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1・面倒な任務
しおりを挟む「はあ。国家騎士、ですか」
直属の上司の警ら隊長ではなく、騎士団長から呼ばれていると聞き、慌てて来てみれば「国家騎士が来るぞ」の一言。関係の無さそうな話をどうしてオレなんかに。
ついそう思ったのが顔に出てしまったのだろう。騎士団長はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだ。お前も知っているとは思うが、我が領では二年に一度、国家騎士の派遣を受け入れている。それは何故だか知っているな?」
どうやら直ぐに本題に入ってくれる訳ではないらしい。こっちも暇では無いのだが。
そうは思いつつも、今度は顔に出ない用に気を付けながら口を開いた。
「勿論知っております。この街付近にある迷宮の繁殖期は約二年。ごく小規模の侵攻に馴れさせ、数百年に一度の大繁殖期に備える為であります」
これは、この街に住んでいる者なら殆どの者が知っている常識だ。
どんなに間引いても、一定の周期で繰り返される迷宮内における魔物の繁殖。
それを利用し、律儀に二年毎に騎士様がやって来るのだ。
その騎士様 方を相手に商売している者は少なくない。
「ふむ。教本通りだな。それで、本題だがその派遣されて来る者達の案内役を任せたいのだ」
一瞬何を言われているかよく分からなかった。
「案内役、とはどういった……」
反射的に聞き返してしまった後、騎士団長が再びニヤリと笑みを浮かべたのを見て、口を引き結ぶ。
「案内役は案内役だ。詳しい話は書面にて追って知らせる。今日は先触れにとお前に来て貰っただけだから、もう帰って良いぞ」
「ハッ!それでは、失礼させて頂きます」
「帰れ」と言われたなら、帰る他ない。頭を下げ、踵を返した。
訳が分からない呼び出しを受けて、訳が分からないまま帰された。
いや、本当は薄々分かってはいるのだけれど、違うのだと思いたいだけだ。
“案内役”とは文字通り、この街の事を案内する役だ。
ここの地方騎士にも居ない訳ではないが、奴ら国家騎士はエリート思考と自分達が貴族である選民意識が特に強い者が多いから、相手をするのが面倒臭いのだ。
仕事柄、あまり接点は無いが、偶然かち合ってしまう事もある。
嫌味も侮蔑も、これも仕事だと受け流す事が出来ていたのは、それが一時だけだったからだ。
そりゃあ、まあ、中には良い奴もいて、そいつ等とは一緒に飲みに行くくらい親しくなった事もある。
けれど、それは極一部なのだ。大半が面倒臭いエリートサマだ。
そんな奴等と四六時中一緒にいなけらばならないなんて、ゾッとしない。
あーイライラする。と、憤っている感情のままに扉を蹴り開けた。
「あ、たいちょーお帰りなブペラ!?」
まるで主人の帰りを待ちわびていた犬のように喜色満面で出迎えたカニスの存在を認識すると同時に無意識の内に右足を蹴りあげていた。
こいつのウザイテンションも普段ならスルー出来るが、今は至極苛ついているから無理だったようだ。
「いったーい!酷いよたいちょー!お出迎えしただけなのにい!」
キャインキャインと犬が吠えているけれど、今度は無視だ。
只でさえ苛ついているのに、これ以上ストレスを増やしてくれるなよ。
足で扉を閉める次いでに扉横の壁を蹴れば、ようやく大人しくなった。
やっぱり、躾は大事だ。
「お帰りなさいませ、隊長」
ドサリ、と席に着くとグラヴィがお盆にお茶を入れて持って来た。
「ああ。変わりはないか?」
「先程の今ですから、特には。それよりも、お呼びだしの内容は何だったんです?」
忘れたかった嫌な事を聞かれ、顔をしかめる。
けれど、直接的に接点の無い騎士団の、しかも団長に呼ばれたのだから気になって当然の事だろう。
「オレにもよく分からん。ただ、次の案内役を任せると言われただけだ」
他の、人事や任務に関する事ならばいざ知らず、案内役に決まったかも知れない程度ならば、守秘義務に抵触はしないだろう。
そう思い、そのまま話してしまう事にした。
「案内役、とは、もしかして来月に交代しにやって来る方達の?」
やはり、誰かと違ってグラヴィは頭の回転が速くて助かる。
何故、慣例通りこの土地の地方騎士に任せないのだろうか。
そんな単純な疑問の先、様々な理由、ついでにその通りになった際のオレの機嫌について考えているのだろう。表情がくるくるとよく変わっていく。
頭の回転が速いのは良いが、ポーカーフェイスが保てないのが減点だな。これさえなければ、もっと早く出世出来ていただろうに。まあ、オレが考えても詮無い事だが。
グラヴィの疑問に答える為にオレは頷いた。
「ねー、たいちょー。何の話ししてるんです?」
直ぐ側で聞いていた筈だが、理解出来ていないようだ。
それに、黙れと指示したにも関わらず、直ぐにその事を忘れてしまうカニスの駄犬っぷりに溜め息が出る。
「まあ、まだ正式に任命された訳じゃないし、きっと騎士団長サマの冗談か気紛れだろうから取り止めになるだろうさ」
そうなれば良い。と願望混じりの言葉を放ちながら、シッシッとカニスを追い払い、そのままその手でグラヴィを示す。
グラヴィに教えて貰えと、繰り返しやってきたからか、最近では言葉に出さなくとも仕草だけでグラヴィの方へと行くようになった。
まあ、こもれ何度も何度も繰り返して、ようやくだけれど。
「ああ、そう言えばバルバルスはどうした」
朝、呼び出される前もいなかったので、今日はまだ奴の姿を一度も見ていない。
「バルバルスさんなら」
「バルバルならまだ見てないよー」
グラヴィの言葉を遮り身を乗り出すカニスを再びシッシッと追い払った。
まあ、薄々そうじゃないかとは思っていたが、やはりまた来ていないようだ。
いくらウチが少々特殊だとは言え、出勤時間位は守って欲しいものだ。
任されるかも知れない程度の任務よりも、目先のやりたい放題の部下を何とかする方が急務だろう。
さて、どうすればヤツがちゃんと来るようになるだろうか。
給料泥棒は絶対に許せん。人類の敵と言っても過言ではない。
かと言って、減棒程度でヤツが態度を改めない事は既に立証されているし。
どうしたものかと悩ませながら、昨日の続きの書類を手に取った。
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