58 / 71
第八章
事件の顛末
しおりを挟むトリオ・プレイリーは生涯に渡り、領地から出ることを禁止されていたはずだった。
王都のロゼンタール屋敷には、プレイリー伯爵家の、ただの三男坊にすぎないトリオが、伯爵であり小公爵夫人であるエレノアに怪我をさせたと報告があがった。
レオンは、トリオ・プレイリーの名に聞き覚えがあった。
エドワード王子が調査している件でリストに上がっていた男だ。たしか、女癖の悪い男だった。
ウィレムもジュリアンも、エレノアに請われたとおり、詳細は伏せていたが、レオンに問い詰められれば、トリオが不埒な真似をしようとしていただろうことに言及せざるを得なかった。
レオンは直ちにプレイリー家を潰してやろうと思ったが、エレノアがジュリアンに黙っていてほしいと言ったこともあり、ウィレムに大事にしないよう説得された結果、エレノアの差配に任せることにした。
エレノアは、ポリニエールとプレイリーが代々のつきあいであったことを尊重し、家内でトリオに然るべき処罰を与えること、すでに始まった取引きについては履行するが、独占契約は破棄し、それ以降新たな取り引きは一切しないことを通告した。
プレイリー伯爵は、ロゼンタールが乗り出していれば一家取り潰しになっただろうところを、エレノアの温情に感謝し、トリオを鞭打ちの後、謹慎に処し永遠に領地に留めると約束した。
そのトリオが、プレイリーの領地から姿を消したのだ。
一方で、気まずい空気だけを残して、レオンが部屋を出て行ってしまい、残されたエレノアはなかなか眠れずにいた。
結局、レオンは何が知りたかったのかしら。
口づけされた額に手を当てながら、うーん、と頭をひねるがわからない。
エレノアは水を飲みに部屋を出た。
天幕のなかは静まり返っていた。ダイニングで水差しを見つけると、グラス一杯の水で喉を潤した。そこから繋がる厨房のさらに向こうに、外への扉があるのが見えた。
エレノアはなんとなく外に出てみた。
周りには空の木箱が詰まれ、少し離れたところには井戸が見えた。
少し湿った夜風が肌にまとわりつくが、暑くもなくかといって涼しくもなく、気持ちの良い夜だった。
すぐに隣の天幕に灯りが灯っているのが目に入った。
ウィレムがもう着いたのね。
エレノアはしばらくぶりの人懐っこい義弟に、早く会いたいと思った。
ウィレムの天幕に近づいて、そっと中を覗いてみる。薄明かりの中を、見渡してみるが誰もいない。
どうやら一つ奥の部屋にいるようだ。
エレノアは、ほんのいたずら心で、足を忍ばせてそっと天幕の中に入った。
「‥ならば、エレノアは危険なのでは。」
突然、自分の名前が聞こえてきて思わず足を止めた。
「兄上が側にいれば手は出せないよね」
レオンとウィレムの声だ。
「トリオ・プレイリーはそこまで大それたことのできる男ではなさそうでしたが‥。」
レオンの口からトリオの名が出た。
「トリオ一人ならそうかもしれない。だが、カビニアの一件もあるからな。」
今のは王子様の声?
カビニアの一件って?
まさか‥。
レオンも、王子様まで?
カビニアでのことを知っているの?
エレノアはそっとその場を離れ、天幕に駆け戻ると、頭から掛布をかぶりうずくまった。
26
あなたにおすすめの小説
契約通り婚約破棄いたしましょう。
satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、
『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。
・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合
・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合
・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合
・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合 』
です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。
相手が身内だろうとも契約は契約です。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる