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第二幕・カプリッチョーソ(気まぐれ)に進む
13・関係のない、こと
しおりを挟む「……」
「……」
向き合ったのは良いけれど、その途端に黙るのはどうしてだろうか。
微笑みを浮かべながらジッと見られている事に耐えきれず、リデイラは再び目を反らした。
わざわざ妖精に手伝って貰う程に探していたのなら、用がある筈なのだけれど。
結局、先に折れたのはリデイラだった。
意を決して、アルベルトを見上げた。
「……何か、私にご用でしょうか」
聞いておいて何だけれど、その用が何かをリデイラは嫌々ながら薄々分かっていた。
「うん、そうだね。君も愚かでなければ察しは付いているのではないかな?」
愚か者でも良いから、関わらないでくれないかなあ。
ニコニコと微笑みながら、世間話をしているかのような軽さで毒を吐いたアルベルトにリデイラは再び目を反らしたくなった。
「君の事は前から知っていたよ。リデイラ・コンアフェルト。いや、今はファトジェラーレだったね」
(あれから調べたのではなく、知っていた?)
リデイラが不信感を露にアルベルトを見るけれど、当然の反応だと言わんばかりに微笑み返されるだけだった。
「私は君のお父上に会った事があるんだ」
「お父さまに……?」
父が亡くなったのはリデイラが五歳の頃だ。アルベルトもそう歳は変わらない筈なのに。
何故?と言葉にせずとも表情に出ていたのだろう。アルベルトは抑揚に頷いた。
「ラドルチェンド殿は至宝の精霊と契約を交わしていたからね。大きな式典等には必ず召されていたから、その時にね」
なるほど。確かに彼奴と契約をしていたのだから呼ばれたとしてもおかしくはないし、その時に面識を持っても不思議はない。
何を考えているのか表情に出やすいリデイラを見て、アルベルトはクスリ、と笑った。
初めてアルベルトの微笑みが少し崩れたけれど、それは僅かな変化だったのでリデイラは気付かなかった。
「ラドルチェンド殿は素晴らしい奏者だった。広域の音域を使い全ての属性の妖精を操り、圧倒的なまでの力を持って“嘆き”を鎮める様は正に圧巻だった。当時、私はまだ幼かったけれど、今でもはっきりと覚えているよ」
言いながらその時の光景を思い出しているのか、興奮し声が大きくなっている。
「だから、そんな彼が亡くなったと聞いた時は非常に残念だった」
リデイラはうつ向き、アルベルトから目を反らした。
父が死んでしまった原因を知っているからだ。
唇を噛み、苦しそうな表情を浮かべるリデイラを、父が亡くなった時の事を思い出して悲しんでいるとでも思ったのか、アルベルトは痛まし気に見下ろした。
「私は、ラドルチェンド殿の様な音響しになりたいと思ってきた。幸いにも、私にはいくらかの才能が有った様なので、精霊とも契約をする事が出来た。しかし、私はどうしても夢見てしまうんだ。彼の精霊と契約し、かつてのラドルチェンド殿の様になれないかと。だから、彼が精霊院に戻って来てからずっと、あそこで演奏し続けて来たんだ」
ようやく本題に入るのかと、リデイラは肩がピクリと揺れた。
「彼は、十年間の沈黙を破り姿を現した。君は走り去ってしまったから後の事は知らないだろうけれど、あの後彼と会話をしたんだ。私は彼と契約したいと望んだのだけれど、『主は既にいる』と断られてしまってね」
リデイラは反射的に右手の甲を押さえそうになったのをグッと堪えた。
けれど、その僅かな反応をアルベルトは冷静な目で観察していた。
「主は誰かと尋ねたけれど、彼はそれ以上何も語らず、精霊院に戻ってしまったんだ。けれど、彼が一度でも表へと現れたからには諦めたくなくてね。だから、正式に“主替え”を申し込もうと思っているんだ」
「……“主替え”?」
一体何を言われるのかと身構えていたけれど、想像していたものとは違う事を言われ、リデイラは目を瞬かせた。
「君も音響士を目指している者なら知っていると思うけど、精霊と契約するにはいくつか方法がある。主を失った精霊と契約をするか、新たに発見された精霊と契約をする。フリーの精霊と契約をするのが基本的だね。けれど、それ以外にも方法はある」
まるで、過去の罪を暴かれている様な気分だった。
それ以降を口にしないのは、自ら罪を告白させる為か。
リデイラは恐る恐る口を開いた。
「……既に主のいる精霊に契約を持ち掛ける事、ですよね?」
「又は、精霊自らが一方的に主を乗り替えるか、だね」
全てを見透かしているかのような物言いに、リデイラは視線を上げることが出来なかった。
「けれどまあ、今の主を気に入ったからこそ契約をしているのだから、鞍替えするなんて滅多に無いけどね。そんな事をするなんて、余程次の人の演奏が好きで仕方がなかったのだろうね」
フフ。とアルベルトは笑った。
「鞍替えをしないかと提案を持ち掛ける。それはあまり褒められたやり方ではないけれど、何らかの事情がある場合には仕方がないと推奨すらされている。……今回では、“契約主が、何らかの事情で側に居られないなら、新たな主を”という理由になるのかな。普通ならそれくらいの理由では許されないのだろうけど、彼は特別な精霊だからね。“主”が居る事を望まれているから皆も納得してくれるだろう」
確かに、悔しいけれど彼奴は他の精霊とは一線を画している。
だから皆、奴が活動可能状態である事を望むのだとは、分かっている。けれど。
(そんな事、私にはどうでも良い。関係ない)
私が音響士になるには関係ない事だと、リデイラは首を振る。
「お話は分かりました。しかし、どうしてその話を私にしたんですか?」
決定的な事は言われてはいなかったので、まるで理由が分からないと首を傾げた。
我ながら白々しいとリデイラは自嘲する。
「君が、使い手だったラドルチェンド殿の娘さんだったから、気になるかなって思ってね。それに、彼が目覚めた時に一緒に居たしね」
なるほど、飽くまでも前任の縁者に“気を使った”体を取るらしい。
そちらがそのつもりなら、それに乗るだけだ。
「そうですか。お気遣いありがとうございます。私としても、彼にパートナーが付くのは良い事だと思うので、それを聞いて安心しました」
これは、本心だった。
話は終わったと言わんばかりに、リデイラは少し顔を動かしてチラリと食べ掛けのランチボックスを見やった。
「そう。君のその言葉を聞いて、私も安心して挑む事が出来るよ」
リデイラの意図を悟ったのか「食事の邪魔をして申し訳無かったね」と最後にまた微笑みを残し、アルベルトは去って行った。
その背を見えなくなるまで見送った後、リデイラはサンドイッチに手を伸ばした。
そのサンドイッチが美味しくなかったのは、時間が経ってパサパサになったからだ。
リデイラはお茶でサンドイッチを流し込んだ。
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