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アールグレイティーの香り
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ダメだってわかってる恋ほど、燃え、夢中になっていつしか堕ちてゆく。
そんな罪深い何かに囚われたある1人の男子高校生が贈る綿密な青春の1ページ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
2021年冬。例年より寒波が厳しく、より冷え込む時期。
文化祭2日目の夜、校庭で行われた創立記念を祝う打ち上げ花火と共に颯太は優奈に告白された。
颯太にとって特別な彼女は、中学2年生の冬から募る片思いが2年間の時を経て実を結ぶ結果となる。
「小鳥遊くん、あのね。去年からずっと…」
テンプレである。
颯太は少し複雑になった。
--去年からかよ。2年前からずっと両想いってシナリオが1番嬉しかったのに…
「薬師寺さん。実は俺も2年前からずっと」
体育館の向こうでは全校生徒の雑踏と10月末の空を彩る華が咲き散り、火薬の香りは鼻腔を温めた。
閉じる瞼、冬の寒さなのか…はたまた想いを伝えた恥じらいか。
彼女の耳は朱色に染まり頬は赤らめ何かを待っている。
「付き合ってください………」
触れ合う唇と少し震える華奢な肩は薄氷の様に崩れそうで儚く脆く守りたくなる。
普段は白みがかったボブは、花火の色彩の中でサラサラと太陽光を反射しながら降りる雪の様にその表情を変えながら揺れる。
控えめな胸元に綺麗なオーシャンブルーの瞳。ぷくりとした唇。白く儚い肌の首元はマフラーで見えづらい。
冬の生まれ変わりの様なその容姿と少しの打算から来るあざとさに惹かれ、ここまで颯太は来た。
「んっ…」
離れまいと優奈は颯太の腰に腕を回す。まだこの時間を2人のものに、2人だけの空間に留めようとゆっくりと力強く抱き寄せる。
まるでこの瞬間を待ち侘びて、もはや呆れたと言わんばかりに。
「薬師寺さん…人来ちゃう」
「まだ…少しだけ。小鳥遊く……いや颯太くん。お願い」
お願いというある種の弾薬を、そのあざとさと言う武器に装填し颯太の理性を吹き飛ばす。それも容赦なく。
もちろん颯太は今までそんな経験など微塵もない。反応もしてしまう、健全だ。
「下の名前でいきなり…」
熱烈な口付けを交わし、すっかりいい雰囲気の2人。互いの額を合わせ、メリーゴーランドように体育館裏の2人はゆっくりと回る。
「付き合ってるんだし、いいでしょ?」
こうして高校1年生の冬。小鳥遊颯太と薬師寺優奈は晴れてお付き合いをすることになったのだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ぐわぁぁあああ」
日常的に颯太が来店するカフェのいつも座る席のいつものテーブルに頭を勢いよく突っ伏す。
ティーカップが少しガタンと音を立てたが今の颯太には些細な問題でしかなかった。
「どーしたんだよ、今日も変だぞ」
颯太の親友、理沙。弓道部1年のリーダーで女子に人気。女の子みたいな名前だが学年1番人気の男子。
高校1年生でありながら176cmを誇り、まだ成長段階にある。短髪でチャラそうな見た目とは裏腹に、袴を履けば眼光は鋭く的を射る。
そんな颯太の幼馴染は、呑気にチョコレートパフェを頬張っていた。
「優奈が最近変なんだよな…」
ため息をつく颯太に拍子抜けな理沙
「俺は惚気を聞かされに来たのか?」
今日はオフという事を理沙の彼女から聞いていた颯太はこの機を逃すまいと呼び出ししたのだ。
ちなみに理沙の彼女は弓道部のマネージャーである。
颯太は呆れ顔の理沙を横目に少しため息をついた。
「違ぇよ。そーゆんじゃなくて」
毎日来るカフェの毎日頼むアールグレイティーの1口を嗜み、続ける。
「ここ数日異様に甘えてくるんだ。」
理沙は口を噤んで下唇を淡く噛む。
惚気じゃねぇか
「帰る。」
「待ってよ!」
荷物をまとめて立ち去ろうとする理沙を颯太は涙ぐみながら肩を掴む。
すると理沙は般若のような形相で振り向き口を開いた。
「何が甘えてくるじゃボケェ!よくそんな真面目な顔して惚気けられんなこの野郎。弓矢で目ん玉ほじくってやろうかぁあ!」
