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28 ささやかな餞別
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そしてしばらくするとゲルからふらふらとクレイグが出てくる。アレンたちはクレイグに気づいて手招きする。クレイグは二人の元に来て椅子に腰かけて言う。
「あー……飲み過ぎた」
クレイグは頭を抱えてテーブルに肘をつく。その様子を見てティムが言う。
「絶対バカじゃん」
「うるせえ」
クレイグが力なく言い返す。アレンはクレイグの前に野菜スープを置く。
「はい。これなら食べられる? 無理しちゃだめだよ」
「何もいらねえ……」
「何か食べないと体に悪いよ?」
アレンが心配そうにクレイグの顔を覗き込みながら言う。
「せっかくおいしい料理なのに」
ティムが言う。アレンがクレイグの様子を見て問いかける。
「薬飲む?」
クレイグは黙って手を差し出す。
「ちょっと待ってて」
アレンは席を立ち、ゲルの方へと小走りで戻っていく。ティムがクレイグに言う。
「大丈夫なの? そんな状態で出発できるの?」
「大丈夫だ。任せろ」
クレイグは頭を抱えたまま言う。
「こんな頼りない任せろ聞いたことないよ」
ティムがそう言ってため息をつく。そこにアレンが薬と水を持って戻ってくる。
「はい、薬」
クレイグは受け取って薬を飲む。そこへ昨日の老婆が近づいてきてクレイグに声をかける。
「おやおや、情けないね。あれだけ大きな口叩いておいて薬頼りかい?」
クレイグは老婆をにらんで言う。
「うるせえババア。先につぶれてねえんだから文句ねえだろ。ちょっと酒が合わなかっただけだ」
「ほっほっほっ! ここの女を落とすには、まだまだ修行が足りないようだね」
そう言って老婆は笑いながら去っていった。
「あのバケモンババア……」
クレイグがつぶやく。
「バケモンはないよ」
ティムが言う。しかし、クレイグがすぐさま言い返す。
「あのババア、昨日、人一倍飲んでたんだぞ。なのに何事もなかったような顔しやがって。バケモン以外の何者でもねえよ」
「わかった、わかった。バケモンでも何でもいいから早く治して。出発できないじゃん」
ティムが呆れながら言う。クレイグはテーブルに顔を伏せて静かに休む。そしてティムたちはその横で楽しく食事を続けるのだった。
クレイグの体調も良くなり、アレンたちは出発のため集落の入り口にいる。住人が見送りに集まっている。砂漠で助けた子供とその母親がアレンたちのそばに来て話しかける。
「お兄ちゃん、気をつけてね」
子供が笑顔で言い、アレンに抱きつく。
「ありがとう」
アレンが笑顔で答える。
「本当にありがとうございました」
母親が言う。そこへ老婆が近づいてくる。
「この砂漠は広い。危険なモンスターも出るし馬賊だっている。それでも本当に行くのかい? 無事に行けるか心配だよ」
「バカにすんな。俺らはそんな軟弱じゃねえよ」
クレイグが言う。
「そうかい。私はあんたが一番心配だよ。口だけじゃないことを願ってるよ」
老婆が言う。クレイグが眉をひそめて言う。
「いちいち腹立つババアだな」
老婆は微笑みながらクレイグに紐で縛った小さな袋を手渡す。クレイグは受け取りながら言う。
「何だよこれ」
「毒消しだよ。持っておいき」
「よかったね」
ティムが微笑みながらクレイグに言う。
「ババアからだけどな」
「憎たらしい子だよ」
老婆はそう言って笑った。クレイグは小袋をポケットに入れて言う。
「まあ、もらっといてやるよ」
挨拶を終えたアレンたちは馬にまたがり、住民が見守る中、女神の雫を求めて駆けだすのだった。
馬賊に連れ去られたケイは薄暗い洞窟のアジトにいた。牢屋に閉じ込められ、鉄の手錠で手足を繋がれている。牢の中に窓はなく、床や壁は汚れていてこもったような臭いが漂っている。ケイは膝を抱え、顔を伏せて静かにしている。時折、馬賊たちの浮かれた声が遠くから聞こえてくる。
馬賊たちは洞窟内の開けたところで焚火を囲って酒を飲んでいる。頭目の隣に座る男が頭目に話しかける。
「頭かしら、あの女どうします?」
それを聞いて、少し離れたところに座っている男が続けて言う。
「あのまま返すのはもったいないっすよ」
頭目が男を真っ直ぐに見つめて言う。
「返す? 誰に返すつもりだ?」
部下の男が額に汗を滲ませて言う。
「え、あ、あの、そうっすよね! 約束守る必要ないっすよね」
「守らねえんじゃねえ。守れねえんだ。奴をぶっ殺すからな」
頭目は不敵な笑みを浮かべて言った。部下たちは歓声を上げて、酒を一気に飲み干し、また騒ぎだした。
牢の中で膝を抱えて顔を伏せているケイを牢の門番の男が松明で照らす。灯りに気づいたケイがゆっくりと顔を上げる。すると門番の男がいやらしい笑みを浮かべて言う。
「やっぱり美人だなあ」
「あんたはきったない顔だね。私に近づいたら殺すよ」
ケイが冷たく言い放つ。
「気が強いところもそそるねえ」
「あんたたちは弱肉強食の世界が好みみたいだね。それじゃ長生きできないよ。私が予言してやるよ。あんたたち全員近いうちに死ぬよ」
男が笑みを浮かべて言う。
「それで脅してるつもりか?」
「脅しじゃないよ。教えてやってんだよ。死にたくなかったら心改めなって。集団でしか何もできない臆病者は、自分の頭で何も考えられないだろうからさ」
