君が残してくれたものに、私は何を返せるだろう。

加藤やま

文字の大きさ
52 / 59

第52話 私は出発した

しおりを挟む
 電車が近づいていることを知らせる放送と共に、どこからともなく姿を現したのはミャーコだった。いつの間にか見送りの人だかりの中に混ざって、そのでっぷりとしたお腹を毛づくろいしていた。
「ミャーコも見送りに来てくれたの?山石君も私もいなくなって寂しいだろうけど、元気でいるんだよ。」
 私が近づいたら逃げていってしまうため、裕子の肩を抱いたままその場から動かずに声をかける。
「あっ、ミャーコじゃん。今日もふさふさだねー。」
「ミャーコ、今日も甘えん坊じゃん。」
「ミャーコって人に触られるの好きだよね。」
 ミャーコの存在に気づいた周囲の人たちが、私が近づけないのを尻目に遠慮なくミャーコを撫でまわす。ミャーコはいくつもの手にもみくちゃにされながらも、心地よさそうに目を細めて喉を鳴らしていた。
 ……ミャーコよ、私だけなのかい、君が逃げるのは。山石君だけが特別触れるのかと思ってたから諦めてたのに、こんな仕打ちってないよ。私がいなくなっても全然寂しくないじゃん……
 ショックとそんなに触らせてもらえるなら自分も、という欲でミャーコに向かって突き出した右手が震えていた。
「あー……つばめには懐いてないんだっけ。ほら、抱いててあげるから触っときな。」
 裕子はおもむろにミャーコに近づいていって、その脇に手を差し込むとそのまま持ち上げてこちらに差し出してくれた。それでもミャーコは無抵抗に、3倍くらいに長くなった体をぶらぶらさせていた。
「裕子まで!私が触れなくて悩んでるのを知ってて黙ってたのね……許さない。ミャーコに触れるどころか抱っこまでできるなんて、そんな大事なこと黙ってたのは一生恨んでやるんだから。」
「これは恨まれるんだ!?ほらほら、黙ってたのは謝るから、思う存分お別れしなよ。」
 促されるままに恐る恐る手を伸ばすと、やっぱり少し嫌そうな顔をしながらも仕方なしに撫でさせてくれた。山石君とのお別れの日以来の感触だった。
 ミャーコはツンデレなんだね。私が大変な時だけデレてくれるってことなんだね。そういうことにしといて……
 ミャーコとお別れしていると電車が到着したので、キャリーバッグを抱えて1人で乗り込む。ミャーコの乱入のおかげで裕子も泣き止んだみたいで笑顔で見送られることができそうだった。
「みんなありがとうね。私のニュースがみんなに目に入るように頑張ってくるから。それと、裕子。さっき裕子は私の1番の親友は山石君だ、みたいなこと言ってたけど、やっぱり私の1番の親友はゆっこだよ。小っちゃい頃から、天狗になってた私でも、何もなかった私でも、ピアノにのめり込んでた私でも、いつでも側にいて支えてくれたのはゆっこだったよ。1番感謝してるんだから。」
 自分でも恥ずかしくなるようなセリフだったので、電車のドアが閉まる直前に早口でまくし立てた。閉まったドアの向こうでは裕子が電車にすがりつこうとして先生たちに止められてた。何かを一生懸命叫んでたけど、よく聞こえなかった。そんな裕子たちのドタバタを見て笑っていると電車が動き始めた。裕子が顔をゆがませながらちぎれそうになるくらい手をブンブン振ってるのが見えなくなるまで、こちらも手を振り続けた。
 気合十分。次に裕子たちに会う時には堂々と凱旋できるように向こうでも結果を残せるように頑張ろうっと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう一度、やり直せるなら

青サバ
恋愛
   テニス部の高校2年生・浅村駿には、密かに想いを寄せるクラスメイトがいる。  勇気を出して告白しようと決意した同じ頃、幼なじみの島内美生がいつものように彼の家を訪れる。 ――恋と友情。どちらも大切だからこそ、苦しくて、眩しい。 まっすぐで不器用な少年少女が織りなす、甘酸っぱい青春群像劇。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...