告白相手を間違えた令嬢に待っていたのは、暴君皇帝からの寵愛でした。

槙村まき

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19.真実①

 フェリシアン様とともにテラスに出る。舞踏会の会場内の喧騒が嘘かのように、テラスは静かなところだった。
 静寂に満ちたところで、胸に置いた手をギュッと握る。

 確かに私は、フェリシアン様に手紙を送っていた。てっきり読まずに捨てているのだと思っていたのに、しっかり内容まで把握されてしまっているなんて。
 真っ先に感じたのは、嬉しさではなく、羞恥心だった。

 テラスの手すりまで歩いて行ったフェリシアン様が振り返る。

「イヴェール嬢は、オレが陛下を恨んでいると思っているんですよね」

 その目は澄んでいて静かで、いつも通り冷ややかだった。

「……それは、正解です」

 静かな声に、私は胸をギュッと掴まれた気持ちになる。

「オレは陛下を恨んでいます。彼の命を狙ったこともあります」

 さらりと伝えられた言葉に感情はなく、淡々としていた。

「なぜなら陛下は、オレの兄――エミリアンを、見殺しにしたからです」

 フェリシアン様の兄である、エミリアン様が陛下に殺されたという噂が過去にあったという情報を耳にした時、私は冷血な暴君ならやりかねないと思った。
 だからフェリシアン様に同情をしてしまい、あんな手紙を書いてしまったのだ。

 ひとりよがりな一方通行の手紙だと、そう思っていたから。

 だけど間違えて陛下に告白してから、その気持ちは薄まっていき、フェリシアン様に送った手紙の内容すらほとんど忘れていた。

「エミリアンは優秀な騎士でした。誰よりも強く、いまのオレよりも強い騎士。そんな騎士が、そう簡単にやられると思いますか?」
「……」
「だからきっと、陛下に殺されたんです。なぜなら陛下は」

 自分の親の首すら斬り落とす、暴君だから。

 実際の戦場がどうなっていたのか私にはわからない。戦争に参加できなかったフェリシアン様もそうだろう。
 でも疑いは恨みに変わり、恨みは憎悪に変わった。

 だから、やっぱりフェリシアン様は、陛下を――。


「あなたには教えてあげます。狩りのときに陛下の馬を弓で射たのはオレです」
「……っ、本当に?」
「はい。あなたがどうしてオレを慕っていたのかまではわかりませんが、オレはずっと陛下を殺すタイミングを狙っているのですよ」
「……それを、どうして私に話すのですか?」

 黙っていたら誰もフェリシアン様を疑わなかっただろう。
 彼はそれほどまでに周囲からの信頼を勝ち得ているのだから。

 私の問いかけに、フェリシアン様が首を傾げる。

「どうして、ですかね。なぜかわかりませんが、あなたには話したほうがいいと思ったんです」

 青い瞳はやはり冷ややかで、感情がないようだった。
 前まで焦がれていた瞳のはずなのに。

 フェリシアン様が近づいてくる。私は思わず、一歩後ろに下がった。

「どうですか、イヴェール嬢。陛下のそばにいるのが怖くなりませんか? 陛下のそばにいたら、オレみたいに陛下のことを恨んでいる人間に命を狙われるかもしれないんですよ」
「……っ」
「イヴェール嬢はオレのことを慕ってくれていたみたいですし、オレは関係ない人には手を出さない主義ですから、陛下を狙っても、あなたの命だけは守りたいと思っています」

 護衛ですからね、という声も渇いている。

「いまならまだ、引き返せますよ。それに、本当は陛下のことなんて、慕っていないんでしょう?」
「っ……私は……」
「オレの目は、誤魔化せませんよ」

 フェリシアン様との距離がどんどん縮まっていく。
 このまま本当のことを伝えれば、私は解放されるのだろうか。

 そんな考えが過ぎった時、会場に続くテラスの扉が開いた。

「なにをやっている」

 そこには、険しい顔をしている陛下が立っていて、金色の瞳で私たちをにらんでいた。

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