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2.来訪①
その日、私は皇宮で開かれた舞踏会に参加していた。
アルコンスイエル帝国の建国祭の舞踏会。七日間毎夜開催されるもので、帝国貴族のほとんどが参加することになっている。
一日目は主要な貴族が集められており、イヴェール伯爵家は帝国の建国から続く歴史ある家系のひとつなので、私も参加していた。
両親とともに知り合いの貴族と挨拶を交わし、広間に流れる音楽が一段と明るくなったダンスの時間。
私はいつものように壁際で慎ましやかな花となっていた。
私――ラシェル・イヴェールとはそういう令嬢だ。
翡翠色の瞳に、茶色い髪はゆるやかに腰の下まで伸ばされている。
いつも淑やかに笑い、いつも大人しい。多くの貴族令嬢がそうであるように、私も淑女としてそうあるべきとして育てられた。
だから今日も大人しく慎ましやかな花となり、舞踏会会場をそれとなく見回す。
そして、目的の人を見つけた瞬間、私の胸が高鳴った。
「……青薔薇様」
帝国騎士の正装――漆黒の騎士服を着た男性。
歳は二十代前半ほどで、細身に見えるけれどしっかりと鍛え上げられた肉体に、腰に佩いている鮮やかな青色の剣の柄、それからひんやりとして見える淡い青色の瞳。
それらが、彼の存在を示している。
フェリシアン・ブルローズ。
ブルローズ公爵家の若き公爵にして、皇帝の右腕の騎士団長。
長く美しい金髪をひとつに結っているのが最初に目に留まるけれど、何よりも印象的な淡い青色の瞳は、冷たく思え、それでも口許には穏やかな笑みが浮かんでいる。
まだ独身であることから、多くの令嬢が彼の婚約者の座を狙っている。
私もひっそりだけれど、そんなフェリシアン様に憧れがあった。
彼を「青薔薇様」と称えるファンクラブに、両親に内緒でこっそりと入るほどには。
私はずっとこの気持ちを秘めてきた。あの日、助けてくれた時から。
ずっと秘めて、いつか忘れる。そんな想いのままで残しておこうと。
だけどこの日の私は、一大決心をしていた。
深呼吸をして、呼吸を整える。
それから、人の輪から外れて中庭に向かったフェリシアン様の後をつけることにした。どうしても伝えたいことがあったから。
ダンスの時間が始まってから間もないからか、中庭に他の人は見当たらなかった。
おかげでフェリシアン様の姿はよく見えているのに、いくら足を速く動かしてもなかなか追いつけない。
それもそのはず、相手は鍛え抜かれた騎士で、私は趣味の乗馬がせいぜいのただの貴族令嬢なのだから。そう簡単に距離が縮まるはずがない。
それでも今日、伝えなければいけなかった。
今日は無理なら明日、とは言えない。
今日じゃなければ意味がないのだ。
私は今日、彼に自分の想いを伝えることにしていた。
玉砕するのは目に見えているので、ただの想い出として。
ずっと、ずっと慕っていた人に、告白をしようと。
明日、私は親から決められた相手と婚約を結ぶことになっているから。
――そんな身勝手な考えを抱いてしまったから、罰があたったのかもしれない。
庭園の角を曲がったフェリシアン様を追いかけて曲がった先に見つけた人影。
やっと追いつけたことに安堵して、「あの」と声を上げて――。
追いかけるのに疲れていた私は、相手の顔をよく確認せずに告白してしまったのだ。
『ずっと前からお慕いしていました。よろしければ私と結婚を前提にお付き合いしてください!』
――って。
アルコンスイエル帝国の建国祭の舞踏会。七日間毎夜開催されるもので、帝国貴族のほとんどが参加することになっている。
一日目は主要な貴族が集められており、イヴェール伯爵家は帝国の建国から続く歴史ある家系のひとつなので、私も参加していた。
両親とともに知り合いの貴族と挨拶を交わし、広間に流れる音楽が一段と明るくなったダンスの時間。
私はいつものように壁際で慎ましやかな花となっていた。
私――ラシェル・イヴェールとはそういう令嬢だ。
翡翠色の瞳に、茶色い髪はゆるやかに腰の下まで伸ばされている。
いつも淑やかに笑い、いつも大人しい。多くの貴族令嬢がそうであるように、私も淑女としてそうあるべきとして育てられた。
だから今日も大人しく慎ましやかな花となり、舞踏会会場をそれとなく見回す。
そして、目的の人を見つけた瞬間、私の胸が高鳴った。
「……青薔薇様」
帝国騎士の正装――漆黒の騎士服を着た男性。
歳は二十代前半ほどで、細身に見えるけれどしっかりと鍛え上げられた肉体に、腰に佩いている鮮やかな青色の剣の柄、それからひんやりとして見える淡い青色の瞳。
それらが、彼の存在を示している。
フェリシアン・ブルローズ。
ブルローズ公爵家の若き公爵にして、皇帝の右腕の騎士団長。
長く美しい金髪をひとつに結っているのが最初に目に留まるけれど、何よりも印象的な淡い青色の瞳は、冷たく思え、それでも口許には穏やかな笑みが浮かんでいる。
まだ独身であることから、多くの令嬢が彼の婚約者の座を狙っている。
私もひっそりだけれど、そんなフェリシアン様に憧れがあった。
彼を「青薔薇様」と称えるファンクラブに、両親に内緒でこっそりと入るほどには。
私はずっとこの気持ちを秘めてきた。あの日、助けてくれた時から。
ずっと秘めて、いつか忘れる。そんな想いのままで残しておこうと。
だけどこの日の私は、一大決心をしていた。
深呼吸をして、呼吸を整える。
それから、人の輪から外れて中庭に向かったフェリシアン様の後をつけることにした。どうしても伝えたいことがあったから。
ダンスの時間が始まってから間もないからか、中庭に他の人は見当たらなかった。
おかげでフェリシアン様の姿はよく見えているのに、いくら足を速く動かしてもなかなか追いつけない。
それもそのはず、相手は鍛え抜かれた騎士で、私は趣味の乗馬がせいぜいのただの貴族令嬢なのだから。そう簡単に距離が縮まるはずがない。
それでも今日、伝えなければいけなかった。
今日は無理なら明日、とは言えない。
今日じゃなければ意味がないのだ。
私は今日、彼に自分の想いを伝えることにしていた。
玉砕するのは目に見えているので、ただの想い出として。
ずっと、ずっと慕っていた人に、告白をしようと。
明日、私は親から決められた相手と婚約を結ぶことになっているから。
――そんな身勝手な考えを抱いてしまったから、罰があたったのかもしれない。
庭園の角を曲がったフェリシアン様を追いかけて曲がった先に見つけた人影。
やっと追いつけたことに安堵して、「あの」と声を上げて――。
追いかけるのに疲れていた私は、相手の顔をよく確認せずに告白してしまったのだ。
『ずっと前からお慕いしていました。よろしければ私と結婚を前提にお付き合いしてください!』
――って。
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