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虐殺の時
しおりを挟むその日の夜。
東京都内某所から明かりが完全に消え失せた。
突然の停電に人々は困惑。
中には阿鼻叫喚の悲鳴を挙げる者も居た。
そんな突然の停電は、八塚会の緊急会議にも影響を与えた。
「何じゃ?停電か?」
都内某所のホテルも突然の停電の憂き目に遭ってしまった。
無論、関東八塚会の緊急会議の舞台となっている最上階にあるサロンも同様に闇に覆い隠されていた。
突然の停電に困惑するも、サロン内に居るヤクザの幹部達。
各々が組を背負う親分達は困惑はしながらも、ビビる事は無かった。
「どうせ直ぐに復旧するやろ。このホテルにも非常用の発電機だってあるんやさかい……」
直ぐに非常用の自家発電機が作動する。
親分衆はそう高を括って居た。
だが、彼等は知らない。
非常用の自家発電機は停電が起きたと同時に、爆破されて完全に破壊された事を未だ知らない。
そして、非常用の自家発電機を爆破した張本人達が直ぐ其処まで迫って居る事にも未だ気付いていない。
それ故、停電が収まるまでの間。
暢気に煙草を燻らせながらスマートフォンを弄って待っていた。
そんな親分衆を他所にサロンの外に控える護衛達は辟易としながらも、スマートフォンのフラッシュライトを点灯させて周囲の警戒に当たって居た。
だが、暢気な様子であった。
「まさか、停電するなんてな……」
暢気にボヤく組員に同意する様に脇に居た組員も暢気にボヤく様に返す。
「全くだ。まぁ、直ぐに非常用の発電機が作動するだろ」
この2人に限らず、組員達は何処か空気が緩んで居た。
2人は退屈そうにしながら明かりが再び点るのを待った。
勿論、他の護衛を仰せ付かった組員達も明かりが再び点るのを待っていた。
だが、彼等は気付かない。
2人の死神が、直ぐ其処まで忍び寄って居る事に彼等は未だ気付かない。
死神は真っ暗な闇に溶け込む様に気配を消し、足音を一切立てる事無く組員の背後に忍び寄る。
2人の死神は其々、慣れた手付きで何の前触れも与える事無く組員の口を強く塞ぐと同時。
手にしていたコンバットナイフで喉笛を頸動脈も含めて斬り裂いた。
音も無く組員の首が大きく斬り裂かれると、血飛沫が床に飛び散る。
喉笛……もとい、声帯も斬り裂かれた事で声にならぬ呻き声が死神の手の中で響くと共に、組員は力が抜け落ちてダランとだらしなく崩れ落ちそうになる。
それから程無くしてピクリとも動かなくなれば、2人の死神は静かに骸とかした組員を人目に付かぬ所へと引き摺っていく。
2人の死神が1人。
また、1人と言う具合に手早く、かつ、音も無く組員達の首を斬り裂いて地獄へと引き摺り込んでいった。
そうして、最後に残ったのがサロンの扉の両脇に立つ見張りだけとなった。
2人の死神は血に染まるコンバットナイフを静かに音を立てる事無く鞘に収めると、ホルスターからスタームルガーMk4を抜き取る。
そして、2人は見張りとして立つ2人の組員に其々、狙いを定めると引金を引いた。
223レミントン用の大きなサプレッサーを介して放たれた静かな銃声と共に2人の見張りの喉が、鉛が剥き出しの小さくチッポケな弾。
ソフトポイントと呼ばれる弾頭の22ロングライフル弾によって撃ち抜かれた。
喉を撃ち抜かれた2人の見張りは呻き声と共に血飛沫を上げながら床に崩れ落ちると、2人の死神はトドメと言わんばかりに2人の見張りの眉間を撃ち抜いていく。
こうして、見張り達を一切の音を立てる事無く皆殺しにすれば、2人の死神はスタームルガーMk4をホルスターに収めて次の段階へと移った。
死神の1人。
否、正樹がハンドシグナルでもう1人の死神……涼子へ合図をする。
