異世界に転生した守銭奴は騎士道を歩まない?

ただのき

文字の大きさ
3 / 16

2・面倒な嫌がらせ

しおりを挟む




 月日は流れ、日々の任務に追われている内に騎士団長に言われた事をすっかり忘れてしまっていたある日、その時はやって来た。

「こんな書類、朝はあったか?」

 昼食を終えて執務室に戻って来ると、机の上に違和感を覚えた。
 確かに減らした筈の書類の山が、僅かながらも増えている気がしたのだ。
 家系柄、目端は良い方なので、違和感を覚えた時点でアウトなんだけど、逃避したかったのだ。
 仕事が増えてるとか、そんな馬鹿な。
 お金は好きだ。大好きだ。お金の為に働いていると言っても過言ではない。
 けれど、お金が好きな事と仕事が好きかどうかは別の問題だ。
 働かなくともお金が貰えるのが一番だが、そうは問屋が下ろさないので仕方がなく働いているのだ。給料分は。
 その給料分すら働いていない者も居るので、私はそういう奴等を見付けたら呪う事にしている。
 私ですら働いてるのに、働かないとか何様だ!

「いえ、確か無かった筈ですが」

 グラヴィの言葉に、僅かな希望すら砕け散る。
 記憶力の良いこいつが言うなら、そうなんだろう。

「やっぱりそうか。誰だよ仕事増やしやがった奴は」

 悪態を吐きながら、一番上に置かれている書類の文字を追う。

「え、」

 何かの見間違いだよな。もしくは部署間違いとか。
 そう願いながら二度見三度見するけれど、書かれている内容が変わる事はない。

「たいちょー。何が書かれてるんスか?」

 いつもなら、不必要に近付くカニスを足蹴にするのだが、現実逃避に忙しいのでそんな事をする余裕がない。

「えーと、何々。先日前触れを出していた、騎士団受け入れに関して、ここに通達する。ウェントゥースの月3日に──」

 そう言えば、そんな事もあったな、と思う。
 カニスが読み上げていく声を聞き流しながら、頭を抱えた。

「ウェントゥースの月3日?来月頭じゃないか。今日はルクス月の58日だぞ!もう5日しか無いじゃないか!通達、遅すぎだろ!前触れって、あの冗談みたいな呼び出しがマジだと思うわけないだろ!!」

 流し見しかしてないけど、押されている印は確かに騎士団長の物だ。
 爵位やら権威が上の奴らが使う判子とか印は、特殊な呪いが施してあるので、偽造は不可能だ。
 限り無く近い物を作って、うちのチームに対する悪戯や嫌がらせかとも思った。
 けれど、偽証罪はどんな程度であれ厳しく罰せられる。
 そんなリスクを犯す価値は、うちにはないから、その可能性はない。
 まあ、書かれている発行日は結構前なのに?今日届いたって事は?嫌がらせの他の何物でもないだろうけど?

「どこのどいつが遮ってたんですかねー。調べます?」

 無駄にイイ笑顔でそう言うカニスだが、そういう顔をしている時は、調べるだけ・・で済ませる気がない時だと知っている。

「……いや、取り敢えず後回し・・・でいい。それよりもこっちをどうにかするのが先だ。中途半端に嫌がらせしてくれたせいで、知ってしまったからな。当日に知らぬ存ぜぬは通せないだろう」

 せめて、ずっと隠していてくれたなら、それでも行けたかも知れないのに。
 いや、ギリギリに報せる事で、右往左往する様が見たかったのか。
 だとしたら、なんて性格のイイヤツなんだろうか。後でたっぷりとお礼をしなければ。

「けど、ホントにどうするかな。過去の予定表とか、記録とかを素直に見せてくれる訳ないし。もし見せてくれたとしても、今頃来たのかって馬鹿にされるのもイヤだしなー」

 ここの騎士団はマシだとはいえ、マシなだけ。
 表立ってする奴は少ないが、遠回しに見下して来る奴は結構いる。
 遠回しに見下して来る奴の方が厄介だし、腹立つ奴が多い。
 資料室に居る奴の大抵がそういう奴だから、余計に行きたくないんだよなあ。
 私がそう渋っていると、グラビィがおずおずとしながら「あの」口を開いた。

「先日、隊長からお話をうかがった後に、一応過去の書類は一通り目を通しました」

 その言葉を聞いて、私は背凭れに預けていた背を起こし立ち上がった。

「マジか!?でかしたぞグラヴィ!よくやった!」
「あ、有り難うございます」

 喜びのあまり、グラヴィの肩をバシバシ叩いてしまった。
 かなり痛そうにしていた気もしないではないが、給金に色を付けてやるから許せ。

「グラヴィばっかりズルいですよ、たいちょー」

 構って構ってと尻尾が揺れている姿を幻視してしまった。
 だがしかし、カニスには尻尾も耳もないので飽く迄気のせいである。
 それに、童顔気味で実年齢よりも遥かに幼い容姿をしているとは言え、それなりにイイ歳になった男が頬を膨らませても可愛いとは思わない。

「面倒臭いからむくれるな。お前にも任務与えてやる。それがちゃんと出来たら褒めてやるから」
「うわマジで?約束ですよ!」
「はいはい。約束、約束」

 あまりの喜び様に、いつもそんなに褒めてないかな?と過去を振り返るが、悪さ・・ばかりするから仕方なくないか?と思う。
 だけど、たまには飴をやらないと、どんな悪戯・・をしでかすか分からないから調度良いか。
 任務の段取りもどうにか見通しがつきそうだし、良かったわ。
 そう思いながら、残っていた書類に手をつけ始めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...