君が残してくれたものに、私は何を返せるだろう。

加藤やま

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第51話 私の見送り

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 東京方面行きのホームに着くと、平日の昼前にも関わらず人の声でざわついていた。普段ならがらんとして葉っぱの擦れる音が心地良いBGMになってるくらいだから、これは異常なことだ。その人たちの格好をよく見てみると、ほとんどが見覚えのある高校の制服を着ている。おかしいな、今日は学校普通にやってるはずなのに。
「あっ、来た来た!つばめー、こっちこっち!」
 聞き慣れた声が響いたと思ったら、ホームでざわついていた人たちが一斉にこちらを向く。みんな同じ目的で来てくれたんだ。裕子なら来てくれるだろなとは思ってたけど、こんなに来てくれるとは予想外だった。みんな学校行かなくて大丈夫なのかな。
「ゆっこ!来てくれたんだね。」
 裕子に抱きつかれた勢いで倒れそうになったキャリーケースを支えながら片手で抱擁に応える。
「もちろんじゃない!1番の親友で1番の応援隊である私が来なくて誰が来るって言うの!せっかく2年でも同じクラスになれたのに、あっという間にどっか行っちゃうんだから。寂しいよー。」
「ありがとう。私も寂しいよ。裕子が県大会で活躍する姿が見たかったなぁ。それにみんなも、来てくれてありがとう……ございます。」
 集まってくれた人たちの中に、担任の設楽先生と体育の五里先生の姿があることに気がついて変に言い直してしまった。2人もそんな様子を見てか、少し近づいて来て話しかけてくれた。
「森野さん、いってらっしゃい。1年と少しだけだったけど、あなたみたいな夢に向かってひたむきに努力する生徒の担任になれたことは私の自慢です。きっと他の子たちにとっても良い刺激になってたと思います。一応、まだうちの高校に籍は残ってるので、日本に帰ってきたらまた私のクラスに戻ってきてもいいですからね。」
「まぁ、あれだ。森野にも、それから山石にも色々世話かけさせられたからな。お前らの節目には顔を出してやらんと気合が入らんだろう。精一杯頑張ってこい。どうなったってお前には帰ってくる場所もこんなに応援してくれる仲間もいるんだからな。ちなみに、ここにいる仲間たちは学校をサボったってことで戻ったら指導するけどな。」
 えーっとか、うぎゃーっとかいう声が上がるけど誰も本気にはしていなかった。それから見送りに来てくれた人たちが次々に声をかけてくれて、その応答であたふたしていたらあっという間に電車が到着する時間になった。一通り話し終えて空気が緩慢になったところで裕子が少しうつむいて、迷いながらつぶやくような声を出した。
「……私ね、さっき自分がつばめにとって1番みたいなこと言ったけど、本当は違うんだよね。つばめにとっては山石君が1番だもんね、っていうか殿堂入りっていうか……山石君も、ここに来れたらよかったのにね……あ、あのね、私、ずっと気になってたことがあったの。その、つばめは私のこと恨んでるんじゃないかなって。」
「何で!?そんなことあるわけ……」
「私があの時考えなしに背中を押しちゃったから……お見舞い行っちゃえって。だから……山石君の、好きな人の弱っていく姿を見続けたり、最期を看取ることになったりして……それでつばめはいっぱい辛い思いしちゃったんだって……私のせいでって……」
 裕子はぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、今まで押し隠してきた本音を嗚咽混じりに吐き出してくれた。
 普段明るく振舞ってた裏でそんなことを考えていたのか。そっか、だから山石君の葬儀の時も大泣きしてたのか。
「ううん。ゆっこが背中を押してくれたから、山石君とたくさん思い出を作ることができたんだよ。辛い思いをしてないって言ったら噓になるけど、それよりも幸せな思い出の方が何倍も残せたから大丈夫。逆に、何もしないまま山石君が亡くなったのを後で知るなんてことになってたら、一生後悔してたと思うの。だから、ゆっこのこと恨むなんてありえないよ。むしろ、あの時背中を押してくれてありがとうしかないよ。それにね、山石君はいつでも私のそばで応援してくれてるから。」
 泣き崩れそうになる裕子を抱きかかえながら、そっと左手をポケットの中に差し入れる。そこには、山石君からのメッセージ入りのスマホが入っていた。山石君が残してくれたものは、お守りとしていつでも私を支えてくれてるんだ。
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