27 / 53
夏休み
第27話 花火大会の日、山道を進むと…
しおりを挟む
アリスの手を掴んだまま、人混みを避けて路地裏をどんどん進む。住宅街の中を少し歩くと、緩い山道に入る。やや足場が悪いが、人が通った跡もあって登れないことはない。うん、そうだ。こんな道を歩いていったんだった。
記憶と照らし合わせながらずんずん歩いていると、しばらくしてアリスのペースが落ちてきた。ふとアリスの方を見てみると、下駄が擦れて痛そうにしている。
「わっごめん!慣れない下駄でこんな道を歩いたらそうなるか…」
「いたた…でも、そんなにひどくはないし、もう少し頑張れるよ。」
「いやいや、ちょっと脱いで見せて。」
下駄の鼻緒が当たる部分を見ると少し皮がむけて赤くなっていた。血が出る一歩手前という感じだ。
「うーん、これで歩くのは難しいでしょ。でも、目的地までもうちょっとだから…よし!」
怪我をしている方の足の下駄を持ち、しゃがんでアリスに背を向ける。
「これって、あの…おんぶしてくれるってやつ?」
「ってやつ。さぁ、乗って。」
「でも…重いし…」
「初めてじゃないんだから。そんな遠慮はいらないって。」
「それなら…」
遠慮がちに乗ってきたアリスは浴衣を着ている分、前よりは重さを感じたが歩けないほどではない。ただ、緩いと思っていた坂道の傾斜が、おんぶしながらとなると結構な難所だった。
「重かったらいつでも降りるからね。」
一度背負うと言っておいて、やっぱりやめただなんて言えるわけがない。
「全然平気だけど。まぁ、楽勝過ぎて黙っちゃうからさ、何か喋っててくれたら嬉しいけどね。」
「ありがと。そうね…こうやっておんぶされるのも2回目だね。」
思い出したようにアリスが笑って続ける。
「前は只男が緊張してたのかガチガチだったよね。それに比べると今はゆったりしてて良い乗り心地よ。」
海でのやつは色々ヤバい状況だったから力んでいたのが伝わってしまっていたのか。
「なんだか、只男と会ってからこうやって2人になることは多いけど、その度に何かが起こってるよね。教頭に追いかけられたし、文化祭でいきなり舞台に呼ばれるし、何回もナンパされるし、怪我するし…ふふっ、思い出しても散々な目に遭ってるね。」
「…たしかに。」
トラブルに遭うのは昔からだったが、今年はアリスがそれに大いに巻き込まれているようだ。
「でもさ、こうやって笑い話にできるんだから、良い思い出が増えてるってことだよね。」
…そんな風に考えたことはなかった。大体貧乏クジは引かされるし、痛い思いをすることが多いから本当に恨めしく思う時期もあった。けど、言われてみると思い出は人一倍多いのかもしれない。
「そんな…考え方も…あるか。」
大粒の汗が顔を伝って何度も落ちていくのを感じる。
「そうだよ。実際、私は青俊高校に来てから只男との思い出ばっかりだもん。」
「大変なこと…ばっかりで…悪かったな…」
「全然大変なんかじゃないよ。全部、楽しくて大切な思い出だよ。だって、只男のこと…」
花火前半のフィナーレか、一際大きな爆発音がアリスの声をかき消す。
「そろそろ…近付いて…きたな。さっき…何て言った?」
「あー…只男の…只男のこと便利に使おうとする人から守ってあげるって言ったの!」
「ははっ…そりゃ…ありがたい。でも…今も…1番…使ってるのは…アリスな気が…」
「違うし!使ってるわけじゃないし!たまたまそういう場面が起こるだけだもん!いいもん、もう歩くから!」
背中の上でアリスが暴れる。
「うそうそ。暴れるなって。でももう降りてもいいか。」
すでに山道を登り終え、開けた場所に出ていた。地元の人間と思われる人がちらほら集まっている。
「ここが終点?どうしてここに?」
「それは見てれば分かるよ。」
その時、尺玉が風を切る音と共に牡丹が一瞬で花開き、夜空に大輪の儚い花を咲かせる。
「すごい…特等席…」
「ここは地元の人しか来ない穴場ってやつらしい。俺も小さい頃に連れてきてもらったことがあって。」
「良かった…見れて本当に良かった…」
言いながらアリスは顔を手で覆って涙を拭っている。
「それじゃあ見れないでしょ。しっかり上を向いてなきゃ。」
「うん…そうだね…」
花火が上がるたびに歓声を上げながら笑っているアリスの顔を見ると、さっきまでの苦労も報われるような気がした。
トラブルもあったが、こうして無事に花火も見られて、アリスも喜んでくれたことで、今回も良い思い出が増えたと言っていいんじゃないだろうか。
記憶と照らし合わせながらずんずん歩いていると、しばらくしてアリスのペースが落ちてきた。ふとアリスの方を見てみると、下駄が擦れて痛そうにしている。
「わっごめん!慣れない下駄でこんな道を歩いたらそうなるか…」
「いたた…でも、そんなにひどくはないし、もう少し頑張れるよ。」
「いやいや、ちょっと脱いで見せて。」
