結婚はするけれど想い人は他にいます、あなたも?

灯森子

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第八章

不器用なレオン

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「我ながら情けないな‥。」
エレノアの部屋を出て、自室に戻ったレオンは思わず呟いた。


婚礼を控えたグレイスが狩り場にいるとは思わなかった。しかも、カイル・マグライドを伴って。
レオンは、王女一行を見送りながら、カイルを見つめているエレノアに気がついてしまった。
そんなエレノアを見つめながら、レオンは思った。

あれだけ想っていたんだ、忘れられないのだろうな。


王宮の訓練所に出入りしているレオンは、カイルと既に何度か会っていた。
挨拶程度に言葉をを交わしたくらいだが、エレノアとはもう連絡すら取っていないということは聞いた。
正直、カイルの気がしれないと思った。
どうしてそんなにあっさりと、エレノアを手放せるのか。エレノアがカイルを探すためにしてきたことを思うと、レオンの胸までも傷むというのに。

わざわざ身を引いて、カイルをポリニエールに行かせたのに、レオンのしたことは無駄だったのだ。
あのとき、カイルから届いた手紙には、視察の報告と、王室からの依頼を引き受けたからポリニエールを離れるということが書かれていただけだった。

そんな状況で、王子からエレノアを王宮で働かせると聞いたとき、真っ先に浮かんだのが、エレノアとカイルが鉢合わせするのではないかということ。
そして危惧していたことが、まさか狩場で起こるとは。


グレイス一行の姿が見えなくなると、エレノアに声をかけた。
「どうする?戻って休むか?」
エレノアは明るく答えた。
「続けましょう。まだ一匹も捕まえてないもの。」
そして、何事もなかったかのように狩りを続けた。エレノアは一羽の雉をしとめた。夕食にしようと、初めての獲物にはしゃぐ彼女が、無理をしているように見えた。

夕食の間も、エレノアは努めて明るく振る舞い、笑顔でおしゃべりしているが、レオンは見抜いていた。心からの笑顔ではないことに。

だから、思い切って眠る前のエレノアを訪れてみた。

しかし、いざエレノアと向き合うと、なんと声をかけていいかわからなくなった。
「今日のことだが‥。」
なにか話さなければと焦るが、夫の立場でカイルと再会してどうだったか、などと聞けるわけもない。
そもそも、勝手に日記を盗み見なければ、知りようのなかったことなのだから。

けっきょく、グレイスと二人きりでどんな話をしたのか聞くぐらいしか思いつかなかった。

屋敷と違い、天幕の仄暗い部屋で見るエレノアは、今にも消えてしまいそうにはかなくみえた。

「そうか‥他には?」

初めて会った時よりも、大人びてきた横顔をじっと見つめていると、エレノアが振り向いた。

エレノアがレオンを見つめ返してくる。わずかな沈黙の間に、危なげな空気が流れる。

「他には‥とくにこれといって‥」

真っ直ぐに見つめてくるエレノアの瞳に、自身の鼓動が高まってくるのを感じたレオンは、話を切り上げることにした。
「‥疲れているところ悪かった。」
動揺を悟られないように、エレノアの額に口づけをして誤魔化すと、自分の部屋へ逃げ帰った。



不甲斐ない自分を嘆いていれば、「レオン様」とノックと共に声がかかった。予定より早く着いたウィレムが、レオンを呼んでいるという。
もう休んでいるであろうエレノアを起こさないように、レオンはそっと外に出た。

ウィレムの天幕にはエドワード王子がいた。
「殿下?こんな時間に集まって何かありましたか。」
すると王子が答えた。

「トリオ・プレイリーが領地から消えた。」

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