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第七章
過保護な夫
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王宮へ初出仕する日の朝、いつものようにレオンはエレノアを部屋まで迎えに行った。
扉が開くと鏡に向かっていたエレノアが立ち上がり、レオンの方へ振り返った。
胸の下で切り返されたドレスのシフォンを重ねた裾がふわりと揺れた。そして、窓から差し込む朝陽に透けて輝いている。
長く下ろした髪も逆光で光を帯びて神秘的な美しさを放っていた。
レオンは思わず息を呑んだ。
「そのドレスは可憐な君によく似合っている。きれいだ。」
そう言って、レオンはエレノアに近づくとさりげなく腰に手を回して、もう片方の手でエレノアの手をとりエスコートした。
そこには、夜遅くまで出かけていた疲れは感じられなかった。
朝食を終え、王宮へ向かう馬車の中で、レオンは懇々と子供に諭すようにエレノアに言い聞かせる。
「エレノア、王宮では絶対に一人にならないように気をつけて。呼び出されてもついていったりしてはいけないよ、たとえ相手が女性だとしてもね。必ずエドワード殿下に確認をとるようにするんだ。」
「レオン、わたしは子供じゃないのよ?」
「子供じゃなくても、君はまだ若い。王宮には隙あらば人を陥れようとする輩がたくさんいるんだ。夜会でも父は絶対に君を一人にしなかっただろう、そのくらい警戒して当然なんだ。」
急に兄にでもなったかのように、お説教をするレオンが面倒になったエレノアは、素直に返事をしてやりすごすことにした。
「わかりました。気をつけます。」
「帰りは迎えにいくから、ちゃんと待っててくれ。」
随分と心配症ね。
エレノアは思わずふっと笑みを浮かべる。
「エレノア?わたしは真面目に話してるんだ。本当にわかったのかい?」
「はいはい、ちゃんと気をつけます。」
前の晩は緊張でほとんど眠れなかったが、レオンが過剰に心配してくれるおかげで、エレノアの気分は軽くなっていた。
馬車が王宮に到着し、その場ですぐにお別れかと思いきや、レオンはエレノアを王子の執務室までエスコートしてくれた。
ノックをすると扉が開き、執務机に向かっていた王子が顔を上げて言った。
「レオン、ここまで送ってきたのか?心配症だな。」
「妻を一人にはさせられません。」
「案内人が待機していただろう?」
「見知らぬ者には任せられません。」
「見知らぬ者って‥王宮の使用人に対してひどい言い草だね。王族が信用できないってこと?」
「そこまでは言ってません。」
エレノアはレオンと王子のやり取りに驚いた。
こんな子供っぽいレオンは公爵様の前でも見たことがなかった。
殿下にあんな態度は良くないんじゃないかしら。
二人のやり取りにはらはらして、なんとか取り繕おうとエレノアは口をはさんだ。
「あの、殿下。わたしが不安だったものですから、ついてきてもらったのです。レオン、ここまで送っていただいてありがとうございます。」
すると、王子はやれやれといった表情でエレノアに言う。
「エレノア、かばわなくてもよい。まったく、レオンはいつもわたしに対してこんな感じなんだ。」
いつも?
エレノアが王子に対してなにか答えようとすると、レオンがそれを遮るようにエレノアの方へ向き直る。
「エレノア、帰りは部屋で待っていて。」
そう言うと、レオンはエレノアを抱き寄せ額に口づけをした。近くにいた王子の側近たちは慌てて目を逸らす。
い、今のは何!?
えっと?仲良く見せる演技なのかしら?