下駄の鼻緒が当たる部分を見ると少し皮がむけて赤くなっていた。血が出る一歩手前という感じだ。
「うーん、これで歩くのは難しいでしょ。でも、目的地までもうちょっとだから…よし!」
怪我をしている方の足の下駄を持ち、しゃがんでアリスに背を向ける。
「これって、あの…おんぶしてくれるってやつ?」
「ってやつ。さぁ、乗って。」
「でも…重いし…」
「初めてじゃないんだから。そんな遠慮はいらないって。」
「それなら…」
遠慮がちに乗ってきたアリスは浴衣を着ている分、前よりは重さを感じたが歩けないほどではない。ただ、緩いと思っていた坂道の傾斜が、おんぶしながらとなると結構な難所だった。
「重かったらいつでも降りるからね。」
一度背負うと言っておいて、やっぱりやめただなんて言えるわけがない。
「全然平気だけど。まぁ、楽勝過ぎて黙っちゃうからさ、何か喋っててくれたら嬉しいけどね。」
「ありがと。そうね…こうやっておんぶされるのも2回目だね。」
思い出したようにアリスが笑って続ける。
「前は只男が緊張してたのかガチガチだったよね。それに比べると今はゆったりしてて良い乗り心地よ。」
海でのやつは色々ヤバい状況だったから力んでいたのが伝わってしまっていたのか。
「なんだか、只男と会ってからこうやって2人になることは多いけど、その度に何かが起こってるよね。教頭に追いかけられたし、文化祭でいきなり舞台に呼ばれるし、何回もナンパされるし、怪我するし…ふふっ、思い出しても散々な目に遭ってるね。」
「…たしかに。」
トラブルに遭うのは昔からだったが、今年はアリスがそれに大いに巻き込まれているようだ。
「でもさ、こうやって笑い話にできるんだから、良い思い出が増えてるってことだよね。」
…そんな風に考えたことはなかった。大体貧乏クジは引かされるし、痛い思いをすることが多いから本当に恨めしく思う時期もあった。けど、言われてみると思い出は人一倍多いのかもしれない。
「そんな…考え方も…あるか。」
大粒の汗が顔を伝って何度も落ちていくのを感じる。
「そうだよ。実際、私は青俊高校に来てから只男との思い出ばっかりだもん。」
「大変なこと…ばっかりで…悪かったな…」
「全然大変なんかじゃないよ。全部、楽しくて大切な思い出だよ。だって、只男のこと…」
花火前半のフィナーレか、一際大きな爆発音がアリスの声をかき消す。
「そろそろ…近付いて…きたな。さっき…何て言った?」
「あー…只男の…只男のこと便利に使おうとする人から守ってあげるって言ったの!」
「ははっ…そりゃ…ありがたい。でも…今も…1番…使ってるのは…アリスな気が…」
「違うし!使ってるわけじゃないし!たまたまそういう場面が起こるだけだもん!いいもん、もう歩くから!」
背中の上でアリスが暴れる。
「うそうそ。暴れるなって。でももう降りてもいいか。」
すでに山道を登り終え、開けた場所に出ていた。地元の人間と思われる人がちらほら集まっている。
「ここが終点?どうしてここに?」
「それは見てれば分かるよ。」
その時、尺玉が風を切る音と共に牡丹が一瞬で花開き、夜空に大輪の儚い花を咲かせる。
「すごい…特等席…」
「ここは地元の人しか来ない穴場ってやつらしい。俺も小さい頃に連れてきてもらったことがあって。」
「良かった…見れて本当に良かった…」
言いながらアリスは顔を手で覆って涙を拭っている。
「それじゃあ見れないでしょ。しっかり上を向いてなきゃ。」
「うん…そうだね…」
花火が上がるたびに歓声を上げながら笑っているアリスの顔を見ると、さっきまでの苦労も報われるような気がした。
トラブルもあったが、こうして無事に花火も見られて、アリスも喜んでくれたことで、今回も良い思い出が増えたと言っていいんじゃないだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている
甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。
実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。
偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。
けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。
不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。
真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、
少し切なくて甘い青春ラブコメ。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる