天上の鎮魂歌(こもりうた)~貴方に捧げるアイの歌~

ただのき

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第二幕・カプリッチョーソ(気まぐれ)に進む

12・珍客

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「……開かない。鍵が掛かってる?」

 今日も人の多い一階、二階を通り抜き、一階一階が無駄に長い階段を六階まで上がったリデイラを待っていたのは鍵の掛かった扉だった。
 ガチャガチャとノブを回してみるけれど、開く様子は無い。
 時刻は十時だ。早すぎても迷惑だろうと思いこの時間にやって来たけれど、教室の扉が開いていなかった。
 ここに来るまでの教室は全て開いており、既に幾人もの生徒で溢れていたというのに。
 確かに昨日、見学期が終わってから来るように言われたけれど、本格的に始まるまで用があり不在になるから、だろうか。
 いや、この学園に居る限りはそんな長期に渡る任務を言い渡される事は無い筈だ。では何故?と首を傾げたけれど答えは直ぐに出た。
 生徒達に会いたくないから、だろう。と。
 昨日の態度とソフィアの話しから、そう推測した。
 だとすれば、本当に見学期が終わるまで会う事は無いかも知れない。もしかすると、終わってからも会えないかも知れない。
 少なくとも今日は、鍵を掛けているが中に居るのか、そもそも居ないのかは分からないけれど、会う事は出来ないだろう。
 流石にその時はゼミを変えるかな。と思いながらリデイラは諦めて階段を下りる事にした。
 次にリデイラが向かったのは、昨日も行った林だった。
 ヴァイオリンの教室棟とは反対側にあるためか、通り過ぎて行く度にリデイラはチラチラと物珍しげに見られていた。
 普通は自分の専攻する楽器の教室棟付近で練習する人が多い為、仕方がないだろう。
 そう、なるべく意識しないようにしながら、人が少ない場所を探していた。
 木管楽器、金管楽器付近では持ち運べる楽器が多いのでやはり人影は多かった。
 けれど、打楽器棟付近まで来れば、音はあるものの、人影は殆ど無くなってきた。
 持ち運び出来ない物が多いのと、単に数そのものが少ないせいもあるだろう。
 昨日よりも更に奥まった場所まで来て、リデイラはようやく荷物を下ろす事にした。
 木陰にシートを敷いて、その上にヴァイオリンケースとバスケットを置いた。
 ここまで来るのに結構な距離を歩いた。練習棟が空いていない場合、これからは毎回この辺りまで来なければならないかと思うと非常に面倒だ。
 けれど、湖の畔には絶対に近付きたくはないので、こうするしか他に無いだろう。
 リデイラはげんなりした溜め息を吐いて、ヴァイオリンケースを開いた。

 どれくらいそうして練習をしていただろうか。
 額から流れてきた汗が目にしみたのを拭う為、リデイラはヴァイオリンを置いた。
 ふと空を見上げれば、太陽の位置が大分変わっている事に気が付いた。
 ここに来た時よりも傾いているという事は、昼時は既に過ぎてしまったのだろう。
 お昼を過ぎてしまっていると認識した時、リデイラのお腹が鳴った。
 その音は妖精にも聞こえてしまった様で、ケラケラと笑いながらお腹まわりをクルクルと回られてしまった。
(……恥ずかしい……)
 いくら聞かれたのが妖精だったとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 リデイラは一方向に去っていく妖精を見送り羞恥で少し頬を染めながら、お腹を押さえた。
 自覚をしてしまえば益々お腹が空いてくるような気がしたので、持って来たお弁当を食べる事にした。
 ヴァイオリンをケースに納めたリデイラは、シートに腰を下ろし、バスケットからランチボックスと水筒を取り出した。
 のども渇いていたので先に一口お茶を飲んでおこうと、コップへお茶を注いで一口、二口。けれど、コップ一杯では足りなくて、気が付けば三杯も飲んでしまっていた。
 まだ暖かい気候だけれど、外で長時間練習をするといつもよりものどが渇くらしい。これからまだ暑くなるので、水分補給は小まめにした方が良いのかもしれない。
 集中してしまうとどうしても色々な事を忘れてしまうので、出来ると良いなと思いながらようやくランチボックスを手に取った。
 聞いていた通り、お弁当の種類は沢山あり、リデイラが見たことの無い料理名もあった。
 それはソフィアも同じだったらしく、二人で悩んだ末に取り敢えずは馴染みのある物を選ぶ事にした。
 画像を見る限りは美味しそうだったけれど、未知の物を選んで、口に合わなかったら目も当てられないからだ。
 ランチボックスを開けると、あまり外食をしないリデイラでも馴染みのある物。こっちへ来る時にも機内で食べられるようにと持たされたサンドイッチが詰められていた。
 勿論、サンドイッチにも沢山の種類があった。リデイラが選んだのは、定番の卵やツナにハム等のミックスサンドだ。見た事のない名前の具材もあったけれどそちらはやはり選べなかった。

「……眠れる神様に祈りを。私達に糧を今日も感謝します」

 簡易の祈りを捧げたリデイラは早速、卵サンドを食べようと口を開いた時、ザワリと空気が不自然に揺れ、複数の妖精が再び現れた。
 演奏を終えると、大抵の妖精は演奏をしている他の人の所へ行くので、戻って来るのは珍しいなと思いながら、今度こそ卵サンドに噛り付いた。その時だ。

「やあ。こんな所に居るとは思わず、探すのに少し時間がかかってしまったよ」

 妖精達が現れたのと同じ方向から、金髪碧眼の見目麗しい青年が現れたので、リデイラは長時間外に居たので、熱中症にでもなって白昼夢でも見ているのかも知れないな。と青年から目を逸らした。

「おかげで妖精達に手伝って貰ってしまったよ。でも、こっちの方には中々足を運ばないから、こんな場所があるとは知らなかった。こっちは外で練習している人が少なくて良いね。たまには気分転換がてらに場所を変えるのも悪くはないかな」
「……ムシャムシャ」
「美味しいかい?この時間に食べているという事は、集中し過ぎて食べ忘れてしまったんだろう?分かるよ。私も食事をよく忘れてしまうからね。よく色んな人に注意されるのだけれど、こればかりはどうにも直らなくてね」
「……」

(――こいつ、居座る気だ!)
 関わる気はありません!と全身からオーラを出しているにも関わらず、気にした様子もなく話しかけてくる青年に、リデイラは内心で盛大に溜息を吐いた。
 ここには青年の他にはリデイラしか居ない。妖精に話し掛けている可能性も僅かながらには考えたものの、妖精は物を食べないので、その可能性は消えた。
 見えない何か、とまで考えて、目の前の青年を電波呼ばわりは出来ないので、諦めて向き合う事にした。
 それに、食べ続けているのも失礼なので、口の中の物を頑張って飲み込んだ。
 背けていた視線をそろそろと正面へと戻すと、金髪碧眼の青年──アルベルトと目が合った。



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