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第35話 君とのデート当日③
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五里先生がすごすごと帰っていく後ろ姿を見送りながら、先生の言葉を改めて嚙みしめる。
「後悔のないように、か……」
隣で山石君がぼそりと呟いた。同じように先生の言葉を噛みしめ、飲み込んでいたみたいだ。
「普段は軽い感じなのに、なんだか先生っぽいこと言ってたね。やっぱり大人って決める時は決めるんだね。」
「たしかに。先生の言葉はいつまでも忘れられないだろうな。僕もひとかけらの後悔を残さないように生きなきゃ。」
きっと残された人生があとどのくらいなのかが見え始めている山石君にとって、これからの出来事はすべてが最後の一回になってしまうかもしれない。そんな彼だからこそ、先生の言葉はより響いたんだろうし、先生も彼にその言葉を贈ったんだろう。
私も、山石君と過ごす時間がいつ最後になってもおかしくない。いや、別に病に侵されてなくても、人間いつ突然人生が終わるか分からないんだ。だからこそ、この一瞬一瞬を後悔のないように最高の時間にしなきゃ。
決して生半可な気持ちや適当な準備で今日を迎えたわけじゃないけど、やっぱり今日のデートは最高のものにしたいという気持ちがますます強くなった。
「よし!そろそろお昼時じゃない?今日のレストランは私が予約しておいたから行こっか。」
「レストラン?病院からは出ないんだよね?」
「まぁまぁ、それは着いてからのお楽しみってことで。」
まだ肌寒さの残る中庭から暖房の効いた病院内に戻って体の末端が温もっていくのを感じながら、山石君を食堂がある病棟に連れて行く。どこに連れ去られるのか不安そうにしていた山石君も、行き先の見当がついたようで安心しながらも力ない笑顔に変わっていた。ふふん、いつもの食堂だと思ったら大間違いなんだから。
「いらっしゃいませ。ようこそ、リストランテ・ラメールへ。」
給仕服に身を包んでノリノリで店員さんをやってくれてるのは、普段山石君がお世話になっている看護師さんや理学療法士さんたちだ。今日のことを相談するといろいろとアドバイスをくれて、その上こうやってコスプレまでしてくれたのだ。
「すごいすごい!本物の店員さんみたい。でも、仕事をしてなくていいの?」
「今は少し早いお昼休みをもらってるのでご心配なく。余計なことは考えずに、しっかりおもてなしされなさい。」
車いすを押す手を代わってもらい、予約してある特別席まで案内してもらう。簡単なパーテーションも用意してもらって、私たちの席だけ半個室みたいになっていた。テーブルもクロスを敷いて花を飾ったり食器を並べたりして、いかにもフランス料理屋さんにありそうなテーブルに仕上がっていた。看護師さんたちは準備の段階からすっごくノリノリで手伝ってくれたんだけど、やりすぎて後で怒られたりしないかな?
山石君は食堂に入ってから、わぁっ、おぉっ、とか言っていちいち反応してくれて、楽しんでくれているのが伝わってきた。
「店員さんだけじゃなくって、テーブルまでフランス料理っぽいね。すごい本格的だ。準備大変だったでしょ?めっちゃ楽しいよ。ありがとう。」
きっと山石君はサプライズはここまでだと思っているんだろう。しかし、まだまだこれだけじゃ終わらないよ。
「こんなにセットして運ばれてくる料理がいつもの病院食じゃ味気ないでしょ。料理も特別なのを用意したから。あっ、ちゃんと栄養士さんとも相談してるから安心してね。」
そうして給仕係のお姉さま方からワイン風のぶどうジュースや前菜、魚料理などフランス料理のコースに見立てて料理を運んできてもらう。
「すごいねぇ。全部本格的だし、とっても美味しいよ。もしかして、これ全部森野さんが……?」
「ふっふっふ、私の多才さに恐れおののいたでしょ。っと言いたいところだけど、今って冷凍食品がすっごい進化してるんだね。ポチポチっとしたらあっという間にヘルシーで美味しいフランス料理が届いてきちゃった。」
「……そうだよね!料理までこんなプロ級かと思ってびっくりしたよ。でも、こうやって準備してくれた時間と気持ちが本当に嬉しい。」
「いやぁ、それほどでも。山石君は時々、超真っ直ぐぶつけてくるから上手く反応できなくなるよ。さっ、次はメインだよ。楽しみにしてて。」
「うん。楽しみだなぁ。」
