34 / 36
☆第三十三話 超人力とは別らしいモノ☆
しおりを挟む
「このままっ、お前を石にして倒すっ!」
砂の集合体である砂ドラゴンを構成している無数の砂粒を、摩擦による超高熱で砂そのものを溶岩化させて、石として纏めてしまう。
という自分発案の対処法が上手くいってウキウキな正人は、更に砂ドラゴンへと突撃をかけて貫通しながら砂を手にし、一瞬で力強く握って超高熱で溶岩化して石にして、砂粒の生命活動を停止させてゆく。
――ッグラアアアアアッ!
少しずつでも自らの身体が減らされてゆく感覚に、砂ドラゴンも、危機感のような咆哮を上げた。
「な、なんと…っ!」
「ァアニキっ、なんかっ、凄げぇっ!」
未知のドラゴンと謎青年の戦いを見守る衛士隊や、拘束されている悪の手下たちも、身が縮む程の脅威を真正面から弱体化させてゆく青年の戦いに、感嘆の息を飲んでいる。
「むんっ――むんんっ! よしっ、行けるぞっ!」
数度と砂握り攻撃の突貫飛行を繰り返した正人は、砂ドラゴンの体躯がかなり小さくなったと確認をして、自分の攻略方法が水や氷とは別な形の正解だったと、嬉しくも感じた。
「この調子ならっ、一時間もすれば無力化でき…何っ!?」
十五メートル程にまで体積が減った砂ドラゴンの足下周囲が、灼熱の赤い光を放つ。
「あ、足下で光…っ?」
上空から見ると、砂ドラゴンは正人貫通の際に広く散らされた砂をそのまま足下へ放置していて、その薄く広がった砂の絨毯で微振動を起こし、火炎の熱を発生させていたのであった。
「しまったっ!」
正人が自分の失態に気付いた時には、砂ドラゴンは開いた大口を離れた場所の衛士隊へと向けて、強力な火炎を放射。
「火炎防御っ!」
役に立たなくなった魔法の盾で、自分たちと犯罪者たちを護ろうとする衛士隊の前へ、正人は慌てて盾として飛来をした。
「く…っ! 砂ドラゴンっ、僕より頭が良いのかっ?」
迫り来る強力火炎の前に降り立ったマスクのヒーローが、再び強烈な吐息を火炎へとぶつけ、散らして相殺。
そんな、ヒーローが攻撃出来ない隙を突いて、砂ドラゴンは散った砂を再び集めて、身体を再生し始める。
「な、なんだ…っ? 大きくなってる…っ?」
森の大地へと散らばった砂が、触れた地面の砂を自らの一部として取り込んだらしく、全高は二十五メートルを超えていた。
「ァアっアニキィっ! アイツはああやってっ、取り込んだ砂をっ、新たに自分の身体としてっ、活性化しちまうんだよぉっ! だからっ、氷結させて水に沈めてっ、封印するしかないんだよおぉっ!」
「それでは…僕のやり方ではっ、ほぼノーダメではないですかっ!」
「だからっ、こんなイカれドラゴンっ、使っちゃあダメだったんだああっ! ボスのド馬鹿あああっ!」
泣き喚きながら砂ドラゴンの特性を教えてくれる悪党魔法使いも、あらためて、この厄介な生物を復活させたボスを罵る。
より巨体となった砂ドラゴンは、砂が増えた分だけ、更に高温な摩擦熱を起こし易くなったのだろう。
大きく息を吸うような威嚇動作の直後には、大きなお腹だけでなく更に足下に散らばる砂粒絨毯も赤く発光をさせて吸収し、離れていても体内の高熱を感じさせてくる。
気付いたら口から火炎を吐いてきて、正人は皆の盾として、吐息での防御を強いられてしまう。
「わ、我らがもっとっ、距離を開けるっ!」
衛士隊長が衛士隊へと命令を下し、散る火炎を避けながら部隊は更に後退をしてゆく。
巨体になった分だけ歩行速度が遅くなった砂ドラゴンは、それでも衛士隊への攻撃で謎青年の攻撃を不能に出来ると、学んだらしい。
重たい身体を歩ませて衛士隊を追いながら、常に摩擦熱を絶やさず火炎を吐いてくる。
「しかし、砂ドラゴン…っ! これでは、火の化身だっ! 火……あっ!」
すっかり忘れていたけれど、正人はついさっき、街での火炎テロを鎮圧出来る消化魔法を自警団の魔法使いシームに教わって、実行したばかりであった。
「僕の消化魔法でっ!」
正人は吐息で火炎を相殺しながら砂ドラゴンへと飛翔して、目の前に姿を晒して注意を引きつつ、消化魔法を意識する。
淡く光る身体の中で、消化の魔法が生成される感覚があり、すぐに完成。
「むむむむむっ…消えろっ!」
――っ…ザザザザドドドドドドドっ!