颯太が掴む肩を引き剥がそうと格闘を始めた。
「惚気聴きに来たんじゃねぇんだよ俺は!この後彼女と予定があんだから!」
掴む手を引き剥がして一蹴、しかし引き剥がした腕は腰をホールドした。
「ほじくるなら…!弓要らないだろっ…!」
「………そこかよ」
変な所にツッコミを入れられスンっとなる理沙。
パフェもまだ食べ終わってないので一旦席についてパフェをまた頬張る事にした。
「とにかく聞いてくれ…お前にしか相談できないんだよ」
さっきのじゃれあいで少し疲れたのか肩で呼吸をする颯太。またアールグレイティーを1口。
「なんで俺だけなんだよ」
「友達がいないから」
「ごめん」
--それはほんとごめん。なんかこう…他にも友達がいると思ったんだ。
「今まで付き合ってきて、もう3ヶ月。明日で2月が始まるぞ…。普通倦怠期ってもんが来るんじゃないのか?」
つまり颯太は倦怠期が来なくて悩んでいる。乳歯がいつまでも抜けないと言うくらいのレベルの事だが、颯太は至って真剣な表情で理沙に問う。
「ブブッっ…」
それが理沙のツボに入る。笑っちゃいけない。本人は至って真剣なのだから。
それが更なる笑いを引き起こし加速させる。
笑ってはいけないシチュエーションこそ笑いというものは牙を剥くのだ。
肩がわなわな震えて今にも吹き出しそうである。
「なっ…!何がおかしいんだよ!」
ガタンとテーブルを叩いて立ち上がる颯太。
それでも理沙の笑いは治まることを知らない。
そこに1人、20代のエプロンを付けた女性が卓に近付いてきた。
「颯ちゃん、さっきからうるさいぞ」
「いたっ…ごめんなさい香織姉…」
落ち着いた黒髪はウルフカット。しかし垣間見える清楚がアクセントとして効く。
活発さ、清廉さ、そしてほんのちょっとの悪戯心が伺える。
白のシャツとスキニーでエプロンの下からでも主張を忘れず、出るところはしっかり出ていて、まさにスタイルのいい大学生の様な肉付きをしている。
噂によると高校生の頃からモテモテで文化祭のミスコンで3年連続優勝したとか。
颯太、理沙が通う高校の先輩である。
個人経営の隠れ家カフェ、店員の香織。看板娘。
高校卒業と同時にこのカフェに就職。
経緯は高校生の時からバイトで働いていたこのカフェを気に入り店長に直談判して就業したという訳だ。
常連の颯太とはあだ名で呼び合う仲でまるで兄弟みたいなものだった。
「理沙くんもだよ、少しはここがカフェって事に気を使ってくれない?」
あざとい要素は皆無、片手に持っていたトレンチで軽く叩かれて2人はしょんぼり。
「で?颯ちゃんの彼女さんが甘えたになったんだー?ふーん」
「聞いてたのかよ」
隠れ家カフェなので知る人ぞ知る。今は客は颯太と理沙の1組。
カウンターから持ってきた少し背の高い椅子を卓に持ってきて香織は座る。
「何座ってんの」
「面白そうじゃーん聞かしてよ」
ニヤニヤしながら颯太の相談話を聞く姿勢に入る香織。
足を組み、話せと顎で使う。
理沙はその頃必死になってパフェを食べていた。理沙にとって香織は苦手なタイプだったのだ。
年上苦手なタイプ。静かになった。
「優奈ってなんか今まではスキンシップも求めてこなかったんだよ」
アールグレイティーを完飲し、程よく身体が暖まる。
「でも最近になって手を繋いで来たり、くっ付いて離れなかったり。人が変わったように甘えてくるんだよ…普通段階をおうものじゃないのか?」
颯太はテーブルに頬杖をつく。初めての事でかなり考え込んでいた。
「んー、そのゆーなさん?とは会った事無いから何も言えないけどさ」
香織は持っていたトレンチを持って、まだアールグレイティーの香りが残った陶器と夢中で食べ終えた理沙のパフェグラスを乗せ、カウンター内のシンクに持ってゆく。
「あっ……あざす」
理沙は軽く会釈をして荷物を纏め始め、香織は目もくれずチャカチャカと皿洗いを始めた。
「颯ちゃんが何もしなかったんじゃないの?」
「何も…?てかおい理沙帰るの?」
「え、香織さんが相手してくれるんだろ?俺彼女とこの後デートだから!じゃな」
--え、はや。帰るのはや。
そそくさと理沙はアンティーク調のドアを開けてどこかへ行ってしまう。
「あらら、お友達帰っちゃったね」
「……うん」
