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第二幕・カプリッチョーソ(気まぐれ)に進む
8・思わぬ再会2
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流石に顔を見れば思い出す。その顔は、そっくりさんではない限り同一人物だろう。
思いもよらない人物に、リデイラは思わず声が出た。幸いにも周囲は殿下に夢中で気付かなかった様だ。
アルベルトは一礼した後、ゆっくりとホール内を見渡して微笑んだ。
「在学生代表、アルベルト・レ・モルキアーナです」
一言も聞き漏らすまいとしているのか、騒がしかったのが嘘のようにシンと静まり返っている。
「先ずは皆さん、入学おめでとう。この学園に在籍して三年目になるけれど、君達より二年程早く入学しただけの私から言える事は殆どない。けれど、ここで安心している暇はないとだけ言っておこう。入学は終わりではなく始まりなのだから。この学園に入る事が出来た君達ならば、言わずもがな理解しているだろう。音楽に終わりは無いという事を。だから、只ひたすらに、これまでもそうであった様に己の技を磨くといいだろう。己の限界の更なる向こうへと辿り着けた者だけが精霊の棺の主たる精霊と契約出来るのだから」
荘厳な姿勢はどこまでも気高く、流石は将来は国を背負う立場に居る人間といったところだろうか。朗々と淀みない様子は、演説をし慣れている者特有の風格があった。
一区切り言い終えたのか、一度間を置いたかと思えばどこか重々しかった雰囲気を一掃し、笑みを浮かばせながら口を開いた。
「私は既に相棒たる精霊がいるが、まだまだ私も技を磨いている最中だ。だから、君達はライバルの内の一人だと言えよう。しかし、お互い萎縮したり遠慮をする必要は無い。精霊と契約できるチャンスがやって来たら逃さず挑むと良い。精霊が誰と契約を望むかは在籍年数も来歴も腕前さえも関係は無いのだから。しかし、醜く争う事だけは止めておく事だ。音響士(ムジチスタ)同士、背を預けて一緒に戦う事もあるのだから、禍根となるものは少しでも残さないに限る。それに、始めは小さなモノであろうと、大きく育ち、いつ嘆きの欠片に付け入られないとも限らないからね。まあ、つまり、何が言いたいかというと、切磋琢磨しながら、どんな時でも背を預ける事が出来る友人を作りながら、学園生活を大いに謳歌して欲しい。――以上で祝辞を終わります」
最後にまた会場内を見渡した後、アルベルトが一礼すると、誰かが拍手をしたのを皮切りに会場は大きな拍手と歓声の嵐となった。
リデイラも周りと合わせるように拍手を送るも、その内心は他の者と大きく異なっていた。
噂に違わず優秀そうな彼は、王族の気品を損なう事無く親しみやすそうな雰囲気も持ち合わせていた。これは確かに人気がありそうだ。
個人的に合奏した事が無いのに、友達を作る事を推奨してるとか、どの口が言ってるの。等とは思っていない。けして思ってはいないのだ。
そんな事よりも昨夜、あの場所で演奏をしていた相手であった事に眉根を寄せていた。
思わぬ再会をしてしまった時に居た彼は、意識の大半が奴に向けられていたとは言え昨夜の事を忘れてくれている事はないだろう。
けれど、その時に居たのは女子生徒だった程度に認識してくれていたら良いなと思ったリデイラは、アルベルトが会場内を見渡す際に目が合った気がした事を意図的に無かった事にしようとした。
客席はステージよりも暗い為、こちらから見える事はあっても逆はない筈だ。それに、前列の方とはいえ二階席と離れているので、顔すらよく見えないのだから気のせいに違いない。
そんなリデイラの内心を余所に、入学式は何事もなく無事に終わり幕が下ろされた。
そしてその席に座ったまま、希望する教授の師事下に入る手続きのやり方。または希望する教授が居ない場合の仮師事に入る手続きのやり方。生活するにあたっての注意事項等の説明会が始まった。
その内の殆どを上の空で聞き逃したリデイラだったけれど、全ての説明が終わり、次のアナウンスを聞いて意識を浮上させた。
「それでは次に、上級生による演奏を始めます」
アナウンスが終わると、客席の証明が落ち、ステージの幕が上がっていく。するとそこには既に楽器を構えている生徒達の姿があった。
これなら直ぐ様始められそうだなとリデイラが思っていると、指揮者が指揮棒を一振りし、本当に直ぐ始まってしまった。
音合わせしているのは聞こえなかったけど、大丈夫なのだろうか。そう心配したけれど、それは杞憂だった様で、始めの一音から一分の不協和音もなくスムーズな出だしだった。
春らしく、暖かで朗らかな曲調は入学の祝曲に相応しいと言えるだろう。妖精達も曲に合わせてゆっくりと飛び回っている。けれど、確かに完成度は高いけれど、これなら地元の発表会とそう変わりはない。
期待していただけに残念に思っていると、次の瞬間、目に見えて音が変わった。
ヴァイオリン二つ、ヴィオラ、チェロ、クラリネットというコンパクトな五重奏になっていた。
同じ楽器を複数演奏する事で出来ていた重厚感だったけれど、それが無くなった代わりに各々の一つ一つの音が際立つ。
(――この人達、明らかに他の人と違う!)