正樹の合図を確認した涼子はM60E6を手に取ると、サロンの扉の前に立った正樹に何時でも良い。
そう告げる様に首を縦に振って頷いた。
そんな涼子の合図を確認すると、正樹はサロンの扉を静かに開ける。
「どした?」
親分衆の1人が組員と思ったのだろう。
M60E6を腰溜めに構える涼子に尋ねる。
すると、涼子は答える代わりにM60E6の引金を引いた。
絶え間無い激しい銃声と銃火と共に静寂が破れ、暗闇が照らし出される。
耳を劈く銃声がフロア中に響き渡り、銃火が暗闇を照らす度に必殺の意志に満ち溢れた7.62ミリNATO弾が嵐の如くサロン内で吹き荒れる。
たった1丁の機関銃が産み出す7.62ミリNATO弾の死の嵐が吹き荒れる度、人が1人。また1人と次々にバタバタ倒れて逝く。
1発1発が全て、44マグナムやデザートイーグルの50AE。
それに454カスールやS&Wの500マグナムと言ったマグナム拳銃弾を子供の玩具。
そう言わんばかりに鼻で笑い飛ばせる程の威力を誇る7.62ミリNATO弾。
そんな強力な銃弾の嵐はサロン内を容易く蹂躙していく。
銃声が響き、足下に硝煙立ち昇る空薬莢と金属リンクが零れ落ちる度に人が死ぬ。
銃弾の嵐に晒された者達は次々にズタズタに斬り裂かれ、死んで逝く。
サロンの中はまさにキリングフィールドと化して居た。
キリングフィールドを創り上げる涼子はバラクラバの中で嗤って居た。
嬉々として歓喜と共に虐殺していた。
だが、そんな虐殺渦巻くキリングフィールドの中で無事に生き延びて居る者達が居た。
そう、例の黒人の男と白人の女だ。
その2人は床に伏せて、虐殺を起こす銃弾の嵐が収まるのを待っていた。
勿論、反撃する為にだ。
活路を見出す為に床に伏せて堪え忍んで居ると、耳を劈く激しい銃声がパタリと止んだ。
強く咽る程の親分衆達の死臭と硝煙の臭いの中。ソッと静かに顔を上げ、イカれた襲撃者である涼子の姿を確認しようとする。
だが、入口に仁王立ちして機関銃掃射した涼子の姿は何処にも無かった。
「奴の姿は見えたか?」
黒人の男が白人の大女に問う。
しかし、左右を見渡す白人の大女には涼子の姿が見えなかった。
「居ない。逃げたのか?」
そう呟いた瞬間。
黒人の男の頬が焼けた。
「ギャアアアァァァ!!?」
頬が焼け、皮膚と肉の焼ける悪臭が辺りに広がると共に黒人の男が悲鳴を挙げる。
「ルー!?」
白人の大女が黒人の男……ルーの悲鳴に驚きながらも、状況を把握する為に急いで振り向く。
其処には右頬が焼けて爛れたルーの姿と、硝煙が濃く匂い立つM60E6を手にした涼子の姿があった。
白人の大女がルーと涼子の姿を捉えられたのは、単純な話だ。
涼子が小さな光球を浮かべて、辺りを照らしているからだ。
「貴様!!」
白人の大女が怒りと共に吠える。
だが、涼子はバラクラバの中で涼しい顔を浮かべながら、M60E6の引金を躊躇いなく引いた。
複数の銃声と共に白人の大女の腹がズタズタに斬り裂かれ、腸がデロリと零れ落ちる。
白人の大女も人間。
それ故、ドサッと床に崩れ落ち、裂けた腸から糞便の臭いをさせながら床を血に染めていく。
死にゆく白人の大女の頭部を触れた涼子はトドメとして女の頭を撃ち抜くと、M60E6の焼けた銃身を押し付けた相手。
もとい、焼け爛れた右頬を押さえ続けるルーに語り掛ける。
「会いたかった?」
「貴様……何者だ?」
ルーが強気に問えば、涼子は「あ、顔隠してるから解らないか……」と、何処か陽気にボヤきながらバラクラバを脱いで素顔を見せた。
「な!?」
涼子の素顔を目の当たりにして、ルーは驚きと共に言葉を失ってしまう。
そんなルーに対し、涼子は呆れの色を浮かべながらも笑顔で問う。