消化魔法を強く放つと、正人の周囲から大量の水が発生をして、砂ドラゴンの全身を真上から滝のように、覆い尽くした。
「ぉおっ、なんと魔法も…っ!」
「ァアニキィっ!」
――ッグアアアアアアァァァッ!
大量の水を浴びた砂ドラゴンが、悲鳴にも感じられる咆吼を上げて、周囲は高熱と水分の衝突による水蒸気で白く曇りゆく。
正人の考えでは、とりあえず水を掛けられた砂には水分が染みこんで重くなり、微力な粒は微振動さえ不可能になる。
「どうだ…っぇえっ!?」
と推察をしていたら、完全に違った。
「アニキィっ、それじゃあっ、ダメなんだぁっ!」
――ッドラガアアアアアアッ!
もうもうと立ちのぼる湯気が晴れて姿を見せた砂ドラゴンは、水分を吸い込んでなど全くおらず、むしろ周囲の水蒸気を鬱陶しがっている程度にしか、見えない。
「な、なんでっ?」
砂ドラゴンには水分と氷結魔法。
と言った魔法使いを見ると、やはり絶叫しながら答えてくれた。
「ァアニキの消化魔法はぁっ、火炎魔法への消化でしょおおおおっ!」
「…あっ!」
言われて、理解出来た。
そもそも、街での火炎テロに対して正人が消化魔法を覚えたのは、普通の水では魔法の火炎を消せないからである。
それはつまり、魔法生物と言える砂ドラゴンの起こす火炎自体は、魔法ではなく砂同士の摩擦熱で起こされた、いわゆる「普通の炎」なのだから。
「…普通の火には、消化魔法もまた無力…っていう事かっ!」
「ァアニキ正解いいいっ! アニキィっ、普通の火を消す魔法はっ、知らないのかよおぉっ⁉」
「それは知らない…っ!」
この世界の魔法について、まだまだ知らない事が多い正人である。
――ッグァァァアアアアアッ!
