デュランタのままに

KOsiAN

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必然で理不尽な不幸

貴方は唯一無二

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「こんな事するやつなんて思わなかった」

失望、呆れ、色々な色が混ざった気色悪い顔色を向けて私に訊く。

「なんでこんなことを…?」

何も言う事なんてない。私はただ君に、愛されたかった。ただ抱きしめて欲しかった。
その言葉は私が言いたいよ。なんでこんなことって。
今までこんな事をされて…その仕打ちがこれなんだ…。私が一体何をしたんだ。
神様なんているのか?居たら教えてくれよ、私なんてなんの意味があるんだよ。

「魔が。差しただけ」

私がそう答えると彼は歯を噛み締めて、私の胸ぐらを掴む。ブレザーが痛むだろう。やめてくれ。

「もういいよ、じゃぁな」

血管が浮き上がる彼の手から諦めの脱力を感じ、ストンと壁を這うように膝から私は落ちる。
放課後の変哲もない廊下。
ここで私と、2年間付き合った彼との最期の時間だった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あれは今日みたいな冬だった。中途半端な寒さで白い息が出ない寒い冬。
イルミネーションが輝く夜、近所の駅のライトアップを横目に寒いくせそれを理由に繋がりたくて。その肌に触れたくて、芝生の上を座って何も見えない夜空を意味もなく見上げていた日だった。

「俺らってなんなんだろな」
「友達」

私はカーストの上の方にいた方で、自分で言うのもあれだが可愛いと思う。
逆に可愛いと思わないと人生はつまらない。自分で自分の機嫌を取らないと面白くない。

「友達かぁー」

後ろに手を着いて彼は天を仰ぐ。喉仏に少しキュンとした。
そう、私は彼の事が好きなのだ。
私は彼が好き。高校生なんて好きな人の言い合いで先に言ったもん勝ちで、数ヶ月前の女子お泊まり会である女の子が彼の事を好きと言った。
なら手は出さず、じっとしておくべきなのも分かっている。

「うん」

この雰囲気、次に言われる言葉は分かっている。

「俺はそんな事もう思いたくない」

分かってる。やめてくれ、それ以上は。
彼は深呼吸をして、目を閉じる。
断ろう。友達の好きな人だ。いくら告白されたって私にそんな権利はない。
むしろ友達に応援してアドバイスもしてしまった。
そんな奴が付き合い始めたら、彼女はどう思うだろうか。裏切り。

「そんなって?」

私渾身の演技、白々しい。吐き気がしそう。
でもそれでグループからハブられずに済むなら喜んで道化師になろう。
学生はグループが全て、自分の居場所なんてそこにしかない。

「分かってるよ、香織」

あぐらをかいて、大きなため息を彼はついた。

「夏澄、俺の事好きなんだろ」
「は?」

流石に豆鉄砲を食らった。唐突に何を言い出すんだこいつ。
自惚れるな。
なんて言葉が喉まで来たが、口を噤む。
夏澄は彼のことが好きで、しかもあろう事か私までも好きになっている。
自惚れはどっちのセリフだろうか。

「そうだね…」
「香織、お前は俺の事どう思ってんの」

まるで見透かされている様で、居心地が悪い。

「想像に任せる」
「好きだ。付き合って欲しい」

彼の目は真っ直ぐだった。

「は、はぁ!?なに急に!」
「え、好きだって言ったんだけど」
「いや、はぁ!?聴こえてるし!」

唐突すぎて話についていけない。
なのに。

--なのに、こんなにも心臓が五月蝿い。

さっきまで痛かった耳先がこんなにも熱くなって、全身がうるさくてどうにもならない。

「付き合って欲しいんだ」
「ちょ…分かったから、その顔やめて」

今近づかれると頬が赤いのがバレそうで嫌。やめて

「でも、夏澄が…」
「秘密にすりゃいいじゃん」
「え?」
「秘密にしたらいいだろ!わざわざ付き合ってるなんて周りに言う必要無いんだからさ」
「それも…そっか」

何をモジモジしているんだろう。言わなきゃいけない事なんていっぱいあるのに。
今まで抑えてきた気持ちが自分ではどうも抑えられそうになくて、心の奥の方から一気に込み上げて拙い言葉でも私は伝えようとした。

