34 / 59
第34話 君とのデート当日②
しおりを挟む
こちらの呼び声を聞いて近づいてきた人影は、次第に大きくなるにつれて申し訳なさそうにしているシルエットが浮かび上がってきた。
「本日1人目のサプライズゲストはー……な、な、なんと!みなさん、もうお馴染みの体育の先生でーす!」
「みなさんって……聞いてるの僕しかいないけど。」
「細かいことはいいの!」
「なんか、すまんな。サプライズがこんなので。」
「いえいえ、先生に来ていただけるなんて予想もしてなくて嬉しいですよ。」
せっかくのサプライズゲストだったけど、なんだか微妙な空気にしてしまった?
「ええっと、気を取り直しまして。本日先生にお越しいただいたのは、山石君と一勝負してもらうためです!私の人脈の中で最も囲碁が強い人が先生だったので、山石君も手ごたえのある試合ができるかと思いまして。」
「そうだったのか!?てっきりただの見舞いかと。」
「え?先生もご存じなかったんですか?」
「あー、言ってなかったような、そうでもないような?」
「森野さん……」
「まぁまぁ、せっかく来てもらったんだし、一局打ってみては?」
「まぁ、山石先生が良ければ、俺は構わんが。」
「僕も、打てるのは嬉しいですけど。」
「じゃあ、良かった!ささ、先生はこちらにどうぞ。」
先生と席を入れ替わって、山石君の正面を譲る。2人とも初めはぎこちないなかったけど対局の準備をし始めるとだんだんと試合モードになったみたいで、対局が開始すると真剣な目つきになっていた。
「……どうしてそこに打つんだ?」
「これは、展開によっては後々生きてくるので……」
「……ううむ、ここら辺かな?」
「あぁ、いい手ですね。そうなると……」
「……なるほど、ここでさっきのが生きてくるのか。」
対局が始まると、2人は言葉数少なに互いの手を分析し合いながら和やかに進んでいった。けど、やはり地力の差は大きいのか山石君の陣地がみるみる大きくなっていくのが素人目に見ても分かった。ほぼ試合が決しかけた頃に、先生がぽつぽつと囲碁とは関係のない話もし始めた。
「しかし、突然来て、突然打たせてしまって、申し訳なかったな。」
「いえいえ、僕も久しぶりに先生に会えて、久しぶりに真剣に打てて嬉しいです。」
「山石は本当に人間ができてるなぁ。やっぱり一流まで上り詰める人間は人間性も良く育つのか……いや、そうとも限らんか。」
一瞬、先生がちらっとこっちを見てから発言を撤回したような気がしたけど。失礼な。
「だが、こうして顔を見れたのは俺も嬉しかったぞ。森野と山石の2人には何かと縁があったし、山石が今どうしてるのか気にはなっていたからな。」
「先生……ありがとうございます。」
「あぁ!しおらしいふりして厳しい所に打ちよって……まぁ、なんだ。先生とかって言われて普段は何でもできるように振る舞ってはいるが、教師なんてのは一歩学校から出てしまえばただの一般人だからな。無力なもんだ。心配するくらいしかできることがないんだ。だから、こうして様子を知れる機会を作ってもらえたのは素直に嬉しかった。君らの担任の先生も何回か見舞いに来ただろう?あれはあれで君のことを気にかけてるんだ。」
「そうですね、定期的に来てくださって。余計な苦労をかけてしまって申し訳ないですが……」
「いやいや、そんなことを気にするは必要ないぞ。俺らは生徒のことを心配するためにこの仕事をしてるみたいなもんだからな。設楽先生も見舞いに行った後は嬉しそうに君の近況を教えてくれてたしな……設楽先生ってのが担任の先生で、ちなみに俺の名前は五里っていうからな。」
「突然どうしたんですか?先生方の名前は授業の最初の自己紹介で覚えてますよ?」
「いや、山石は気にせんでいい。ここで言っとかないと一生名前を出す機会が来ないと思ったもんでな。」
「はぁ……?」
「とにかく、周りのことは気にせず、君らは後悔のないように生きていってくれたらいいてことだ。大人は勝手に心配したがるが、そんなのは好きにさせておいて、君らが一番後悔が少ない選択をすることが大事なんだからな。」
途中よく分からないことを言っていたけど、五里先生の熱い言葉を受け取って山石君は圧勝した。喋っている時はかっこよかった先生も、帰る時には少し背中が小さくなっていたような気がした。
「本日1人目のサプライズゲストはー……な、な、なんと!みなさん、もうお馴染みの体育の先生でーす!」
「みなさんって……聞いてるの僕しかいないけど。」
「細かいことはいいの!」
「なんか、すまんな。サプライズがこんなので。」
「いえいえ、先生に来ていただけるなんて予想もしてなくて嬉しいですよ。」
せっかくのサプライズゲストだったけど、なんだか微妙な空気にしてしまった?