そんな正人を、まるであざ笑うかのような、砂ドラゴンの咆吼だ。
そして砂ドラゴンの本体と言える砂も、また魔法生物ではある。
しかし摩擦での高温を起こせる以上、消化魔法の水だって、アっという間に蒸気と化して無効化させてしまえるのだろう。
だから、なんであれ水だけでなく、水そのものを凍らせる氷結魔法も必要なのだ。
「た、たしかに…なんとも厄介な生き物だ…っ!」
超人パワーを誇る正人にとって、やはり相性の悪い怪物である。
吐き出す火炎を無力化できる正人とはいえ、砂ドラゴンもまた、敵を倒せない事実に直面をしているのだ。
だから、考えたのだろう。
「どうすれば…なにっ!?」
砂ドラゴンが、その形を崩して灼熱する砂粒の川となり、森の木々を抜けて何処かへと流れ進み始めた。
「砂ドラゴンっ…なんだ急に…ハっ!」
流れる先へ視線を向けると、そこにはオドサンの街の高い壁。
「衛士隊長殿っ、砂ドラゴンの流砂がっ、オドサンの街へ向かっていますっ!」
「なっ、なんだとっ!?」
上空から注視している仮面ヒーローの報告に、衛士隊たちにも動揺が広がる。
「追いかけるっ! 全隊っ、何としても街に入れるなっ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
訓練を重ねている衛士隊たちが、隊列を崩さずに全速で流砂を追いかけて、正人も上空から先回りをしながら、考える。
「砂ドラゴン…っ! つくづく僕より頭が良いんだなっ!」
難敵、砂ドラゴンが戦いを放棄した理由は、正人には分からないけれど、街へ向かう理由は推察出来る。
「砂ドラゴンは、オドサン壊滅を狙ったボスの命で復活をしたっ! だから、目的の根っこはオドサンを壊滅させる事…っ!」
流砂という対処し難い敵だけど、正人の超視力は、別の事実も見付けていた。
「砂の命…犠牲にしている…っ?」
衛士隊のように地を走るのではなく、上空から俯瞰できる正人だから、気付けたのだろう。
大量の流砂が通り過ぎると、少ない量の砂が、森の大地へと残されている。
それらは全く動く様子もなく、また魔法生命的な気配も感じられない。
「つまり、あの砂粒は、もう…」
ドラゴン以外の形での活動は、砂ドラゴンにとっても、想像出来ない程の困難なのかも知れない。
「命を削ってまで、オドサンの街を壊滅させたかったのかっ…あのボスはっ!」
その執念の源泉は、正人には全く想像が出来ないけれど。
「しかし、どんな理由があってもっ、街の人々を巻き込む災難など、僕は許さないっ!」
正人の脳裏に浮かぶのは、街で知り合った自警団の人々や、余所者の自分を助けてくれた現場リーダーや仲間たち。
正人の小説を読んで批評し、次の作品を待ってくれている編集技術士のルビジ氏や、主を想う護衛隊長である黒髪のアリス。
そして、正人に良くしてくれて、信用してくれている金髪のお嬢様、シーデリア。
「誰一人だってっ…絶対に護ってみせる…っ!」
流砂と化した砂ドラゴンが、ドラゴン形態へと自身を再構成して破壊活動を再開するとしたら、それは目的地であるオドサンの街へ辿り着いてからだろう。
正人が壁の外へ到着をしたタイミングで、街の衛士隊から新しい部隊が、森の部隊と合流をする為に出動をする直前だった。
「あっ、衛士隊の皆さんっ!」
声を掛けながら、目に痛い色のスーツに身を包んだマスクの青年が、空から着地。
「むっ…なんだねキミは?」
厳しくも知性的な顔に刻まれた皺が、魔法を専門とする衛士隊隊長としての、高い能力を物語っている。
「僕は、アイアン・アダムです! 今、この街に脅威が迫ってますっ!」
「…脅威?」
「あっ、あなたは…っ!」
ヒーローの姿に覚えがあるのは、森の部隊から伝令として街まで早駆けをした、若い男性隊員だ。
「知り合いか?」
「はいっ! 噂の、えぇと…ちょ、超人ですっ! 森で、我々の部隊と連携をしましたっ!」
ハキハキと、しかし猥名は言い辛かったのだろう。
「…そうか、貴殿の噂は聞いている。して、街への脅威とは?」
「はいっ! もうすぐ、砂ドラゴンが…っ!」
珍妙仮面が敵では無いとすぐに理解をしてくれた隊長に、正人は急いで報告をした。
~第三十三話 終わり~
砂の集合体である砂ドラゴンを構成している無数の砂粒を、摩擦による超高熱で砂そのものを溶岩化させて、石として纏めてしまう。
という自分発案の対処法が上手くいってウキウキな正人は、更に砂ドラゴンへと突撃をかけて貫通しながら砂を手にし、一瞬で力強く握って超高熱で溶岩化して石にして、砂粒の生命活動を停止させてゆく。
――ッグラアアアアアッ!