「わ、私も!好きだったの。ずっと好きだったの!」

きゅうと締まる胸を服の上から抑えて、言う。
言葉にしてようやく胸騒ぎが収まった気がする。
入学当初、好きになった日から。毎日、毎日毎日毎日思っていた想いがようやく言葉になって、何か大きな感情が溢れ出る。

「付き合ってくれる?」
「……うん」

夏澄、ごめん。
この気持ちほっとくには大きすぎる。
私って最低な女だ。

「友達裏切る、最低な私でいいの?」
「なら俺はもっと最低かも」

にへらと笑う彼は遠くから見るいつの彼よりも愛おしく可愛い。

「よろしく、これから俺頑張るね」
「え、何を…?」
「え…あぁ…うぅん」

照れくさそうに髪を掻いて、言う。

「いい彼氏を頑張るよ…」

何この子可愛い。

「私も頑張るね、彼女」

そうして秘密裏に私たちの交際が始まった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

付き合って数ヶ月は何も無かった。むしろ順調すぎて心配なんて何一つ無かった。
学校のみんなにはバレることなく、クリスマス、バレンタインなんかは勿論二人だけで楽しんだ。

「初めて、だから」
「そうなんだ」

彼の家でのテスト前勉強会。
こうなる事も何となく分かっていて、キモイけどちゃんと勝負服なるものを着てきたつもりだ。

「可愛い」
「初めてじゃないの……?」

照れる私を愛撫する彼は意外にも手馴れていて、少しモヤッとした。
手馴れている彼の技術に私はまんまと踊らされ、堕ちた。
ズボンとシャツの合間から這う彼の手がゆっくりと上がってきて、思わず声が漏れ出る。
なんて…初体験なんて思い出話しなくていいか。
でも、幸せなのはここまでだった。
不幸は大きく分けて3つ。まず1つ目がここで起こる。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ある日の授業中、校長が私のクラスに血相を変えて尋ねてきた。

「峯岸居るか」
「は、はい!」

唐突の事で変に裏返った。授業中に校長が息を切らしながら教室に来る、加えて自分の名を呼ばれたらビックリしない方がおかしい。

当時の校長はちょちょいと手招きをして私を呼ぶなり教室を後にした。

「落ち着いて聞いてくれ」
「はい…なんでしょう」
「峯岸さんのお母さんがマンションから飛び降りたらしい」

足が止まる。
は?今なんて言ったの?

「病院に緊急搬送だそうだ、私が車を出すから病院に行くよ」
「分かりました」

背中が一気に熱くなって、心臓が暴れ回る。目頭が熱くなって、呼吸が浅くなる。
次第に歩く速度も早くなっていた。

「この車に乗って」
「はい」

黒いセダンの助手席に乗らされ校長はエンジンを掛けた。

母がマンションから…?
何故だ。今までそんな予兆は何も無かった。
私が産まれる前に離婚して以来私は母しか知らないのだ、そんな唯一無二の母さえ失えば私はどうしたらいいのだろう。
何があったのだ、なんでそんな事を、今日は仕事のはずじゃ…そんな事より無事なのだろうか、どういう風に飛び降りたのだろうか、どこから飛び降りたのだろうか、もし仮に自宅のマンションからだと8階…運が良ければ助かっているだろうかそもそもなんで………

「…ぎし!峯岸!」
「は、はい!!」
「着いたぞ」
「あっ…ごめんなさい」

色々な思考を反芻していたら肩を掴まれた。
ここら辺で1番大きな病院である。
有無を言わせずに受付を済ませ、案内された通りに向かうとオペ室の前に来た。
そこには知らないスーツの男が1人俯いて座っていた。
そしてそいつが誰だか、すぐに分かる。

