君が残してくれたものに、私は何を返せるだろう。

加藤やま

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第3話 ヤンキー君は大体猫に優しい

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 帰り道は桜を堪能するため森を半周する正規のルートで下校することにした。見事に咲き誇る桜に見とれながら帰っていると、ヤンキー君……山石君だっけ?がうずくまって何かしている。また睨まれでもしたら怖いから、見つからないように恐る恐る様子をうかがってみる。何かを一生懸命触っているみたいだ。手元をよく見てみると、今朝森の道案内をしてくれた猫の大将が嬉しそうになでられていた。私が話しかけた時には不愛想だった大将がこんなにリラックスした顔をするなんて……
 少しの嫉妬心を燃やしながらもう少し近づいてみると、山石君は大将をなでながら何か真剣に話し込んでいる。こんなに言葉が話せたのかって思うくらい饒舌にしゃべってる。猫に何をそんなに相談したいことがあったのか、人間には全然しゃべんなかったのに。そして、私が眺めていることには一向に気づく気配もなく、山石君はおもむろに大将を持ち上げるととびっきりの笑顔を作ったのだった。しかも、ちょっと声も出しながら。
「……ギャップ萌えか!!」
 思わず心の声を叫んでしまっていた。その声に驚いて大将は逃げ出してしまい、山石君も目をまん丸にしながらこちらも見つめている。しまった……眺めて逃げるつもりが、もうこうなったらヤケだ。
「その見た目なのに動物好きで笑顔が可愛いとかギャップ萌え要素しかないじゃん!もっとヤンキーだと思ってたのに!この裏切り者!朝から怖がってたせいで無駄にした私の時間を返せ!」
 何を言っているのかぎりぎり聞き取れるかどうかの速さで、思ったことを全部ぶつけてしまった。お母さん、ごめんなさい。私の人生は今日で終わるかもしれません。きっと全部聞こえてたら、今度こそ睨まれるだけでは済まないはず。できるなら海に沈めるのはやめてほしいなぁ、溺れるのって苦しいって聞くし。
「その……この見た目?金髪?怖いのかな?……高校では友達を作ろうと思って……中学は病気であんまり行けてなくて……」
 威嚇された時と自己紹介以外で初めてちゃんと聞き取れた山石君の言葉は、予想外にも非常に柔らかいものだった。
「うーんと……え?じゃあ無愛想なのは?睨んでくるのは?」
「……人と話すのはあんまり得意じゃなくて……睨んでるつもりはなくて……コンタクトにしてみたけど合わなくて……」
「コンタクトが合わなくてって……ベタ!目線怖い子の言い訳第1位のやつ!」
 意外や意外、話してみると物腰も柔らかくむしろ大人びた印象を与える話し方だった。
「何よそれ!全然ヤンキーじゃないじゃん!友達作るために金髪にするって……絶対逆効果でしょ。」
「そうなのかな……?ネットではこうしたら良いって……」
「ネット情報を鵜吞みにするなんて、絶対やっちゃダメでしょ。あんなもの嘘もホントも見分けつかないんだから。そんなもの信じるよりも、もっと自分らしく生きればいいのよ。」
 絶賛自分らしさを見失い中の人間が、自分を棚に上げてアドバイスしてるのが可笑しかった。
「そう……かな?中学では友達できなかったし……」
「大丈夫。だって今の山石君は私が友達になりたくなったもん。」
 これは本心で間違いない。話してみると、穏やかで安心する人柄なのがすぐに分かった。
「本当に?そっかぁ……自分らしくか。明日からやってみようかな!ありがとう、森野さん。」
 大将に向けられていたのと同じ笑顔を、今度は私に向けて嬉しそうにしている。面と向かって自己紹介もしてないのに、山石君は私の名前を憶えてくれていた。きっと、本当に友達を作りたくて努力したんだろう。勝手にヤンキー君なんて呼んでた自分が急に恥ずかしくなってしまった。
 その後も少し話してみた結果、山石君は素直に人の意見を聞けたり真っ直ぐに努力や感謝ができたりする心優しい青年であることが判明した。きっとみんなも少しでも彼と関わりを持てば、きっと彼のことを誤解していると気づくはずだ。でも、人見知りみたいだしこんな見た目だし、そのきっかけ作りに私がちょっとお手伝いしてあげた方が良さそうだな。
 朝からは想像もできなかったけど、明日のことをちょっと楽しみに考えてる自分がいた。なんだか、これから山石君と楽しい学校生活が送れそうな予感がどこからともなく湧き上がってきていた。
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