私何食わぬ顔してますが、実はここでも仕込んでありますよ。何も知らずにニコニコしてるけど、メインが来た時に驚く顔が楽しみだなぁ。
「後悔のないように、か……」
隣で山石君がぼそりと呟いた。同じように先生の言葉を噛みしめ、飲み込んでいたみたいだ。
「普段は軽い感じなのに、なんだか先生っぽいこと言ってたね。やっぱり大人って決める時は決めるんだね。」
「たしかに。先生の言葉はいつまでも忘れられないだろうな。僕もひとかけらの後悔を残さないように生きなきゃ。」
きっと残された人生があとどのくらいなのかが見え始めている山石君にとって、これからの出来事はすべてが最後の一回になってしまうかもしれない。そんな彼だからこそ、先生の言葉はより響いたんだろうし、先生も彼にその言葉を贈ったんだろう。
私も、山石君と過ごす時間がいつ最後になってもおかしくない。いや、別に病に侵されてなくても、人間いつ突然人生が終わるか分からないんだ。だからこそ、この一瞬一瞬を後悔のないように最高の時間にしなきゃ。
決して生半可な気持ちや適当な準備で今日を迎えたわけじゃないけど、やっぱり今日のデートは最高のものにしたいという気持ちがますます強くなった。
「よし!そろそろお昼時じゃない?今日のレストランは私が予約しておいたから行こっか。」
「レストラン?病院からは出ないんだよね?」
「まぁまぁ、それは着いてからのお楽しみってことで。」
まだ肌寒さの残る中庭から暖房の効いた病院内に戻って体の末端が温もっていくのを感じながら、山石君を食堂がある病棟に連れて行く。どこに連れ去られるのか不安そうにしていた山石君も、行き先の見当がついたようで安心しながらも力ない笑顔に変わっていた。ふふん、いつもの食堂だと思ったら大間違いなんだから。
「いらっしゃいませ。ようこそ、リストランテ・ラメールへ。」
給仕服に身を包んでノリノリで店員さんをやってくれてるのは、普段山石君がお世話になっている看護師さんや理学療法士さんたちだ。今日のことを相談するといろいろとアドバイスをくれて、その上こうやってコスプレまでしてくれたのだ。
「すごいすごい!本物の店員さんみたい。でも、仕事をしてなくていいの?」
「今は少し早いお昼休みをもらってるのでご心配なく。余計なことは考えずに、しっかりおもてなしされなさい。」
車いすを押す手を代わってもらい、予約してある特別席まで案内してもらう。簡単なパーテーションも用意してもらって、私たちの席だけ半個室みたいになっていた。テーブルもクロスを敷いて花を飾ったり食器を並べたりして、いかにもフランス料理屋さんにありそうなテーブルに仕上がっていた。看護師さんたちは準備の段階からすっごくノリノリで手伝ってくれたんだけど、やりすぎて後で怒られたりしないかな?
山石君は食堂に入ってから、わぁっ、おぉっ、とか言っていちいち反応してくれて、楽しんでくれているのが伝わってきた。
「店員さんだけじゃなくって、テーブルまでフランス料理っぽいね。すごい本格的だ。準備大変だったでしょ?めっちゃ楽しいよ。ありがとう。」
きっと山石君はサプライズはここまでだと思っているんだろう。しかし、まだまだこれだけじゃ終わらないよ。
「こんなにセットして運ばれてくる料理がいつもの病院食じゃ味気ないでしょ。料理も特別なのを用意したから。あっ、ちゃんと栄養士さんとも相談してるから安心してね。」
そうして給仕係のお姉さま方からワイン風のぶどうジュースや前菜、魚料理などフランス料理のコースに見立てて料理を運んできてもらう。
「すごいねぇ。全部本格的だし、とっても美味しいよ。もしかして、これ全部森野さんが……?」
「ふっふっふ、私の多才さに恐れおののいたでしょ。っと言いたいところだけど、今って冷凍食品がすっごい進化してるんだね。ポチポチっとしたらあっという間にヘルシーで美味しいフランス料理が届いてきちゃった。」
「……そうだよね!料理までこんなプロ級かと思ってびっくりしたよ。でも、こうやって準備してくれた時間と気持ちが本当に嬉しい。」
「いやぁ、それほどでも。山石君は時々、超真っ直ぐぶつけてくるから上手く反応できなくなるよ。さっ、次はメインだよ。楽しみにしてて。」
「うん。楽しみだなぁ。」
私何食わぬ顔してますが、実はここでも仕込んでありますよ。何も知らずにニコニコしてるけど、メインが来た時に驚く顔が楽しみだなぁ。
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