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8・ヒント
しおりを挟む「負傷者の具合は如何ですか?」
「ええ、お陰様で軽傷の者ばかりです」
会話の合間を見計らい、声を掛けるとホッしたような声色が返ってきた。
まあ、見ていたから知っているけど。
少なからず怪我をした者は馬車に乗せられていた。騎乗して来たにも関わらず怪我をしてしまった者の馬には元馬車組でも怪我のない者と交代する様だ。
元々全員が騎乗して来た訳じゃなく殆どが馬車に乗って来ていたので、それでも何とかなるみたいだ。
……馬の数と人数が一致するし、荷馬車の馬にしては体躯が立派過ぎるからもしかして軍馬に荷馬車を運ばせて来たのだろうか。
通りで少し馬の数が少ないと思った。けど、そんな事する騎士は初めて見たわ。
騎士は馬にも誇り持ってるヤツが多いから荷物を引かせるなんて事、ウチでもあんまり見た事が無い。
「これも貴殿のお陰です。もう少しでも遅かったら、きっと重傷どころか死者を出していたかも知れません」
「いえいえ、そんな事はなかったと思いますよ。双首ウルフをよく押さえ込んでいたじゃないですか」
「……押さえ込んでいた、ですか。それもギリギリの所でした。アレの風の前では私の炎など、蝋の火の様に簡単に消されてしまいました」
ああ、あの時の炎はやっぱりこの人のだったんだ。
いくら風に増加させられていたとはいえ、あれ程の炎を出せるのはこの人しか居ないだろうなとは思っていたんだ。
騎士に貴族の子弟が多いのは、何も貴族位のせいだけじゃない。
国から与えられる神剣を使える程の神力を持っているか否かが重要になってくる。
その点、この騎士サマは十二分過ぎる程に持っているように見えるし。
まあ、グラヴィが集めてくれた資料にも、今回来る部隊の隊長様は炎が得意属性だと書いてあったしね。
「それを貴殿はいとも簡単に圧勝してみせた。カプリコルヌス騎士隊には、貴殿の様な方が多く居るのでしょうか」
「いや、自分で言うのもなんですが、自分みたいのはあまり見た事はありませんね」
「そうですか。それを聞いて少し安心してしまいました。皆が貴殿のような実力者ばかりですと、流石に落ち込んでいましたから」
まあ、領地に来て初めて見た人間の戦いがアレだと、不安になるかもね。
あから様に騎士服を着ていない人間がそうなのだから、騎士はもっと上を行くだろうって。
けど、私が言った事は事実だ。
私の他にはウチの三人と、筋肉ダルマみたいなオッサンくらいだ。
団長の戦う所は見た事がないので何とも言えないけど、そうだとしても一人増えるだけだから変わりはないだろう。
だからこそ、ウチははみ出し部隊なんだけど。
「準備も出来た様ですし、そろそろ向かいましょうか」
何でそんなウチに案内役が回ってきたのやら。
ウチらも災難だけど、この人達も気の毒だよね。
なんて思いながら、笑いかける。
「そうですね。いつまでもここに居ては、迷惑になるでしょうし」
彼は既に素材と化したウルフ達を荷台に乗せる作業を始めている支援部隊を見ながら頷き、馬を預かっていた部下から手綱を受け取った。
その部下も他の騎士とは位が違うのか、僅かに装飾が異なる服を着ていた。
その事よりも、その容姿の方が気になったのでつい凝視してしまう。
黒髪に、暗めの琥珀色の瞳、こちらではあまり見かけた事のない堀の薄い顔。
出身地はもしかして、と思っていると流石に視線を感じたのか、目が合ってしまった。
静かに目礼されたので、こちらも目礼を返したけれど、気付かれてしまったのでこれ以上観察は出来ない。
なので、諦めて私も愛馬?愛猫?愛虎?の背にまたがった。
「貴殿の騎乗しているそれは、風虎ですかな?」
「ええ、そうです。よくご存じですね」
並走しようと隣に並べば、カエシウスの事の種族を言い当てられて少し驚きながらも頷いた。
魔物に詳しい連中ならともかく、騎士サマみたいに普段魔物と接する機会のなさそうな人に言い当てられるとは思わなかった。
