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☆第三話 麗しきご招待☆

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 放課後になって、均実は掃除当番ではなかったので、帰宅部。
 カバンを肩に掛けていると、麗が優雅に近づいて来た。
「均実さん♪ もしご用がなければ、ご一緒させて戴いて 宜しいかしら?」
(おおぉ…)
 少し恥ずかしそうな美顔は、周囲が暗いワケでもないのに、清々しく輝いて見える。
「は、はい。こちらこそ、ヨロシクお願いいたしますです…っ!」
「嬉しいです♪」
 また輝く笑顔をくれる麗と一緒に、均実は教室から玄関へと向かった。
 退出をする教室でも、廊下でも、均実は生徒たちの視線を奪って止まない。
 少し後ろで隣を歩く均実へ、嫉妬の眼差しが向けられてしまうかと、ビクビクしていたけれど。
(…みんな、凄く笑顔…)
 均実はまだ知らないけれど、生徒たちはみな麗に好意を抱いていて、麗の行動は無条件に認めてしまう。
 なので、麗が誰に話しかけても、嫉妬する生徒はいないのである。
 ついでに、麗は誰とでも笑顔の挨拶をかわすので、みんなそれで幸せ気分なのも事実であった。
 下駄箱で、小さな脚を片方ずつ靴へと通す履き替えの仕草も、優雅で儚げで美しくて輝いている。
 細い身体を傾けた際の、豊かなツインテールがフワ…と揺れる媚顔など、もはや天使いがいの何ものでも無い。
(ああぁ…天然美少女…っ!)
 中性的なボディーラインであっても女子の筈だと自覚をしている均実は、新しい扉が開かれてしまう甘美な淫堕を感じたり。
「均実さんは、どこのクラブに所属されるのですか?」
 校門へ向かいながら、麗は無垢な興味の笑顔で尋ねてくる。
「と、特には…。私、その…運動とか苦手ですし…。文系や理系も、その…特に得意とかでは、ありませんので…」
「まあ…」
 美少女を前に、自分の現実を告白させられている。
(一発で呆れられてしまうような話を…私はバカだ…)
 と解っているのに嘘がつけない、麗は不思議で聖なる美少女だ。
「それでは、明日からも 私と一緒に帰宅、出来ますのね♪」
「え…わっ!」
 呆れられるどころか、麗しい愛顔をクっと近づけて、心の底から嬉しそうな笑顔。
 目の前数センチという超近距離で、穢れのない麗のキラキラと神々しい眼差しに見つめられた、超一般人な瞳は。
(…か、可愛い…っ!)
 思わず両腕が勝手に動いて、細い肩を抱き締めてしまいそうになったり。
「――ハっ!」
 危うく痴漢行為で逮捕される懸案。
 美少女に信頼されて接近をされる男子の苦悩が、初めて理解できた均実であった。
 二人とも、駅へ向かっている。
「そういえば、均実さんは 電車通学なのかしら?」
「はい。引っ越してきたのは、ここの隣街ですので。駅はここから四つ隣の柏平丘駅(かしわひらおか)で、更に乗り換えて五つ目の…えっと…」
「もしかして、碌城塚(ろくじょうづか)駅でしょうか?」
「あ、はいそうです。そこが うちから一番近い駅です」
 最寄り駅を聞いた麗は、輝く様な驚きの美顔。
「まぁ…、私、そのお隣の東碌城塚(ひがしろくじょうづか)駅から、通ってますの♪」
「そうなんですか!」
 まだ駅名も覚えていない均実でも、最寄り駅がお隣同士という偶然には、驚かされる。
 麗も、嬉しそうに眩しい笑みを見せてくれた。
「まあ…素敵な偶然ですわ♪ 同じ沿線のお友達…私、初めてですわ♪」
 ニコ…と少し近寄りながら、爽やかで涼しげで暖かな、そんな複雑だけど心地良い音が聞こえてきそうな程の、麗の微笑みだ。
(はぅっ――こ、心が射貫かれて…っ!)
 思わずまた、両肩に手を添えてしまいそうになった均実であった。