香織が皿を洗う水音がしんみりと店内を包む。
「ねぇ、香織姉?」
「んー?」
優しい口調の彼女。窓際に座る颯太が黒髪で見えず、首を使って前髪を退かす。
「何もしなかったってさどういう事なの?さっき言ってたじゃん」
「そのままの意味だよ、付き合ってきた3ヶ月間は颯ちゃんからなにか優奈さんにしたの?」
彼女は皿洗いを終え、ペーパータオルで腕まくりした白い手を拭く。
「何かって…手を繋いだりしたかってこと?」
「意外とウブだよねぇー颯ちゃん」
さっきのカウンター用の椅子に腰掛け、疲れたーと目頭を香織は押さえる。
「さっき段階がなんたら言ってたけどね、颯ちゃん。君が1段階目も踏んでないのに段階なんて一丁前に言わないんだよ」
ピシャリと言われてしまった。
颯太は鼻の奥に残るアールグレイティーの香りを感じる。
「俺が何もしなかったから…急に甘えてくるのか」
「多分ねー?私が彼女ならもう怒ってるね」
もうこうやってこうだ!と言いながら何故か香織はシャドーボクシングっぽい動きをする。
「颯ちゃんはその甘えモードを拒否してないよね?」
「そ、それはしてない!ちゃんと相手の欲求を満たせる……」
被せて香織は言う。
「欲求て」
彼女はんーと声を漏らしながら伸び、椅子から立ち上がる。
「欲求満たせるように努力するのが颯ちゃんにとっての彼氏なの?」
「いや…」
「まぁいいと思うけど、そんな関係だったら」
香織はカウンター内に向かいながら背にあるエプロンの結び目を解く。
「破綻するよ?」
謎に説教をされている気分になった颯太は少し腹ただしい。
ただ相談をして、共感を得て、少し為になる話を聞く為だった。
1から10も20も飛躍した未来の話を突きつけられに来た訳ではない。
「わ、分かったよ…ありがとう。香織姉……頑張って俺からも求めてみる。そしたら何か変わるかもだし」
とりあえず今日の所は退散したいと考える颯太は荷物を纏める。
「まぁ、そうしてみな。上手くいかなかったらお姉ちゃんが話聞いたげるよ」
エプロンを畳み、香織は小さなレジに立っていた。
「分かった、色々やってみるよ」
アールグレイティーの値段は友達価格で300円、半額である。
硬貨3枚をレザーのトレイに載せた。
「あと700円。」
「は?」
「お友達の分」
「殺す」
紙幣叩きつけた。
そんな罪深い何かに囚われたある1人の男子高校生が贈る綿密な青春の1ページ。
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2021年冬。例年より寒波が厳しく、より冷え込む時期。
文化祭2日目の夜、校庭で行われた創立記念を祝う打ち上げ花火と共に颯太は優奈に告白された。
颯太にとって特別な彼女は、中学2年生の冬から募る片思いが2年間の時を経て実を結ぶ結果となる。
「小鳥遊くん、あのね。去年からずっと…」
テンプレである。
颯太は少し複雑になった。
--去年からかよ。2年前からずっと両想いってシナリオが1番嬉しかったのに…
「薬師寺さん。実は俺も2年前からずっと」
体育館の向こうでは全校生徒の雑踏と10月末の空を彩る華が咲き散り、火薬の香りは鼻腔を温めた。
閉じる瞼、冬の寒さなのか…はたまた想いを伝えた恥じらいか。
彼女の耳は朱色に染まり頬は赤らめ何かを待っている。
「付き合ってください………」
触れ合う唇と少し震える華奢な肩は薄氷の様に崩れそうで儚く脆く守りたくなる。
普段は白みがかったボブは、花火の色彩の中でサラサラと太陽光を反射しながら降りる雪の様にその表情を変えながら揺れる。
控えめな胸元に綺麗なオーシャンブルーの瞳。ぷくりとした唇。白く儚い肌の首元はマフラーで見えづらい。
冬の生まれ変わりの様なその容姿と少しの打算から来るあざとさに惹かれ、ここまで颯太は来た。
「んっ…」
離れまいと優奈は颯太の腰に腕を回す。まだこの時間を2人のものに、2人だけの空間に留めようとゆっくりと力強く抱き寄せる。
まるでこの瞬間を待ち侘びて、もはや呆れたと言わんばかりに。
「薬師寺さん…人来ちゃう」
「まだ…少しだけ。小鳥遊く……いや颯太くん。お願い」
お願いというある種の弾薬を、そのあざとさと言う武器に装填し颯太の理性を吹き飛ばす。それも容赦なく。