「ええっと、気を取り直しまして。本日先生にお越しいただいたのは、山石君と一勝負してもらうためです!私の人脈の中で最も囲碁が強い人が先生だったので、山石君も手ごたえのある試合ができるかと思いまして。」
「そうだったのか!?てっきりただの見舞いかと。」
「え?先生もご存じなかったんですか?」
「あー、言ってなかったような、そうでもないような?」
「森野さん……」
「まぁまぁ、せっかく来てもらったんだし、一局打ってみては?」
「まぁ、山石先生が良ければ、俺は構わんが。」
「僕も、打てるのは嬉しいですけど。」
「じゃあ、良かった!ささ、先生はこちらにどうぞ。」
先生と席を入れ替わって、山石君の正面を譲る。2人とも初めはぎこちないなかったけど対局の準備をし始めるとだんだんと試合モードになったみたいで、対局が開始すると真剣な目つきになっていた。
「……どうしてそこに打つんだ?」
「これは、展開によっては後々生きてくるので……」
「……ううむ、ここら辺かな?」
「あぁ、いい手ですね。そうなると……」
「……なるほど、ここでさっきのが生きてくるのか。」
対局が始まると、2人は言葉数少なに互いの手を分析し合いながら和やかに進んでいった。けど、やはり地力の差は大きいのか山石君の陣地がみるみる大きくなっていくのが素人目に見ても分かった。ほぼ試合が決しかけた頃に、先生がぽつぽつと囲碁とは関係のない話もし始めた。
「しかし、突然来て、突然打たせてしまって、申し訳なかったな。」
「いえいえ、僕も久しぶりに先生に会えて、久しぶりに真剣に打てて嬉しいです。」
「山石は本当に人間ができてるなぁ。やっぱり一流まで上り詰める人間は人間性も良く育つのか……いや、そうとも限らんか。」
一瞬、先生がちらっとこっちを見てから発言を撤回したような気がしたけど。失礼な。
「だが、こうして顔を見れたのは俺も嬉しかったぞ。森野と山石の2人には何かと縁があったし、山石が今どうしてるのか気にはなっていたからな。」
「先生……ありがとうございます。」
「あぁ!しおらしいふりして厳しい所に打ちよって……まぁ、なんだ。先生とかって言われて普段は何でもできるように振る舞ってはいるが、教師なんてのは一歩学校から出てしまえばただの一般人だからな。無力なもんだ。心配するくらいしかできることがないんだ。だから、こうして様子を知れる機会を作ってもらえたのは素直に嬉しかった。君らの担任の先生も何回か見舞いに来ただろう?あれはあれで君のことを気にかけてるんだ。」
「そうですね、定期的に来てくださって。余計な苦労をかけてしまって申し訳ないですが……」
「いやいや、そんなことを気にするは必要ないぞ。俺らは生徒のことを心配するためにこの仕事をしてるみたいなもんだからな。設楽先生も見舞いに行った後は嬉しそうに君の近況を教えてくれてたしな……設楽先生ってのが担任の先生で、ちなみに俺の名前は五里っていうからな。」
「突然どうしたんですか?先生方の名前は授業の最初の自己紹介で覚えてますよ?」
「いや、山石は気にせんでいい。ここで言っとかないと一生名前を出す機会が来ないと思ったもんでな。」
「はぁ……?」
「とにかく、周りのことは気にせず、君らは後悔のないように生きていってくれたらいいてことだ。大人は勝手に心配したがるが、そんなのは好きにさせておいて、君らが一番後悔が少ない選択をすることが大事なんだからな。」
途中よく分からないことを言っていたけど、五里先生の熱い言葉を受け取って山石君は圧勝した。喋っている時はかっこよかった先生も、帰る時には少し背中が小さくなっていたような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう一度、やり直せるなら
青サバ
恋愛
テニス部の高校2年生・浅村駿には、密かに想いを寄せるクラスメイトがいる。
勇気を出して告白しようと決意した同じ頃、幼なじみの島内美生がいつものように彼の家を訪れる。
――恋と友情。どちらも大切だからこそ、苦しくて、眩しい。
まっすぐで不器用な少年少女が織りなす、甘酸っぱい青春群像劇。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる