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10・歓迎会
しおりを挟む今日予定していた事を話すと、怪我をした隊員の様子を見てから決めるとの事だった。
けれど、立ち寄った救護室には既に居らず「元気な者をいつまでもここに居させるわけにはいかないだろ」という医務官のお墨付きの言葉を貰ったので、決行される事となった。
でも、彼らの様子から予定していた店よりも、もっと相応しい店があると思った私は一人、街に繰り出した。
◇◇◇◇
「それでは、皆さんの歓迎を祝して乾杯をしたいと思います!」
「乾杯!」と音頭をとれば、あちらこちらで復唱する声と、ジョッキをぶつけ合う音が聞こえて来た。その音を聞きながら、私もジョッキを傾けた。
本来の予定では、多少疲れもとれたであろう到着後の翌日に街中を案内し、その後ちょっとお高めのお店で歓迎会をするように組んでいた。
けれど、その予定を変えて一日早く開催したのは、余計な事を吹き込まれる前にウチの隊の印象を先に付けてしまいたいと思ったからだ。
ほら、どちらが先に印象付くかで「良い奴だな。でも、悪い噂も聞いた。本当はどっちなんだろう」というのと「悪い噂を聞いた。今、良い奴っぽいけど、本当はどうせ悪い奴なんだろ」なんていう風に印象は異なって来る。
彼らの元々が一部の貴族特有の鼻持ちならない傲慢な感じだったなら、別に今更なので予定通りにしていただろうけど、そうじゃないなら、お互い悪印象よりも好印象の方が良いってもんだ。
まあ、予定を繰り上げたから、予約制のお高めの店は使えなくなった。かと言って、連日に渡り飲むのもアレなので、完全キャンセルだ。キャンセル料は取られたけれど、それはこちらの都合なので色を付けて払わせてもらった。どうせ予算から払うので問題は無い。
この店を選んだのは、何も他の店で了承が得られなかったからじゃない。始めからこの店しか選ぶ気は無かった。
「あ、女将さん。無理を聞いて頂いて申し訳ない」
ちょうど近くのテーブルまで料理を運んで来た女将さんに頭を下げた。
「良いのよう。ダーちゃんの頼みだもの。旦那も張り切ってるから心配しないで」
昼間、この店に来て頼んだ時にも渋る様子もなく快く頷いてくれた女将さんには感謝してもしきれない。
「それに、最初に行った店っていうのはね、足が運びやすくなるもんなの。上客のお得意様がしばらく増えそうで、こっちも大助かりなのよ」
「そう言ってもらえると助かります」
ちゃめっ気たっぷりにウインク付きで言うけれど、そんな事をしなくともこの店はいつも常連客で一杯なのを知っている。これは、女将さんの気遣いだ。
「今の方がこの店の女将さんで、旦那さんが料理長なんです。旦那さんはあちこちで修業をしたらしく、色んな種類の料理を作れるのですが、どれも絶品なんですよ。常連客にしか振る舞われない裏メニューもあるので、是非挑戦してみて下さいね」
「そうなのですか。確かにここの料理はどれもとても美味しいので通い詰めてしまいそうです」
「お口に合った様で何よりです。でも、ここの常連になるのは少し難しいですよ」
「それを聞いてますます挑戦したくなりました。困難に打ち勝ってこその騎士ですからね」
最後の言葉の意味は私には分からなかったけど――だって、困難に打ち勝って、てのは分かるけど、挑むのは常連客になれるかどうかにだよ?――一応、と思って念を押さなくても女将さんとの会話を聞いていたエクエスなら自分から常連客になってくれていただろうから余計な事だったかも知れない。
「西の料理はクリームの入っている物が多いのですが、くどい事は無く、まろやかな舌触りなんです。それからヒヨコ豆ですね。他領にも輸出はしていますから口にした事があるかも知れませんが、ウチのは他よりも粒が大きい割に大味にはならず、特殊な方法を使って調理をすると舌で簡単に潰れる程柔らかくなるんですよ」
まあ、そんな豆料理を出す店なんか生まれてこの方、この店しか知らないけど。
お高い店の料理も美味しいけど、ウチの領の特産品を特徴を殺さずこんなにも上手く調理しているのは他には知らないから、絶対に食べて欲しかったんだよね。
あれもこれもと、大皿から小皿に移してエクエスに前に持っていく。
困った顔をしている気もしないではないが、気付かかったって事で。
一通りのおススメ品を並べ終えたので、この後に備えて私も食事を摂る事にした。
他の奴らよりは強いとはいえ、空きっ腹に入れるには体に悪いからね。
一体いつどこで私達がこの店に来るって情報をしいれたのやら。
席の殆どを私達で占領しているものの、完全な貸し切りではないのでチラホラと見える奴らの姿に内心溜息を吐く。
食べながらも、合間を見て料理の詳しい説明をしながらウチの領についても簡単に説明していく。
この間、私は一切アレを絶っていた。食事する時は水かお茶派というのもあるけれど、どうせこの後文字通り浴びる程飲むからね。
料理の山が勢いよく減っていた速度も、積まれた分だけ緩やかになっていく。
そろそろかな、と思っていると“ダンッ”と目の前のテーブルに小樽ジョッキが叩き付けられた。
その音は結構大きかったらしく、辺りは急にシンとして私達に注目が集まった。
ウチの隊の者でもエクエスの部下でもない人間だったからか、エクエスが立ち上がろうとしたけれど、それを手で制した。
心配そうな目で見て来るけれど、大丈夫だ問題は無い。
「やあ、一体何の用かなユゥバ?」
私が話し掛けた事で知り合いだと分かり、エクエスは漸く剣柄から手を放した。
たく、街中、しかも店内で抜刀とか出禁物だっての。もしかしてもう酔ってるとか?なんて心配しながらも、視線は闖入者、ユゥバへと向けたままだ。
「何の用って、決まってるだろ、コレだ!」
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