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第八章
優しさのわけ
しおりを挟む恥ずかしい‥。
どこまで知られているのだろう。
エレノアに非はないとはいえ、襲われかけたなんて不名誉なことは知られたくなかった。
ジュリアン、言わないでって言ったのに!
しかも、王子様まで。どうして?いつから?
蹲っていたエレノアは、起き上がると枕を抱きしめバンバンと叩いた。
皆に知られていたことを、自分だけが知らなかった。
自分の身一つ守れないような、弱い女が領主では頼りないと判断されたのだろうか。
だから離婚が認められなかったの?
だからレオンは、優しくしてくれるの?
それなのにわたしは‥。
一人で生きていく決心だなんて‥笑っちゃうわね。
エレノアは自嘲した。
翌朝、いつも通りにレオンが迎えにきた。
昨晩の会話を聞かれていたなどと、全く気づいていないのだろう、普段どおりに穏やかな笑みで「おはよう、エレノア」と。
カビニアのことを知られていると思うと、まともにレオンの顔を見ることができない。
結婚してからずっとレオンは、こうして毎朝エレノアの元へと迎えに来てくれる。
それが、望まぬ結婚だとしても妻への礼儀を欠いてはいけないからという、レオンの生真面目さゆえの行動だとわかっていても、エレノアはうれしかった。
不安な夜を一人寝で過ごしても、朝には必ず迎えに来てくれるから寂しくなかった。
けれど今は、うれしいと思えなかった。
エスコートされ、朝食の間につくとウィレムが先に席についていた。
ウィレムはすっと立ち上がり、屈託のない笑顔で挨拶をしてきた。
「義姉さん、お久しぶりです。」
ウィレム、あなたもよ。よくも皆に話したわね。
エレノアは内心腹立たしかったが、笑顔でウィレムを迎える。
「ウィレム、元気そうね。なんだか前より逞しくなったみたいね。」
エレノアが王都に戻るのと入れ替わりのように、ウィレムはアラメールの叔父の元に行った。そこでかなり鍛錬をしていたようだ。
「背だって伸びたんですよ。そのうち兄を追い越しますから。」
ウィレムはあと一年もすれば本当にレオンを追い越しそうだった。
食事の間、ほとんどウィレムがしゃべり続けていた。
「今年は僕が優勝してみせますよ。」
フィデリタス騎士学校を卒業してから、初の狩猟大会で、ウィレムは張り切っていた。
「レオン、あなたも行ってください。」
エレノアはレオンにウィレムと一緒に狩りに行くよう促した。
「いや、エレノア、君と一緒に行くよ。きのう雉を捕まえただろう、今度はキツネを捕まえよう。」
レオンはきょうもエレノアに付ききりでいる気だ。
きのうの話しを聞いていなければその優しさを素直に受け入れ、喜んだだろう。
けれど、理由を知ってしまった以上、申し訳なくて甘えることなどできない。
エレノアはそう思っていた。
「いいえ、わたしにお付き合いいただかなくても、あなたはあなたの狩りを楽しんできてください。」
「しかし‥、君を一人にはできない。」
レオン、もういいのよ。
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エレノアは、自分が弱いせいでレオンを縛りつけていることが嫌だった。
「では一人で待ってます。天幕から出ないと約束します。それならいいでしょう?」
「義姉さん?兄さんは勝敗には興味ないから一緒に楽しめばいいんですよ。」
ウィレムは突然ギクシャクし出した二人を取り持とうと口を挟む。
「いいえ。優勝して欲しいかとわたしに聞いたではありませんか。」
エレノアはレオンにきりっと目を向ける。
「いや、それは。冗談というか‥その‥。」
つい言葉を濁してしまうレオンに対して、
「優勝してくださいませ。」
エレノアは言い切った。
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