少しずつでも自らの身体が減らされてゆく感覚に、砂ドラゴンも、危機感のような咆哮を上げた。
「な、なんと…っ!」
「ァアニキっ、なんかっ、凄げぇっ!」
未知のドラゴンと謎青年の戦いを見守る衛士隊や、拘束されている悪の手下たちも、身が縮む程の脅威を真正面から弱体化させてゆく青年の戦いに、感嘆の息を飲んでいる。
「むんっ――むんんっ! よしっ、行けるぞっ!」
数度と砂握り攻撃の突貫飛行を繰り返した正人は、砂ドラゴンの体躯がかなり小さくなったと確認をして、自分の攻略方法が水や氷とは別な形の正解だったと、嬉しくも感じた。
「この調子ならっ、一時間もすれば無力化でき…何っ!?」
十五メートル程にまで体積が減った砂ドラゴンの足下周囲が、灼熱の赤い光を放つ。
「あ、足下で光…っ?」
上空から見ると、砂ドラゴンは正人貫通の際に広く散らされた砂をそのまま足下へ放置していて、その薄く広がった砂の絨毯で微振動を起こし、火炎の熱を発生させていたのであった。
「しまったっ!」
正人が自分の失態に気付いた時には、砂ドラゴンは開いた大口を離れた場所の衛士隊へと向けて、強力な火炎を放射。
「火炎防御っ!」
役に立たなくなった魔法の盾で、自分たちと犯罪者たちを護ろうとする衛士隊の前へ、正人は慌てて盾として飛来をした。
「く…っ! 砂ドラゴンっ、僕より頭が良いのかっ?」
迫り来る強力火炎の前に降り立ったマスクのヒーローが、再び強烈な吐息を火炎へとぶつけ、散らして相殺。
そんな、ヒーローが攻撃出来ない隙を突いて、砂ドラゴンは散った砂を再び集めて、身体を再生し始める。
「な、なんだ…っ? 大きくなってる…っ?」
森の大地へと散らばった砂が、触れた地面の砂を自らの一部として取り込んだらしく、全高は二十五メートルを超えていた。
「ァアっアニキィっ! アイツはああやってっ、取り込んだ砂をっ、新たに自分の身体としてっ、活性化しちまうんだよぉっ! だからっ、氷結させて水に沈めてっ、封印するしかないんだよおぉっ!」
「それでは…僕のやり方ではっ、ほぼノーダメではないですかっ!」
「だからっ、こんなイカれドラゴンっ、使っちゃあダメだったんだああっ! ボスのド馬鹿あああっ!」
泣き喚きながら砂ドラゴンの特性を教えてくれる悪党魔法使いも、あらためて、この厄介な生物を復活させたボスを罵る。
より巨体となった砂ドラゴンは、砂が増えた分だけ、更に高温な摩擦熱を起こし易くなったのだろう。
大きく息を吸うような威嚇動作の直後には、大きなお腹だけでなく更に足下に散らばる砂粒絨毯も赤く発光をさせて吸収し、離れていても体内の高熱を感じさせてくる。
気付いたら口から火炎を吐いてきて、正人は皆の盾として、吐息での防御を強いられてしまう。
「わ、我らがもっとっ、距離を開けるっ!」
衛士隊長が衛士隊へと命令を下し、散る火炎を避けながら部隊は更に後退をしてゆく。
巨体になった分だけ歩行速度が遅くなった砂ドラゴンは、それでも衛士隊への攻撃で謎青年の攻撃を不能に出来ると、学んだらしい。
重たい身体を歩ませて衛士隊を追いながら、常に摩擦熱を絶やさず火炎を吐いてくる。
「しかし、砂ドラゴン…っ! これでは、火の化身だっ! 火……あっ!」
すっかり忘れていたけれど、正人はついさっき、街での火炎テロを鎮圧出来る消化魔法を自警団の魔法使いシームに教わって、実行したばかりであった。
「僕の消化魔法でっ!」
正人は吐息で火炎を相殺しながら砂ドラゴンへと飛翔して、目の前に姿を晒して注意を引きつつ、消化魔法を意識する。
淡く光る身体の中で、消化の魔法が生成される感覚があり、すぐに完成。
「むむむむむっ…消えろっ!」
――っ…ザザザザドドドドドドドっ!