もちろん颯太は今までそんな経験など微塵もない。反応もしてしまう、健全だ。
「下の名前でいきなり…」
熱烈な口付けを交わし、すっかりいい雰囲気の2人。互いの額を合わせ、メリーゴーランドように体育館裏の2人はゆっくりと回る。
「付き合ってるんだし、いいでしょ?」
こうして高校1年生の冬。小鳥遊颯太と薬師寺優奈は晴れてお付き合いをすることになったのだ。
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「ぐわぁぁあああ」
日常的に颯太が来店するカフェのいつも座る席のいつものテーブルに頭を勢いよく突っ伏す。
ティーカップが少しガタンと音を立てたが今の颯太には些細な問題でしかなかった。
「どーしたんだよ、今日も変だぞ」
颯太の親友、理沙。弓道部1年のリーダーで女子に人気。女の子みたいな名前だが学年1番人気の男子。
高校1年生でありながら176cmを誇り、まだ成長段階にある。短髪でチャラそうな見た目とは裏腹に、袴を履けば眼光は鋭く的を射る。
そんな颯太の幼馴染は、呑気にチョコレートパフェを頬張っていた。
「優奈が最近変なんだよな…」
ため息をつく颯太に拍子抜けな理沙
「俺は惚気を聞かされに来たのか?」
今日はオフという事を理沙の彼女から聞いていた颯太はこの機を逃すまいと呼び出ししたのだ。
ちなみに理沙の彼女は弓道部のマネージャーである。
颯太は呆れ顔の理沙を横目に少しため息をついた。
「違ぇよ。そーゆんじゃなくて」
毎日来るカフェの毎日頼むアールグレイティーの1口を嗜み、続ける。
「ここ数日異様に甘えてくるんだ。」
理沙は口を噤んで下唇を淡く噛む。
惚気じゃねぇか
「帰る。」
「待ってよ!」
荷物をまとめて立ち去ろうとする理沙を颯太は涙ぐみながら肩を掴む。
すると理沙は般若のような形相で振り向き口を開いた。
「何が甘えてくるじゃボケェ!よくそんな真面目な顔して惚気けられんなこの野郎。弓矢で目ん玉ほじくってやろうかぁあ!」
颯太が掴む肩を引き剥がそうと格闘を始めた。
「惚気聴きに来たんじゃねぇんだよ俺は!この後彼女と予定があんだから!」
掴む手を引き剥がして一蹴、しかし引き剥がした腕は腰をホールドした。
「ほじくるなら…!弓要らないだろっ…!」
「………そこかよ」
変な所にツッコミを入れられスンっとなる理沙。
パフェもまだ食べ終わってないので一旦席についてパフェをまた頬張る事にした。
「とにかく聞いてくれ…お前にしか相談できないんだよ」
さっきのじゃれあいで少し疲れたのか肩で呼吸をする颯太。またアールグレイティーを1口。
「なんで俺だけなんだよ」
「友達がいないから」
「ごめん」
--それはほんとごめん。なんかこう…他にも友達がいると思ったんだ。
「今まで付き合ってきて、もう3ヶ月。明日で2月が始まるぞ…。普通倦怠期ってもんが来るんじゃないのか?」
つまり颯太は倦怠期が来なくて悩んでいる。乳歯がいつまでも抜けないと言うくらいのレベルの事だが、颯太は至って真剣な表情で理沙に問う。
「ブブッっ…」
それが理沙のツボに入る。笑っちゃいけない。本人は至って真剣なのだから。
それが更なる笑いを引き起こし加速させる。
笑ってはいけないシチュエーションこそ笑いというものは牙を剥くのだ。
肩がわなわな震えて今にも吹き出しそうである。
「なっ…!何がおかしいんだよ!」
ガタンとテーブルを叩いて立ち上がる颯太。
それでも理沙の笑いは治まることを知らない。
そこに1人、20代のエプロンを付けた女性が卓に近付いてきた。
「颯ちゃん、さっきからうるさいぞ」
「いたっ…ごめんなさい香織姉…」
落ち着いた黒髪はウルフカット。しかし垣間見える清楚がアクセントとして効く。
活発さ、清廉さ、そしてほんのちょっとの悪戯心が伺える。
白のシャツとスキニーでエプロンの下からでも主張を忘れず、出るところはしっかり出ていて、まさにスタイルのいい大学生の様な肉付きをしている。
噂によると高校生の頃からモテモテで文化祭のミスコンで3年連続優勝したとか。
颯太、理沙が通う高校の先輩である。
個人経営の隠れ家カフェ、店員の香織。看板娘。
高校卒業と同時にこのカフェに就職。
経緯は高校生の時からバイトで働いていたこのカフェを気に入り店長に直談判して就業したという訳だ。