「父さん………?」

気が付くと私はそう口にしていた。

「香織…?」

彼は母親が持っていた指輪を人差し指と親指で挟んでコロコロと遊戯していた。

「では私はこれで」

ぺこりと校長は深く頭を下げると彼は驚くように立ち上がり、ありがとうございますと言って彼も頭を下げた。

「お前…香織か。香織なんだな」

スーツ姿の彼は私に近寄るなり、肩をつかみ涙ぐみながら揺さぶる。

「ちょ、まって。本当にお父さんなの?」

色々な事が起こりすぎて、理解が追いつかない。何もかも分からない。

「信じて貰えなくていい、無理ないからな」

父と思われる彼は俯いて踵を返し、横長の腰掛けに座る。

「なんで今更…」

そんな事をボヤきながら彼の対面に座った。
そんな誰もいない廊下の突き当たりは未だ手術中のランプが点灯している。
彼のスーツはきっちりとされていてシワひとつなく、名札も着いていた。よっぽど急いで仕事を抜け出してきたのだろう。
名札には【柊 拓海】と刻印されていた。

「柊…」

気が付くと声に出していてしまったと思った。

「嗚呼、これか」

彼は左胸の名札を少し触って続ける

「父さんの苗字。香織もこの苗字になるはずだったんだ」
「峯岸だけど、私」
「お母さんの姓だな」

ははっと彼は乾いた笑いをした。

「何がそんなに面白いの」
「お前の母さんは何も教えてくれなかったのか?」

母と私を嘲笑うようなその引き攣れた口角を見て私の何かがプツンとちぎれた。
全身に電撃が走ったように覚醒して勢い良く立ち上がり、地面を揺らすような足音で彼に近寄り胸ぐらを掴む。

「今更出てきて、親面してんじゃねぇよ」

私の親はいつだって母1人だ。母は私が小さな頃から母親で居てくれた。ご飯を食べさせてくれて、世話をしてくれて、苦しそうな顔ひとつせず女手一つで私をこんな歳まで育ててくれた。
その恩返しにはならないけど最近彼氏が出来た事も伝えたし、元気に毎日を過ごしてた。
その全てをこいつに嗤われた気がして、煮え滾るような怒りを覚える。

「そんな所、ほんと夏美にそっくりだ」

お手上げだよと言わんばかり、顔を顰めて横に振る。
そんな彼を見て更に怒りが込み上げる。

「血が上ると人の話なんて聴こうともしない」
「あんたが父親かだなんてどうでもいい、ただ私たちの邪魔しないで」
「私たち?」
「私とお母さん」

何をこいつは平気な顔して胸ぐらを掴まれたままなのだろう。
ここに来たということは母の事が心配なのではないのか?
まだ何かがおかしいのかけろりとしていたのだが。

「邪魔したのはどっちだよ」

さっきまでヘラヘラしていた彼とは違う何か大きな力の及ばない存在が体の芯を揺らす低い声で言う。

「は…?」
「お前のお母さんのせいでお前が産まれ、お前のせいで俺は全部を失いかけたんだ」

な、何を言ってるの?頭が追いつかない

「お母さんのせい…?離婚した理由なんて知らないしそんなのは大体…男が」

言葉を遮って彼は静かに言う。

「お前もそう言うのか。夏美と変わんねぇな…。」

哀愁に満ちた絶望の顔を向けられ、私はやっと悟る。
何も知らないのだと。

「離婚…そういう風に教えられたんだな。会えてよかったよ。お前の事がよく分かって…元気そうでなによりだ」

そう言って無意識のうちに離していた手が下がりきる。
肩を叩かれて彼はその場を去って行く

「どこ行くの、お母さんは?」
「邪魔なんだろ。居なくなる」

彼はそう言って帰って行った。


その時の感情はよく覚えてない。
母が手術中でパニックだったし、人生で初めての父との会話が何も理解出来ないもので。
ただ色々な感情に押しつぶされて涙がただ流れるだけだった。
でも、母に聞けば分かる。母が唯一の心の拠り所で母が私を護っていてくれた。
そう母さえ居てくれれば。






「最善を尽くしましたが…」





手術中の表示は消え、外科医が出てきた。

「そうですか」

私はそう答えて。
そこから覚えていない。



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