先程までは周りに合わせて音を出していたのだろう。音の出し方が変わっていた。それに合わせるかのように妖精達の数が増えている。
どの楽器が演奏しているかは音を聞いて分かっていたけれど、誰が演奏しているのだろうかとリデイラはステージを凝視した。
動いている人はやはり五人だった。そしてその内の一人は当然アルベルトだった。
(上手い人の中でも、やっぱりこの人の音が一番綺麗だ)
けれど、昨晩聴いたものよりは一段も二段も下がる。多分、他の四人に合わせているのだろう。十分美しいのだけれど、少し残念に思いながら次へと目を移した。
もう一人も同じヴァイオリンだったのですぐに見つける事が出来た。その青年の演奏も十分美しかったけれど、アルベルトと比較すると少しだけ劣る。
次に見つけたのはヴァイオリンの隣に居るヴィオラだった。ヴィオラの音がヴァイオリン、チェロとの美しい和音を引き立たせている。
そしてそのチェリストだけれど、意外な人物にリデイラはおや?と首を傾げた。この地に来てまだ二日目のリデイラが知っている顔は少ない。その中でも意外な人物だった。
(確か、名前はジェロなんとかさん。ジーノサマ、だったっけ?)
その人は昨日、沢山の女生徒を侍らせリデイラを子タヌキ呼ばわりしていた人だ。リデイラはもう関わり合うことは無いだろうと思い名前は忘れてしまった。
周りに居た女生徒と違い、彼には妖精の姿が見えている様だったけれど、それだけだろうと思っていたから驚いていた。
人は見かけによらないんだなあと、低く、まろやかな音を聴きながら次の人を探した。
最後は中央奥の方に居るクラリネットだ。クラリネットは五人の中でも紅一点の女性だった。
紅一点と言っても、その演奏に引けは無く、木管楽器らしく柔らかな音は独奏(ソロ)で聞いても十分魅力的だろうと思わせた。
そして極めつけに――。
「これは!」
その光景に思わず声を出してしまったリデイラだったけれど、周囲も同じように声を上げていたのでリデイラの声はかき消された。
リデイラと周囲の人が感嘆の声を出してしまっても仕方がない。そこにはまさしく異空間が広がっていた。
屋内ではありえない青空が広がり、その下では沢山の草花が青々と茂っているだけではない。
精霊と思わしき存在が五体ほど飛び回りながら、一体は炎の華を咲かせ獣に変化させ、また一体は渦潮の中から竜を生み出し炎の獣と戦わせ、ある一匹は大木を造り出したかと思えばそこから花を咲かせ、その花びらを踊るように操って見せた。
景色も一辺倒ではなく、精霊が何かをするたびに青空から一転し雷雲轟く嵐になったり、大雨の後虹を咲かせてみたりと忙しない。
これは、精霊による魔法だった。しかも、普通は得意の属性を使わせる事以外はとても難しいのに、一体で複数の属性を使用している精霊もいる。
ここの教師には現役の音響士も居るので、その精霊を借りての演出かと思ったけれど、それでは複数の属性を使用できている事の説明ができない。なので、これはあそこに居る五人が精霊の主なのだろうとリデイラは推測した。
一つの学校につき、一人以上の音響士が居る事すら凄いのに、この学園には生徒ですら五人も精霊と契約した者がいるらしい。
(ここならきっと、私も精霊と契約出来そう!)
その事実は、リデイラにそう思わせるには十分だった。
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