消化魔法を強く放つと、正人の周囲から大量の水が発生をして、砂ドラゴンの全身を真上から滝のように、覆い尽くした。
「ぉおっ、なんと魔法も…っ!」
「ァアニキィっ!」
――ッグアアアアアアァァァッ!
大量の水を浴びた砂ドラゴンが、悲鳴にも感じられる咆吼を上げて、周囲は高熱と水分の衝突による水蒸気で白く曇りゆく。
正人の考えでは、とりあえず水を掛けられた砂には水分が染みこんで重くなり、微力な粒は微振動さえ不可能になる。
「どうだ…っぇえっ!?」
と推察をしていたら、完全に違った。
「アニキィっ、それじゃあっ、ダメなんだぁっ!」
――ッドラガアアアアアアッ!
もうもうと立ちのぼる湯気が晴れて姿を見せた砂ドラゴンは、水分を吸い込んでなど全くおらず、むしろ周囲の水蒸気を鬱陶しがっている程度にしか、見えない。
「な、なんでっ?」
砂ドラゴンには水分と氷結魔法。
と言った魔法使いを見ると、やはり絶叫しながら答えてくれた。
「ァアニキの消化魔法はぁっ、火炎魔法への消化でしょおおおおっ!」
「…あっ!」
言われて、理解出来た。
そもそも、街での火炎テロに対して正人が消化魔法を覚えたのは、普通の水では魔法の火炎を消せないからである。
それはつまり、魔法生物と言える砂ドラゴンの起こす火炎自体は、魔法ではなく砂同士の摩擦熱で起こされた、いわゆる「普通の炎」なのだから。
「…普通の火には、消化魔法もまた無力…っていう事かっ!」
「ァアニキ正解いいいっ! アニキィっ、普通の火を消す魔法はっ、知らないのかよおぉっ⁉」
「それは知らない…っ!」
この世界の魔法について、まだまだ知らない事が多い正人である。
――ッグァァァアアアアアッ!
そんな正人を、まるであざ笑うかのような、砂ドラゴンの咆吼だ。
そして砂ドラゴンの本体と言える砂も、また魔法生物ではある。
しかし摩擦での高温を起こせる以上、消化魔法の水だって、アっという間に蒸気と化して無効化させてしまえるのだろう。
だから、なんであれ水だけでなく、水そのものを凍らせる氷結魔法も必要なのだ。
「た、たしかに…なんとも厄介な生き物だ…っ!」
超人パワーを誇る正人にとって、やはり相性の悪い怪物である。
吐き出す火炎を無力化できる正人とはいえ、砂ドラゴンもまた、敵を倒せない事実に直面をしているのだ。
だから、考えたのだろう。
「どうすれば…なにっ!?」
砂ドラゴンが、その形を崩して灼熱する砂粒の川となり、森の木々を抜けて何処かへと流れ進み始めた。
「砂ドラゴンっ…なんだ急に…ハっ!」
流れる先へ視線を向けると、そこにはオドサンの街の高い壁。
「衛士隊長殿っ、砂ドラゴンの流砂がっ、オドサンの街へ向かっていますっ!」
「なっ、なんだとっ!?」
上空から注視している仮面ヒーローの報告に、衛士隊たちにも動揺が広がる。
「追いかけるっ! 全隊っ、何としても街に入れるなっ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
訓練を重ねている衛士隊たちが、隊列を崩さずに全速で流砂を追いかけて、正人も上空から先回りをしながら、考える。
「砂ドラゴン…っ! つくづく僕より頭が良いんだなっ!」
難敵、砂ドラゴンが戦いを放棄した理由は、正人には分からないけれど、街へ向かう理由は推察出来る。
「砂ドラゴンは、オドサン壊滅を狙ったボスの命で復活をしたっ! だから、目的の根っこはオドサンを壊滅させる事…っ!」
流砂という対処し難い敵だけど、正人の超視力は、別の事実も見付けていた。
「砂の命…犠牲にしている…っ?」
衛士隊のように地を走るのではなく、上空から俯瞰できる正人だから、気付けたのだろう。