男は怒って松明を床に投げつける。
「いい度胸だ。女、今すぐ痛い目見せてやる!」
牢の鍵を開けて男が中に入る。ケイは男をじっとにらみつけている。
「あー……飲み過ぎた」
クレイグは頭を抱えてテーブルに肘をつく。その様子を見てティムが言う。
「絶対バカじゃん」
「うるせえ」
クレイグが力なく言い返す。アレンはクレイグの前に野菜スープを置く。
「はい。これなら食べられる? 無理しちゃだめだよ」
「何もいらねえ……」
「何か食べないと体に悪いよ?」
アレンが心配そうにクレイグの顔を覗き込みながら言う。
「せっかくおいしい料理なのに」
ティムが言う。アレンがクレイグの様子を見て問いかける。
「薬飲む?」
クレイグは黙って手を差し出す。
「ちょっと待ってて」
アレンは席を立ち、ゲルの方へと小走りで戻っていく。ティムがクレイグに言う。
「大丈夫なの? そんな状態で出発できるの?」
「大丈夫だ。任せろ」
クレイグは頭を抱えたまま言う。
「こんな頼りない任せろ聞いたことないよ」
ティムがそう言ってため息をつく。そこにアレンが薬と水を持って戻ってくる。
「はい、薬」
クレイグは受け取って薬を飲む。そこへ昨日の老婆が近づいてきてクレイグに声をかける。
「おやおや、情けないね。あれだけ大きな口叩いておいて薬頼りかい?」
クレイグは老婆をにらんで言う。
「うるせえババア。先につぶれてねえんだから文句ねえだろ。ちょっと酒が合わなかっただけだ」
「ほっほっほっ! ここの女を落とすには、まだまだ修行が足りないようだね」
そう言って老婆は笑いながら去っていった。
「あのバケモンババア……」
クレイグがつぶやく。
「バケモンはないよ」
ティムが言う。しかし、クレイグがすぐさま言い返す。
「あのババア、昨日、人一倍飲んでたんだぞ。なのに何事もなかったような顔しやがって。バケモン以外の何者でもねえよ」
「わかった、わかった。バケモンでも何でもいいから早く治して。出発できないじゃん」
ティムが呆れながら言う。クレイグはテーブルに顔を伏せて静かに休む。そしてティムたちはその横で楽しく食事を続けるのだった。
クレイグの体調も良くなり、アレンたちは出発のため集落の入り口にいる。住人が見送りに集まっている。砂漠で助けた子供とその母親がアレンたちのそばに来て話しかける。
「お兄ちゃん、気をつけてね」
子供が笑顔で言い、アレンに抱きつく。
「ありがとう」
アレンが笑顔で答える。
「本当にありがとうございました」
母親が言う。そこへ老婆が近づいてくる。
「この砂漠は広い。危険なモンスターも出るし馬賊だっている。それでも本当に行くのかい? 無事に行けるか心配だよ」
「バカにすんな。俺らはそんな軟弱じゃねえよ」
クレイグが言う。
「そうかい。私はあんたが一番心配だよ。口だけじゃないことを願ってるよ」
老婆が言う。クレイグが眉をひそめて言う。
「いちいち腹立つババアだな」
老婆は微笑みながらクレイグに紐で縛った小さな袋を手渡す。クレイグは受け取りながら言う。
「何だよこれ」
「毒消しだよ。持っておいき」
「よかったね」
ティムが微笑みながらクレイグに言う。
「ババアからだけどな」
「憎たらしい子だよ」
老婆はそう言って笑った。クレイグは小袋をポケットに入れて言う。
「まあ、もらっといてやるよ」
挨拶を終えたアレンたちは馬にまたがり、住民が見守る中、女神の雫を求めて駆けだすのだった。
馬賊に連れ去られたケイは薄暗い洞窟のアジトにいた。牢屋に閉じ込められ、鉄の手錠で手足を繋がれている。牢の中に窓はなく、床や壁は汚れていてこもったような臭いが漂っている。ケイは膝を抱え、顔を伏せて静かにしている。時折、馬賊たちの浮かれた声が遠くから聞こえてくる。
馬賊たちは洞窟内の開けたところで焚火を囲って酒を飲んでいる。頭目の隣に座る男が頭目に話しかける。
「頭かしら、あの女どうします?」
それを聞いて、少し離れたところに座っている男が続けて言う。
「あのまま返すのはもったいないっすよ」
頭目が男を真っ直ぐに見つめて言う。
「返す? 誰に返すつもりだ?」
部下の男が額に汗を滲ませて言う。
「え、あ、あの、そうっすよね! 約束守る必要ないっすよね」
「守らねえんじゃねえ。守れねえんだ。奴をぶっ殺すからな」
頭目は不敵な笑みを浮かべて言った。部下たちは歓声を上げて、酒を一気に飲み干し、また騒ぎだした。
牢の中で膝を抱えて顔を伏せているケイを牢の門番の男が松明で照らす。灯りに気づいたケイがゆっくりと顔を上げる。すると門番の男がいやらしい笑みを浮かべて言う。
「やっぱり美人だなあ」
「あんたはきったない顔だね。私に近づいたら殺すよ」
ケイが冷たく言い放つ。
「気が強いところもそそるねえ」
「あんたたちは弱肉強食の世界が好みみたいだね。それじゃ長生きできないよ。私が予言してやるよ。あんたたち全員近いうちに死ぬよ」
男が笑みを浮かべて言う。
「それで脅してるつもりか?」
「脅しじゃないよ。教えてやってんだよ。死にたくなかったら心改めなって。集団でしか何もできない臆病者は、自分の頭で何も考えられないだろうからさ」
男は怒って松明を床に投げつける。
「いい度胸だ。女、今すぐ痛い目見せてやる!」
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