大抵の人は「猫系統の魔物」くらいにしか認識しないから。
「こちらに来る前に役に立たないかと、少しばかり勉強して来ましたので種類くらいは。けれど、実戦には何の役にも立ちませんでしたが」
彼のこういった発言を聞くのはもう何度目になるだろうか。随分と自虐的と言うか、やけに卑下する人だ。
だから励ます訳ではないけれど、と口を開いた。
「今回はそうだったかも知れませんが、知識という物はけして裏切りません。なので、いつかその知識に助けられる時が来ると思いますよ」
「そうでしょうか」
「ええ、きっと。自分も、知っておけばと後悔した事や知っていて良かったと、助かった事は何度もありますから」
相手の事を知っておくと有利なのは、魔物戦も対人戦も同じだ。
相手の得意な属性、不得意な属性。クセやら習性を知っていればもっと簡単に乗り越えられた筈の任務はそれなりにあった。
まあ、偽の情報を掴まされる事も無いではないから、頼りすぎるのも駄目だけど。
「……不思議ですね。実は、他の方にも似たような事を助言された事があるのですが、その時のものよりも貴方の言葉の方が心に響くのです。染み入る様に、どこか懐かしいい様な」
心底不思議そうに言う彼。
おや?と内心で驚きながらも外にはおくびにも出さず、頷いてやった。
「失礼ながら、先触れの資料を拝見させて頂きましたが、以前こちらに来られた事があるとか」
「はい。幼少の頃ですが。それで今回こちらに派遣される切っ掛けとなりました」
「自分は生まれてからずっとこの地に住んで居ますので、その頃に会った事があるのかも知れませんね」
「成る程、そうかも知れません」
彼も納得したように頷いて、面影を探すように私の顔をしげしげと眺めた。
「……そう言えばお名前を伺っておりませんでしたね」
けれど見付からなかったのか、名前を聞いてきた。
名前を聞けば思い出すとでも思ったのだろう。
「既にご存知かもしれませんが、私の名はエクエス・C・カリドゥース。王都を守護するレオン騎士団第四隊第三部隊部隊長を拝命しております。自己紹介が遅くなった上、馬上からで申し訳ありません」
ご丁寧に自己紹介をして貰ったなら、こちらも返さねばなるまい。
「いえ、こちらこそ申し訳ない。自分は、領地オキデウスに於けるリーブラ騎士団遊撃部隊部隊長アウダークス。ただのアウダークスです」
私は貴族ではないので氏名を持たない。だから名乗りを上げた時点で侮られる事は多いのだけれど、彼はそれよりも気になる事があるらしい。
「アウダークス、殿。アウダークス……」と何度か呟いた後、首を振った。
「申し訳ありませんが、記憶には無い様です」
該当する名前はなかったらしい。
私は名前を聞いて確信したというのに、彼の方はそうでは無かったらしい。
まあ、色々と違うから仕方が無いのかも知れないけど。
「そうですか。では気のせいかも知れませんね」
そう言うと、彼は同意したもののどこか納得のいっていなさそうな顔だ。
実際には気のせいではなく正解なのだから仕方ないだろう。
けど、自分が気付いているにも関わらず、相手に気付かれないというのは中々に寂しいものがある。
かと言って、今気付かれるのはちょっと不味いから余計に複雑だ。
そうこうしている内に、城壁が見えてきてしまった。
カエシウスと二人の時とは違い少々時間は掛かったものの、そう遠くない距離だった。
やっぱり一人先行して良かった。あのままの速度で行かれるとすぐ側まで来てしまい、街の人に怖い思いをさせてしまっていたかも知れない。
けど半面、私の始末書は増えているんだけど。
カエシウスが無断で馬屋から出てきてしまったのは飼い主たる私の責任だからね。
面倒だなあ、と思いながら少しばかり声を張った。
「ようこそ、オキデンス領に!改めまして、この度貴方方の案内役を務めさせて頂く事になったアウダークスです。これから、どうぞよろしくお願い致しますね」
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