大量の流砂が通り過ぎると、少ない量の砂が、森の大地へと残されている。
それらは全く動く様子もなく、また魔法生命的な気配も感じられない。
「つまり、あの砂粒は、もう…」
ドラゴン以外の形での活動は、砂ドラゴンにとっても、想像出来ない程の困難なのかも知れない。
「命を削ってまで、オドサンの街を壊滅させたかったのかっ…あのボスはっ!」
その執念の源泉は、正人には全く想像が出来ないけれど。
「しかし、どんな理由があってもっ、街の人々を巻き込む災難など、僕は許さないっ!」
正人の脳裏に浮かぶのは、街で知り合った自警団の人々や、余所者の自分を助けてくれた現場リーダーや仲間たち。
正人の小説を読んで批評し、次の作品を待ってくれている編集技術士のルビジ氏や、主を想う護衛隊長である黒髪のアリス。
そして、正人に良くしてくれて、信用してくれている金髪のお嬢様、シーデリア。
「誰一人だってっ…絶対に護ってみせる…っ!」
流砂と化した砂ドラゴンが、ドラゴン形態へと自身を再構成して破壊活動を再開するとしたら、それは目的地であるオドサンの街へ辿り着いてからだろう。
正人が壁の外へ到着をしたタイミングで、街の衛士隊から新しい部隊が、森の部隊と合流をする為に出動をする直前だった。
「あっ、衛士隊の皆さんっ!」
声を掛けながら、目に痛い色のスーツに身を包んだマスクの青年が、空から着地。
「むっ…なんだねキミは?」
厳しくも知性的な顔に刻まれた皺が、魔法を専門とする衛士隊隊長としての、高い能力を物語っている。
「僕は、アイアン・アダムです! 今、この街に脅威が迫ってますっ!」
「…脅威?」
「あっ、あなたは…っ!」
ヒーローの姿に覚えがあるのは、森の部隊から伝令として街まで早駆けをした、若い男性隊員だ。
「知り合いか?」
「はいっ! 噂の、えぇと…ちょ、超人ですっ! 森で、我々の部隊と連携をしましたっ!」
ハキハキと、しかし猥名は言い辛かったのだろう。
「…そうか、貴殿の噂は聞いている。して、街への脅威とは?」
「はいっ! もうすぐ、砂ドラゴンが…っ!」
珍妙仮面が敵では無いとすぐに理解をしてくれた隊長に、正人は急いで報告をした。
~第三十三話 終わり~
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~
月神世一
ファンタジー
「え、これ戦争? 新作VRゲーじゃなくて?」神速の指先で無自覚に英雄化!
【あらすじ紹介文】
「三色チーズ牛丼、温玉乗せで」
それが、最強の英雄のエネルギー源だった――。
日本での辛い過去(ヤンキー客への恐怖)から逃げ出し、異世界「タロウ国」へ転移した元理髪師の千津牛太(22)。
コミュ障で陰キャな彼が、唯一輝ける場所……それは、大流行中の戦術ボードゲーム『マグナギア』の世界だった!
元世界ランク1位のFPS技術(動体視力)× 天才理髪師の指先(精密操作)。
この二つが融合した時、ただの量産型人形は「神速の殺戮兵器」へと変貌する!
「動きが単調ですね。Botですか?」
路地裏でヤンキーをボコボコにしていたら、その実力を国王に見初められ、軍事用巨大兵器『メガ・ギア』のテストパイロットに!?
本人は「ただのリアルな新作ゲーム」だと思い込んでいるが、彼がコントローラーを握るたび、敵国の騎士団は壊滅し、魔王軍は震え上がり、貧乏アイドルは救われる!
見た目はチー牛、中身は魔王級。
勘違いから始まる、痛快ロボット無双ファンタジー、開幕!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる