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21.新しい縁談
建国祭からもうすでに二カ月が過ぎようとしていた。
その間、私はほとんど屋敷から出ることはなかった。
アルベリクス陛下と私の婚約が解消されたと発表されたことにより、なぜか私に同情する声が高まった。なぜなら陛下は暴君と呼ばれていて、みんなから恐れられている。私との婚約もおそらく気まぐれだったのだろうと、そんな意見が大半だった。
だけど中には私の方に落ち度があったのではと考える人もいた。
両親は、陛下と婚約していた私に、次の縁談がしばらく舞い込んでこないのではないかと心配していた。
貴族令嬢の結婚適齢期は二十二歳ほどまでで、もうまともな縁談を望めないと思われていたのだろう。
このままだとおまえを幸せにしてあげることができないと、父はいつもの温厚な顔に沈痛な表情を浮かべていた。
だけどある人物から婚約の打診があり、それを喜んだ両親により、すぐに縁談がとんとん拍子に進んでしまった。
その人物の名前を聞いた瞬間、私に訪れたのが不安よりも嫌悪だったのだけれど。
ポール・ベルチエ伯爵。
あの男との結婚だけは絶対に嫌だったのに。
「喜べ、ラシェル。一度破談になった婚約だが、あちらの厚意により、再度婚約の打診があった。ラシェルはベルチエ伯爵と親しかっただろう?」
明るく話す父の言葉に、私はどうしても首を横に振ることができなかった。
それに貴族の結婚は、両親から勧められた相手とするものだ。今後新しい縁談が舞い込んでくるかもわからない状況で、断ればどうなるのか……。
私は渋々頷こうとして、だけど首が動かなかった。
両親は私のそんな態度をいいように解釈したようで、すぐに結婚できるように手配すると言っていた。
早く結婚してしまえば、もう前みたいにいきなり婚約を破談にされることもないと、両親はそう思ったのだろう。
――それが一カ月前のこと。
今日は、私とベルチエ伯爵との結婚式の日だ。
◆◇◆
アルベリクスは、よくあの日の出来事を夢に見ていた。
皇帝になる前のことだ。
アルベリクスは幼いころから死と隣り合わせの日々を送っていた。幼くして母を亡くし、父は自分を愛していない。
皇宮の使用人は関わると自分に害があるかもしれないとアルベリクスを遠ざけていた中で、唯一気にかけてくれたのが、当時の騎士団長であるエミリアン・ブルローズだった。
父に言われて、アルベリクスに剣を教えてくれた先代騎士団長。
そして、悪夢でいつも見る人でもあった。
五年前の戦場で、アルベリクスは窮地に立たされた。
味方陣営のテントのはずなのに、どこからか敵がやってきたのだ。
その戦いで、エミリアンはアルベリクスを逃すために、一人で戦い、そして戦死した。
それをただ遠くから見ていることができずに、アルベリクスは流れる涙を飲み込み、ただただ奥歯をギリギリと噛み締めた。
幼いころからの経験で、アルベリクスはすぐに悟ったのだ。これが自分を亡き者にしようとした、父である皇帝の策略であると。
隣国との戦争はもう長いこと続いている。
皇帝はただ戦争を遊戯だとしか思っておらず、誰が死んでも――それこそ、アルベリクスが死んでも気にしないだろう。
この無意味な戦争を止めるのにはどうしたらいいのか。
そう考えた結果――アルベリクスは、先代皇帝の首を斬ることにしたのだ。
当時のアルベリクスは、エミリアンの死によって沸き起こった炎のように熱い怒りにより、行動した。
――ただ、それだけだった。
その間、私はほとんど屋敷から出ることはなかった。
アルベリクス陛下と私の婚約が解消されたと発表されたことにより、なぜか私に同情する声が高まった。なぜなら陛下は暴君と呼ばれていて、みんなから恐れられている。私との婚約もおそらく気まぐれだったのだろうと、そんな意見が大半だった。
だけど中には私の方に落ち度があったのではと考える人もいた。
両親は、陛下と婚約していた私に、次の縁談がしばらく舞い込んでこないのではないかと心配していた。
貴族令嬢の結婚適齢期は二十二歳ほどまでで、もうまともな縁談を望めないと思われていたのだろう。
このままだとおまえを幸せにしてあげることができないと、父はいつもの温厚な顔に沈痛な表情を浮かべていた。
だけどある人物から婚約の打診があり、それを喜んだ両親により、すぐに縁談がとんとん拍子に進んでしまった。
その人物の名前を聞いた瞬間、私に訪れたのが不安よりも嫌悪だったのだけれど。
ポール・ベルチエ伯爵。
あの男との結婚だけは絶対に嫌だったのに。
「喜べ、ラシェル。一度破談になった婚約だが、あちらの厚意により、再度婚約の打診があった。ラシェルはベルチエ伯爵と親しかっただろう?」
明るく話す父の言葉に、私はどうしても首を横に振ることができなかった。
それに貴族の結婚は、両親から勧められた相手とするものだ。今後新しい縁談が舞い込んでくるかもわからない状況で、断ればどうなるのか……。
私は渋々頷こうとして、だけど首が動かなかった。
両親は私のそんな態度をいいように解釈したようで、すぐに結婚できるように手配すると言っていた。
早く結婚してしまえば、もう前みたいにいきなり婚約を破談にされることもないと、両親はそう思ったのだろう。
――それが一カ月前のこと。
今日は、私とベルチエ伯爵との結婚式の日だ。
◆◇◆
アルベリクスは、よくあの日の出来事を夢に見ていた。
皇帝になる前のことだ。
アルベリクスは幼いころから死と隣り合わせの日々を送っていた。幼くして母を亡くし、父は自分を愛していない。
皇宮の使用人は関わると自分に害があるかもしれないとアルベリクスを遠ざけていた中で、唯一気にかけてくれたのが、当時の騎士団長であるエミリアン・ブルローズだった。
父に言われて、アルベリクスに剣を教えてくれた先代騎士団長。
そして、悪夢でいつも見る人でもあった。
五年前の戦場で、アルベリクスは窮地に立たされた。
味方陣営のテントのはずなのに、どこからか敵がやってきたのだ。
その戦いで、エミリアンはアルベリクスを逃すために、一人で戦い、そして戦死した。
それをただ遠くから見ていることができずに、アルベリクスは流れる涙を飲み込み、ただただ奥歯をギリギリと噛み締めた。
幼いころからの経験で、アルベリクスはすぐに悟ったのだ。これが自分を亡き者にしようとした、父である皇帝の策略であると。
隣国との戦争はもう長いこと続いている。
皇帝はただ戦争を遊戯だとしか思っておらず、誰が死んでも――それこそ、アルベリクスが死んでも気にしないだろう。
この無意味な戦争を止めるのにはどうしたらいいのか。
そう考えた結果――アルベリクスは、先代皇帝の首を斬ることにしたのだ。
当時のアルベリクスは、エミリアンの死によって沸き起こった炎のように熱い怒りにより、行動した。
――ただ、それだけだった。
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