デュランタのままに

KOsiAN

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通知音

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あれから数時間後、業務終了のお時間だ。

「よしっ、終わりっ」

レジの締め作業を終え、店裏のロッカーへ向かう。
店裏には保存状態が良好な紅茶葉が大量に保管されていて、落ち着く木造の雰囲気を纏う。
店長のコレクションでもある。

「あ、そだそだ」

彼女はスマホを取り出しメッセージアプリを起動、香織自身を含め計4人、カフェジャスミンのグループである。

「今日の売上と業務終了報告忘れたら給料出ないとか普通にブラックだよな…いつか訴えてやる」

香織は仕事着から私服に着替える。
黒のブーツカット白のトップス、上にはブラウンのトレンチコートを羽織る。
店の戸締りを確認し、白い息を吐きながら帰路を辿る。

--にしても、颯ちゃんに彼女。そんで私に相談してきやがった。なんて奴だ。

「私も一丁前に偉そうな事言ってさぁ…」

すっかり日も落ちて空が澄むこの時期、星なんて見ようと香織は天を仰ぐも生憎の曇りだった。

「本気で人を好きになるってなんか」

--バカバカしい。

何故か彼女にその言葉は重苦しもので簡単に口にしていいとは思えなかった。

--今日、私変だな。

一人暮らしのマンションで生活もなに不自由なく快適に過ごせている。
貯金もあるし、未来に不安なんてない。
22歳、社会人そろそろ4年目にしてはお金を持っている方。強いて言うなら税金の搾取だ。
…………だが思い返せば孤独だった。
颯太の様な若い世代の近くに居たからか、紛れたが香織を支配してゆく。
颯太は3ヶ月前付き合い始めた彼女と今更ながらしっかりと向き合う事を今日再認識させられた。

--あぁ…やっぱ。寂しいなぁ

香織がカフェジャスミンでバイトを始めた16歳の頃、颯太はまだ10歳である。それほどまでに年の差があるにも関わらず案外彼に依存していた事を知った。

--仕事と家の行き来で出会いもなし。出会い系とかやった方がいいのかなぁ

帰路を辿る彼女の背中は今までで1番酷く丸まっている。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「あぃ、ただいまー」

香織は誰も居ない部屋に向かって挨拶をする。帰りに買った野菜やら肉やらを適当に冷蔵庫に放り込み、使いかけの野菜と昨日の豚肉を取り出す。
シンク近くに乱雑に置き、コートを脱いだ。

「なにしよっかな…」

食欲のない彼女はインスタントに温まるものが夜ご飯には最適である。

「豚汁だ」

包丁を取り出し、芋、肉、その他の具を適当に切る。鍋にまた適当に入れて、適当に火にかけて煮た。
適当一人暮らし豚汁である。

「ん」

手を合わせて、箸を持つ。ローテーブルにあるスマホスタンドにスマホを立てかけドラマの続きを見る。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「おもろ」

見終わった。職場の後輩が勧めてきた医療ドラマだかなかなかにハラハラさせてくれる。

--どうせ助かるんだろとかおもった私ってほんと面白くない大人になったんだなー。
はーやだやだ
今日は風呂に入ってゆっくりしよう。いつもの事だけども…。
今日はちょっと変に疲れたな。

香織はローテーブルにある食器を持ってキッチンに進み皿洗いは食洗機に頼む。
仕事でも家でも皿洗いはごめんだ。
その時スマホがピロリとなった。いつも使っているメッセージアプリだった。

「ん?」

メッセージアプリで普段使うのは親、職場、たまに颯ちゃん位でこんな時間に通知が来るのはおかしいのだ。

「颯ちゃん別にこんな時間になぁ」

颯ちゃんとは何回か出掛けたりした事がある。その時の連絡程度で交換してたまに少し雑談をメッセージとしてやり取りする程度。疑問に思いつつローテーブルに置いてあるスマホを覗く。

香織は心臓が掴まれた様な感覚に襲われた。

太一【暇?】

「太一…?」

メッセージを送ってきたのは高校生の時の同級生、太一だった。
元交際相手でもないただのクラスメイトだった彼から何故このタイミングで連絡が来るのか。

「まさか…そんなね…」

脳裏に蘇る記憶

香織【暇】
太一【お、そっか今から会わない?】

即返信。既読も早かった。
「んだこいつ?そもそもこいつ…」

香織【なんで】
太一【久しぶりに顔みたくて元気してんの?】
香織【してるし】
太一【そっか】
香織【大学は?】
太一【辞めて今は働いてる】
香織【そうなんだ】
太一【香織まだお前あん時位胸、デケェの?】
香織【会わないよ】
太一【あれから他の奴とヤった?】

胸騒ぎがした。

香織【言う必要ないよね、キモイんだけど】
太一【ごめんごめん笑】
香織【会わないよ】
太一【いいの?会わなくて】

心臓の鼓動が早まる。ドクンドクンと音が聴こえて、鼓膜が張り裂けそうだ。
暑いのか寒いのか体温の感覚が狂って、目眩が襲う。

-ピロン

太一【近所のコンビニ住所送ってよ】

「なんでこんな時に…」

香織【迎えに来てくれんだ?】
太一【うん】

--あー。これ…ダメなやつだ。分かってるのに。分かってるのに…ダメだ

香織【ここ】
太一【待ってるな】

気が付くと香織は肩で呼吸をしていた。
苦しい、怖い。あいつはまだ持っていたのだ。
時刻は夜23時。幸いなのか不幸なのか明日のシフトは入っていない。休みである。

世の中というのは上手く出来ていて、嫌な事は連続して連なって起こるものだ。
それを経験するととてもじゃ無いがまともな精神状態でやって行ける訳が無い。
不幸な事は、連なりを持って起こる必然だ。

指先が震えて、断りを入れなければと分かっていても恐怖よりも香織の中をもっと強く支配する感情が彼女の背中を容赦なく押した。

--寂しい…。

香織【うん。すぐ行く】

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