 二週間ほどが過ぎると、均実もすっかりクラスの一員である。
 放課後にみんなと寄り道をしたり、日曜日に一緒に出かけたり、お互いの家へ遊びに行ったり。
 午後の授業も終わって、今日は均実も麗も掃除当番ではない。
 帰り支度をしていると、隣の席の麗が、少し恥ずかしそうに尋ねてきた。
「均実さん、その…」
「はい」
 豊かに艶めくツインテールをユラユラさせながらの、少しだけ恥ずかしそうな媚顔も、つい抱き締めたくなる程に愛らしい。
「今日の夜…私のお部屋で、パジャマパーティーを催したいと 考えてますの」
「パ、パジャマパティー…」
 ツインテール美少女の声に、女子たちの殆どが期待にザワめき、男子たちは涙。
 麗は、女子たちへ声を掛ける。
「皆さんも、いらしてくださるかし――」
「「「「「は~いっ?」」」」」
 女子の殆どが食い気味に即答をし、塾などの用事がある一部の女子たちは、絶対に呼ばれない男子たち以上に、涙で咽ぶ。
 みんなが来てくれる喜びに微笑む麗が、再び均実へと振り向いて。
「ですので、均実さんも いらしてくださると、嬉しいのですけれど…」
 パジャマパーティーという、女子ならではの楽しい夜会など、人生で一度も経験したことの無い均実である。
 中学の時の修学旅行で同室の女子たちと夜中までしゃべっていた歳の服装は、パジャマではなくジャージだったので、楽しかったけれどあれはジャージパーティーである。
(女子たちで集まって、みんなパジャマで…)
 想像すると、とても楽しそうで、しかも余所様の家でお泊まりなんて、凄く大人になったようなワクワク感だ。
「いっ行きたいです…っ! その、い、良いんですかっ?」
 誘われた側が、必死にお願いをしていた。
「まあぁ…私こそ、とてもとても 楽しみですわ?」
 こうして、麗と均実とクラスの女子たちが今夜、パジャマパーティーを楽しむ事となった。

「じゃあ、行ってきま~す」
 親の許可を貰えた均実は、お泊まりの支度をして出発。
 制服はミニスカートだけど、普段着はショートパンツが多い少女は、今日もお気に入りのパーカーを羽織った、ちょっとボーイッシュなスタイルである。
「たしか、隣の東碌城塚駅だっけ」
 家の場所は解らないだろうと、麗は東碌城駅で、待ち合わせをしてくれていた。
 遅刻しないよう、少し早く電車へ乗って、隣駅へと到着。
 改札が出ると、駅名のイメージに比べて、なんだか庶民派よりも上品な感じのベッドタウンだった。
「わぁ…ウチの駅の方が、商店街とか庶民派な感じだ…」
 初めて見る景色にキョロキョロしていたら、背後から声を掛けられる。
「均実さん♪」
「ああ、麗さん…はぅっ!」
 待っていてくれたらしい少女は、白いワンピースにロングヘアスタイルという、清楚以上の涼やかな女神と見紛うばかりの姿だった。
「う、麗さん…なんて、神々しい…っ!」
 眩しすぎて、目が潰れてしまいそうだ。
「ありがとう、均実さん♪ 均実さんも、凜とされていて…とても素敵ですわ?」
「ど、どうも…うぅ…っ!」
 思わず縮こまってしまう程の賞賛を貰って、アワアワするものの、しかし大きな瞳がウットリとしている美顔を見て、ただの挨拶以上に認めて貰えているのでは、と思って更に焦る。
「均実さんがいらして下さって、とても嬉しいですわ♪ さあ、まいりましょうか♪」
「は、はい…っ!」
 質素ながら華やかな純白お嬢様に招かれて、均実は無意識にも、脚がフラフラとついて行く。
「少し 駅前より距離がありますが、道は真っ直ぐですので、迷われる事はないと思いますわ♪」
「はい…」
 クラスの女子たちというか、全学年の生徒たちはみな、麗の実家を知っているので、家を知らない均実を、麗がわざわざ迎えに来てくれたのだ。
(あぁ…超平均で地味な一般人に過ぎない私に、こんな可愛らしくて美しい友達が出来るなんて…?)
 写真を沢山撮って、引っ越し前の友達みんなに自慢したいくらいだ。
 歩き始めて五分。
 静かな住宅街には全く相応しくない、野太い複数人の男性ボイスな笑い声が、聞こえてきた。

                        ~第三話 終わり~
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