異世界に転生した守銭奴は騎士道を歩まない?

ただのき

文字の大きさ
12 / 16

11・飲み比べ

しおりを挟む




 ニヤリと笑いながら眼前に突き付けられたのは、さっきテーブルに叩き付けていた小樽ジョッキだった。
 それが合図だったかの様に、次々と人が周りに集まって来る。
 一階には殆ど居なかったのを見ると、ここからは見えない二階の死角に居たな?

「今日こそ勝ってやるぜ!」
「お前の身ぐるみを剥ぐまで付き合ってもらうぞ!」
「覚悟しろよ!」

 やって来る面子は警邏けいらの奴らが多いけど、騎士の奴も居る。もはやお馴染みと言って良いほどに変わらない顔ぶれだ。
 私はあまり酒場に来ないので、機会を窺っていたんだろう。ご苦労な事で。
 こうなる事を予測しないではなかったけど、実際に来られると苦笑を禁じ得ない。
 やって来たばかりの騎士サマに自ら醜態を晒に行くなんて芸当、私には到底無理だな。

「良いけど、あんまり騒ぐなよ。仮にも客人の前なんだからな」
「分かってるって。だから今日は少人数で来たんだろうが」

 少人数?軽く二桁は居る様に見えるけど?
 けれど、何を言っても引かない事は目に見えているから、ジト目を送ってからエクエスの方を見た。

「騒がしくて申し訳ない。彼らは警邏の者で、私と飲み比べをしたいらしいんだが」

 「俺は騎士だぞ!」とか「バカ丁寧なアウダークスって怖っ!」なんてヤジが聞こえる。
 声で誰だか分かってるから、後で覚悟しておけよ。特に後者。
 表面上は努めて笑顔だが、内心で青筋を立てながらエクエスを窺う。

「そうでしたか、私はてっきり……いえ、私の方はお構いなく」

 建前上の許可も下りたので早速、と思ったけれど、こちらを見ている騎士サマ方を見てどうせならと声を掛ける事にした。

「もしよろしければ、皆様も参加されませんか?」

 好奇心だけで見ていた騎士サマ方の空気が目に見えて変わった。
 「よろしいですか?」と、エクエスに再び尋ねれば苦笑しながらも了承した。
 まあ、この空気の中で反対するのは余程空気が読めないか堅物かのどちらかくらいだ。
 上司が許可をしたので、騎士サマ方が更に色めき立つ。

「我こそは、と思う酒豪はあちらのテーブルへ行きましょうか」

 吹っ掛けてきた連中が居たテーブルの上が一番皿数が少ないし、連中の全員が飲むつもりだろうから、あそこが一番都合がいいだろう。
 そう思って、少し端の方にあるテーブルへと移動する。

「飲み比べをたいちょーに仕掛けるとか、こいつらも懲りませんよね」

 離れていた所でもてなしをする様に言っていたカニスがひょこり、とやって来た。

「なんだ、カニスは参加しないのか?」
「当然!参加しますよ!たいちょーに勝てたらご褒美下さいね」
「オレも参加するぜ」

 聞こえて来た声に振り返れば、珍しい姿が。

「バルバルスも、いつの間に来てたんだ?」
「タダ飲み出来る機会を逃す訳にゃあいかねーからな。もしオレがタイチョ―殿に勝てたら、減棒を取り消してくれよ」

 確かに、金欠なバルバルスにとっては逃せないな。

「はいはい。二人とも俺に勝てたら、な」

 二人は喜んでいるけど、勝てたら、だよ?
 毎回挑戦してくるのはこの二人も同じだけど、勝てた事ないの、忘れてないか?
 私を囲むように席に着くけれど、増えた人数にテーブルと椅子が足りる筈もない。
 仕方ないので近くの席を開けてもらって、更にその周りから椅子を拝借する。
 こうしてみると、騎士サマ方も結構参加するらしいと分かる。
 あーあ。カモが増えちゃった。内心でニヤニヤしながら、ユゥバの方を見た。

「よし、初めての奴も居るからルールを説明するぞ。と言ってもルールは簡単だ。この小樽に注がれた酒を“乾杯”の合図で全員同時に飲み干して、飲み干せなくなったら負けだ」

 厨房から借りて来たのか、未使用の空小樽がテーブルに置かれていく。大きな酒樽までも奥から持って来ていた。
 この手際の良さは、予め女将に頼んでいたな?とすると女将も共犯か。
 チラッと女将を見れば、ウインクを返された。
 今日の売り上げは凄い事になりそうで、良かったですね。ホント、商売上手だよなあ、尊敬するわ。
 大樽から小樽に酒を移し替えていくのを見ながら待ったをかけた。

「言っておくけど、この酒代は経費から出ないから。いつも通り、負けた奴は自腹と、買った奴に奢る事」
「うっ。それは……」
「何?経費から出るだろうから負けても良いって、仕掛けてきたの?負ける気なの?」
「んなワケ無いだろう!オレが勝つから何の問題もねーよ!」

 負けんの?負けんの?って煽ればそう来ると思った。
 あまりのチョロさに笑いが隠し切れず口角が上がる。

「ついでに、自分への賭け金ベットも忘れてるぞ?」
「あーあー、そうでしたねー。参加する野郎は、一杯飲む度に自分が勝つ事へ賭ける事。その金は全て勝者の者とする。勝てないと思ったら、途中でリタイアするのは有りだが、賭けた金は帰ってこないし、それまで飲んだ酒代は当然自腹だから、覚悟のある奴だけ参加しておけよー」

 もはや棒読みだったけど、ユゥバの声は食堂に響く。
 そして、誰も席を立たないのを見て、彼は頷いた。

「準備は良いな。賭けの金額は自由だ。好きな額を目の前に置け。不正は周りが見ているし、恥だと思え。……では、酒も行き届いた事だし、始めるとするか“乾杯!”」

 ユゥバの合図に、私を含め周囲の者が“乾杯!”と復唱しながら小樽ジョッキを掲げ、中身を飲み干していった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...