無い正人は焦る。
「ま、まぁ、ですが…シーデリアさんの好奇心が、街の災いを阻止できる可能性が極めて高い、大変な発見をされたのですし…」
「そ、そうですわ♪ ね、アリス。マサト様の仰る通りなのですわ♪」
「結果論でございます」
「うぅ…」
 年上メイド長のビシっとした正論に、金髪のお嬢様は、シュンと反省モードだ。
「…とはいえ、マサト殿の言葉にも一理ありに御座いますです。今回は、姉上様への報告は、いたしませんです」
「まあ、有難うアリス♪ マサト様♡」
「? は、はぃ…」
 パァっと明るく輝いたシーデリアの笑顔に、正人は「姉上殿の躾けは相当にキビしいらしい」とだけ感じてから、ハっと想う。
「っ――そ、それではっ、僕はシーデリアさんから頂いた情報を、この羊皮紙と一緒に自警団の方たちへと伝えますっ! それでは失礼しますっ!」
「はい、マサト様」
「マサト殿、よしなに…」
 二人に見送られながら、正人は窓から夜空へと飛び立った。
 月明かりに照らされるオドサンの上空から街を見下ろしつつ、正人は考える。
「この街の、きっと多くの家に、既にこの羊皮紙が配られてしまっている…っ! もしこれが…いま魔法が発動されてしまったら…っ!」
 眼下の街が、魔法の火災に包まれる地獄の光景が、思い浮かぶ。
 街で知り合った人々だけでなく、知らない人たちの平穏な家庭だって、沢山ある。
「火炎テロ…そんな事、させてたまるかっ!」
 とにかく今は、首謀者の悪意を探すよりも、この事実をいち早く、ドングリウルたちへ伝えなければ。
 正人は無意識に飛行速度が上がり、先ほど話していた、団長たちの集合場所へと向かった。

 商店地区の上空から、大通りの片隅にある中央広場で、自警団たちが集合している様子が見えた。
 隊長である女性剣士のドングリウルが、数十名の自警団たちへ、現状報告をしている。
「…という訳で、羊皮紙を持ち込む犯罪者たちによる地下水路からの侵入も、今夜 あらためて確認がされた。街の正面入り口等は警戒が固くなっているし、衛士隊が入出者の徹底管理をしているので、我々は引き続き 街の中で不審者を中心に――」
「ドングリウルさんっ!」
「! アイアン――っマサトさんっ!」
 上空から凄い速さで着地をした仮面のヒーローの猥名を呼びそうになって、女性団長はまた慌てて訂正。
「いまっ、シーデリアさんから、大変な情報を預かってきましたっ!」
「シーデリア嬢から?」
 自警団団長のドングリウルと、副団長の女性で小柄な魔法使いのシームが、仮面ヒーローと距離を詰める。
「この羊皮紙の出所ですが…」
 ヒーローのもたらした情報に、自警団の二人の美顔が、青ざめる。

                        ~第二十三話 終わり~
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