エレノアは突然のレオンの行動に動揺して固まってしまった。
「それじゃ、エレノア。また後で。」
そんなエレノアを残して、レオンはさっと部屋から立ち去っていく。
エレノアは口づけされた額を片手で押さえながら、ぽかんとしてレオンを見送った。
レオンの後ろ姿は美しかった。
鍛えられた背中に、締まった腰、長い足、一つに結んだ髪がさらりと揺れている。その場にいた侍女や男性の側近たちまでもが一連の出来事に思わず見惚れていた。
「まったく、気障な男だね。」
王子の一言で、皆はっと我にかえった。
扉が開くと鏡に向かっていたエレノアが立ち上がり、レオンの方へ振り返った。
胸の下で切り返されたドレスのシフォンを重ねた裾がふわりと揺れた。そして、窓から差し込む朝陽に透けて輝いている。
長く下ろした髪も逆光で光を帯びて神秘的な美しさを放っていた。
レオンは思わず息を呑んだ。
「そのドレスは可憐な君によく似合っている。きれいだ。」
そう言って、レオンはエレノアに近づくとさりげなく腰に手を回して、もう片方の手でエレノアの手をとりエスコートした。
そこには、夜遅くまで出かけていた疲れは感じられなかった。
朝食を終え、王宮へ向かう馬車の中で、レオンは懇々と子供に諭すようにエレノアに言い聞かせる。
「エレノア、王宮では絶対に一人にならないように気をつけて。呼び出されてもついていったりしてはいけないよ、たとえ相手が女性だとしてもね。必ずエドワード殿下に確認をとるようにするんだ。」
「レオン、わたしは子供じゃないのよ?」
「子供じゃなくても、君はまだ若い。王宮には隙あらば人を陥れようとする輩がたくさんいるんだ。夜会でも父は絶対に君を一人にしなかっただろう、そのくらい警戒して当然なんだ。」
急に兄にでもなったかのように、お説教をするレオンが面倒になったエレノアは、素直に返事をしてやりすごすことにした。
「わかりました。気をつけます。」
「帰りは迎えにいくから、ちゃんと待っててくれ。」
随分と心配症ね。
エレノアは思わずふっと笑みを浮かべる。
「エレノア?わたしは真面目に話してるんだ。本当にわかったのかい?」
「はいはい、ちゃんと気をつけます。」
前の晩は緊張でほとんど眠れなかったが、レオンが過剰に心配してくれるおかげで、エレノアの気分は軽くなっていた。
馬車が王宮に到着し、その場ですぐにお別れかと思いきや、レオンはエレノアを王子の執務室までエスコートしてくれた。
ノックをすると扉が開き、執務机に向かっていた王子が顔を上げて言った。
「レオン、ここまで送ってきたのか?心配症だな。」
「妻を一人にはさせられません。」
「案内人が待機していただろう?」
「見知らぬ者には任せられません。」
「見知らぬ者って‥王宮の使用人に対してひどい言い草だね。王族が信用できないってこと?」
「そこまでは言ってません。」
エレノアはレオンと王子のやり取りに驚いた。
こんな子供っぽいレオンは公爵様の前でも見たことがなかった。
殿下にあんな態度は良くないんじゃないかしら。
二人のやり取りにはらはらして、なんとか取り繕おうとエレノアは口をはさんだ。
「あの、殿下。わたしが不安だったものですから、ついてきてもらったのです。レオン、ここまで送っていただいてありがとうございます。」
すると、王子はやれやれといった表情でエレノアに言う。
「エレノア、かばわなくてもよい。まったく、レオンはいつもわたしに対してこんな感じなんだ。」
いつも?
エレノアが王子に対してなにか答えようとすると、レオンがそれを遮るようにエレノアの方へ向き直る。
「エレノア、帰りは部屋で待っていて。」
そう言うと、レオンはエレノアを抱き寄せ額に口づけをした。近くにいた王子の側近たちは慌てて目を逸らす。
い、今のは何!?
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「それじゃ、エレノア。また後で。」
そんなエレノアを残して、レオンはさっと部屋から立ち去っていく。
エレノアは口づけされた額を片手で押さえながら、ぽかんとしてレオンを見送った。
レオンの後ろ姿は美しかった。
鍛えられた背中に、締まった腰、長い足、一つに結んだ髪がさらりと揺れている。その場にいた侍女や男性の側近たちまでもが一連の出来事に思わず見惚れていた。
「まったく、気障な男だね。」
王子の一言で、皆はっと我にかえった。
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