常連の颯太とはあだ名で呼び合う仲でまるで兄弟みたいなものだった。
「理沙くんもだよ、少しはここがカフェって事に気を使ってくれない?」
あざとい要素は皆無、片手に持っていたトレンチで軽く叩かれて2人はしょんぼり。
「で?颯ちゃんの彼女さんが甘えたになったんだー?ふーん」
「聞いてたのかよ」
隠れ家カフェなので知る人ぞ知る。今は客は颯太と理沙の1組。
カウンターから持ってきた少し背の高い椅子を卓に持ってきて香織は座る。
「何座ってんの」
「面白そうじゃーん聞かしてよ」
ニヤニヤしながら颯太の相談話を聞く姿勢に入る香織。
足を組み、話せと顎で使う。
理沙はその頃必死になってパフェを食べていた。理沙にとって香織は苦手なタイプだったのだ。
年上苦手なタイプ。静かになった。
「優奈ってなんか今まではスキンシップも求めてこなかったんだよ」
アールグレイティーを完飲し、程よく身体が暖まる。
「でも最近になって手を繋いで来たり、くっ付いて離れなかったり。人が変わったように甘えてくるんだよ…普通段階をおうものじゃないのか?」
颯太はテーブルに頬杖をつく。初めての事でかなり考え込んでいた。
「んー、そのゆーなさん?とは会った事無いから何も言えないけどさ」
香織は持っていたトレンチを持って、まだアールグレイティーの香りが残った陶器と夢中で食べ終えた理沙のパフェグラスを乗せ、カウンター内のシンクに持ってゆく。
「あっ……あざす」
理沙は軽く会釈をして荷物を纏め始め、香織は目もくれずチャカチャカと皿洗いを始めた。
「颯ちゃんが何もしなかったんじゃないの?」
「何も…?てかおい理沙帰るの?」
「え、香織さんが相手してくれるんだろ?俺彼女とこの後デートだから!じゃな」
--え、はや。帰るのはや。
そそくさと理沙はアンティーク調のドアを開けてどこかへ行ってしまう。
「あらら、お友達帰っちゃったね」
「……うん」
香織が皿を洗う水音がしんみりと店内を包む。
「ねぇ、香織姉?」
「んー?」
優しい口調の彼女。窓際に座る颯太が黒髪で見えず、首を使って前髪を退かす。
「何もしなかったってさどういう事なの?さっき言ってたじゃん」
「そのままの意味だよ、付き合ってきた3ヶ月間は颯ちゃんからなにか優奈さんにしたの?」
彼女は皿洗いを終え、ペーパータオルで腕まくりした白い手を拭く。
「何かって…手を繋いだりしたかってこと?」
「意外とウブだよねぇー颯ちゃん」
さっきのカウンター用の椅子に腰掛け、疲れたーと目頭を香織は押さえる。
「さっき段階がなんたら言ってたけどね、颯ちゃん。君が1段階目も踏んでないのに段階なんて一丁前に言わないんだよ」
ピシャリと言われてしまった。
颯太は鼻の奥に残るアールグレイティーの香りを感じる。
「俺が何もしなかったから…急に甘えてくるのか」
「多分ねー?私が彼女ならもう怒ってるね」
もうこうやってこうだ!と言いながら何故か香織はシャドーボクシングっぽい動きをする。
「颯ちゃんはその甘えモードを拒否してないよね?」
「そ、それはしてない!ちゃんと相手の欲求を満たせる……」
被せて香織は言う。
「欲求て」
彼女はんーと声を漏らしながら伸び、椅子から立ち上がる。
「欲求満たせるように努力するのが颯ちゃんにとっての彼氏なの?」
「いや…」
「まぁいいと思うけど、そんな関係だったら」
香織はカウンター内に向かいながら背にあるエプロンの結び目を解く。
「破綻するよ?」
謎に説教をされている気分になった颯太は少し腹ただしい。
ただ相談をして、共感を得て、少し為になる話を聞く為だった。
1から10も20も飛躍した未来の話を突きつけられに来た訳ではない。
「わ、分かったよ…ありがとう。香織姉……頑張って俺からも求めてみる。そしたら何か変わるかもだし」
とりあえず今日の所は退散したいと考える颯太は荷物を纏める。
「まぁ、そうしてみな。上手くいかなかったらお姉ちゃんが話聞いたげるよ」
エプロンを畳み、香織は小さなレジに立っていた。
「分かった、色々やってみるよ」
アールグレイティーの値段は友達価格で300円、半額である。
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