異世界に転生した守銭奴は騎士道を歩まない?

ただのき

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7・腰の低い騎士サマ

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「たいちょー!!ねえ、見てた!?見てました!?相手は雑魚なのにバルバルが苦戦してる中、華麗な動きで相手を翻弄して次々と倒していくオレの姿!最後の一匹もオレが倒したんですよ!」

 “褒めて、褒めて!”と言わんばかりに私の前に駆け寄って来たカニスの背後に、ブンブンと振り回される尻尾を幻視してしまった。

「あーうん。ミテタミテタ。よくやった。ご褒美にバルバルスの給料から二割差っ引いたのを今月分に足しておくな」
「え!ホントに!?やった。増えた分でなにしようかなー」

 棒読みで褒めたにもかかわらず、物凄い喜びように少し罪悪感を抱く。
 いや、でもこれは給料が増えた事によって喜んでいるのか?
 まあ、どちらにせよ喜んでいるなら何よりだ。
 早くも使い道を考えているらしいカニスだったけれど、背後からの殺気に気が付いて「よっと」と言いながら横に避けてみせた。

「テメー避けんな!何でオレの給料をテメーにやらなきゃなんねーんだよ!」
「何でって、たいちょ―がくれるって言うからもらうんですー。まあ、たいちょ―がくれるなら別に何でも良いんだけど。あと、避けられない訳ないじゃん。そんなトロイ攻撃!」

 カニスの言っている事は事実だけど、さり気なく矛先をこっちに向けてないか?
 普段、「たいちょー、たいちょー」って慕って来るクセに、こういう時はそういう事、結構するよね。
 「どういう事だ」と睨んでくるバルバルスに、溜息を吐きながら答えてやった。

「当然だろう。お前、最近無断欠勤していただろう。今日来なかったら半分以下にしてやるところだったんだぞ。ちなみに、更に二割引いたのをグラヴィにやるから。……金が無いからと言って、グラヴィから借りる・・・なよ。グラヴィも、絶対に貸すなよ。脅されたら報告しろ。更なる厳罰としてヤツの武器庫いえから適当に見繕って売った金で返させるからな」

 釘を刺すようにして付け加えた言葉が、バルバルスには効果覿面だったみたいだ。
 「ック、オレの武器おんな達には手は出させねえからな!」と吠えているものの、その勢いは弱い。

「さて、お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません」

 頭の悪いやり取りをしている間、放置する事になってしまった彼に向き直り謝罪した。

「いえ、襲撃で緊張していた部下も、今のやり取りで大分解れた様ですから」

 朗らかにそう言って首を振る彼に、ホッと安堵する。

「隊長、支援部隊が到着したようです」
「そうか。思ったより早いな」

 これから帰るにしても、この大量のグリーンウルフ達をどうするかな、と思っていたところだったから丁度良かった。
 グラヴィの言葉に来た方向を見ると、まだ結構遠い所に支援部隊が居るのが見えた。
 言われないとまだ分からない距離だ。それに真っ先に気付くなんて、相変わらず目が良い・・・・にも程があるな。
 支援部隊は大きな荷台を三台、馬に引かせてやって来ていた。
 大物の双首ウルフが居るから、これくらいは妥当かな。
 ウチの領地の規定により、倒した魔物は討伐した者が素材だのそれを売った金だのの、半分の権利を得るとはいえ、その内の半分は騎士団の懐に入る訳だから、結構な稼ぎにはなる筈だ。
 と、そこまで考えて思い出す。殆ど傷を負わせる事が出来ていなかったとはいえ、先に対峙していたのは彼なので、彼にも幾分かの権利はある。

「貴方はどうする?」
「どうする、とは、何のことでしょうか?」

 質問が唐突過ぎた様で、困惑している彼に分かりやすく言い直す事にした。

「王都で同じかは分からないけれど、ウチの領地では、倒した魔物は討伐した者が権利の半分を有するんだ。けど、先にヤツに攻撃していたのは貴方だから、貴方にも権利があるんだけれど、何を受け取る?素材か金か選べる筈だ」

 細かい査定はまだなのでどうなるかは分からないけれど、止めを刺したのは私だし、殆どの傷を付けたのも私なので、彼が受け取る事が出来るものは微々たる割合になるだろう。
 まあ、ごねられたら話は変わって来るけど、彼はそんな風にはミエナイ・・・・から大丈夫だろうけど。

「それは私共の方でも同じですが、今回、私は全く歯が立たなかったので辞退させて頂こうと思っています」
「よろしいんですか?」

 割合は微々たる物になっても、双首ウルフ位になればそれでも結構な額になる筈だ。
 そう思って、聞き返してみたけれど「はい。頂いてしまうのも烏滸がましいと思っていますので」と何とも謙虚な答えが返って来た。
 そんな台詞が騎士サマから聞けるとは思っていなかった。
 ウチのとか、前に来た奴らに彼の爪の垢を煎じて飲ませてやりたくなる。

「では、その様に申請しておきますね。カニス!」
「はい!なんでしょーか」

 ただ呼んだだけで、バルバルスと睨み合っていたのが嘘の様に良い笑顔で駆け寄って来るカニスの背後には尻尾が……。
 本日、何度目かになる幻覚を無視して、カニスに向き合った。

「支援部隊が到着次第、彼らを援助しろ」
「えー。オレがですかー?」

 もはや素材と化してしまった魔物を運ぶだけの地味な作業は好きではないらしく、露骨に嫌そうな顔をするカニスに私は頷いた。

「そうだ。グラヴィに任せても構わないんだが、彼では少しな。今回は双首ウルフ大物も居るから、彼らの事をきちんと・・・・補助してやって欲しいんだ。これは、カニスにしか任せられないと思ったんだが、仕方ない」
「オレがやります!」

 「やっぱり、グラヴィに任せるか」と言おうとしたけれど、最後まで言い切る前にカニスが身を乗り出した。
 わたしの言いたかった意図を正確に理解したというよりも、“カニスにしか”という言葉の方に引っかかった気がするので少し不安になる。

「大丈夫です」

 けれどそれは杞憂だった様で、頷いたカニスの瞳は私の意図を理解していると語っていた。
 カニスは普段の行動からは考えられないけれど、命令以上の事もこなせるほど結構賢い。
 まあ、故意にやり過ぎてしまうきらいはあるけれど、許容範囲内なので目を瞑ったりしているが。
 補助部隊が本体に少なく報告し、横取り横流ししないようにきっちりと見張っておけよ。
 そう意味を込めて私も頷き返した。

「そうか、では後は頼んだ」

 ウチの領内では少ないとはいえ、ちょろまかす連中はいない訳ではない。
 カニスは他の部署から妙に怖がられているので、そんなカニスを前にして不正を働く事は無いだろう。
 多分、何かやったんだとは思うけれど、何の届も出ていないので証拠は無いから真偽の程は分からないけれど。
 ともかく、これで安心して任せられる。
 チラッと、金髪の騎士サマの方を見れば、負傷した部下の方に居た。
 仲が良さそうに会話している様子から、慕われているようだと察する事が出来た。
 あの上司に、あの部下なら、実力はどうあれ少しはやり易そうだなと安堵しながら、彼らの方へと足を向けた。



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