「そんな驚く事無いじゃない。貴方は私から欲しい物と大事な者を奪おうとしたんだからさ……こうして、報復されるのは覚悟してるんでしょ?」
涼子の問いに対し、ルーは質問で返した。
「キマイラ様を殺したのは貴様か?」
質問で返してきたルーに涼子が怒る事は無かった。
寧ろ、優しい微笑みと共に質問に答えた。
「あぁ、あのゴミカスね……簡単に殺せたわよ。それに、アイツは私に向かってションベン漏らしながら泣き喚いて命乞いして来たわ。ホント、情けない奴だったわねぇ……」
侮蔑と軽蔑を込めて殺害したキマイラをボロクソに言えば、ルーの顔は真っ赤に染まる。
まるで、沸騰したヤカンの様に怒り狂っていた。
どうやら、ルーにとってキマイラは大事な存在の様だ。
そんなルーに対し、涼子は少しばかり残念そうに言う。
「貴方は命乞いしないのね。てっきり、クソ嘗めた真似してるんだから無様な姿を見せてくれると思ったのに……」
「…………」
ルーが沈黙で返す。
そんな時だ。
部屋の外から喧しい銃声がした。
どうやら、客達が派手な銃声を聞き付けて大事な親分を助ける為に駆け付けて来た様であった。
すると、涼子はルーの両膝をM60E6で撃ち抜いた。
「ギャアアアァァァ!!?」
耳を劈く多数の銃声と共に喧しい悲鳴が上がる。
ルーの両膝は多数の7.62ミリNATO弾によって喰い千切られ、千切れた部分から血がダラダラと床を染めていく。
床に血溜まりが出来ると、ルーの脚を奪った涼子は心の底から残念そうに告げる。
「本当なら産まれた事を後悔するまでトコトン虐めたかったんだけど、時間が無いし、アンタに掛ける時間も勿体無いからさ……コレで勘弁してあげるわ」
本当に心の底から残念そうに告げた涼子はルーの首へ、熱く焼けたM60E6の銃口を押し付けて引金を引いた。
銃声が連続で喧しく響けば、ルーの首が7.62ミリNATOのシャワーによって喰い千切られる。
ルーの首が転がり落ちれば、涼子はバラクラバを被り直す。
それから、腰の雑嚢からサッチェルバッグ。
否、C4爆薬が10キログラムほど詰まった梱包爆薬を取り出すと、正樹から教わった手順を思い出しながら爆弾へと変えていく。
1分も掛からずに信管と導火線を繋ぎ合わせて爆弾へと変えれば、涼子は導火線に点火した。
そして、ルーの首とルーと白人の大女のスマートフォンを拾い上げると、用が済んだ。
そう言わんばかりに悠然と歩き出す。
サロンの出入口まで戻ると、床に伏せていた正樹が二脚を立てたM60E6で群がる敵を掃射している姿があった。
「どんな状況?」
涼子が暢気に尋ねると、正樹は掃射を続けたまま問い返す。
「見ての通りだ。そっちは終わったのか?」
「うん。お陰でスッキリした」
晴々とした様子で答える涼子に正樹は掃射による制圧射撃を続けながら指示する。
「なら、手榴弾投げてくれ。で、投げたらリロードしろ」
正樹から手榴弾を投げろ。
そう言われると、涼子は胸のパウチからM67破片手榴弾を2つ手に取ると、ピンを抜いて銃弾の嵐が吹き荒れる先へ放り投げた。
放り投げられた2発のM67破片手榴弾が爆発し、群がる敵達に慈悲を与える事無く蹂躙していく。
飛び散る無数の細かな鉄片によって、敵達はズタズタに斬り裂かれて死んだ。
その間に涼子がM60E6のリロードを済ませると、それに気付いて居た正樹は指示する。
「俺もリロードする。その間、援護頼む」
正樹から言われると、涼子はM60E6を敵の方へと向けて警戒。
その間に手早くリロードを済ませた正樹はM60E6を手に素早く立ち上がると、涼子と共に前進する。
2人は正樹が築き上げた屍山血河の中を練り歩き、非常用階段へ向かって歩みを進めて行く。
非常用階段まで進むと、下の階から多数の慌ただしい足音が響いていた。
正樹はM67破片手榴弾を手に取ると、ピンを抜いて階下に放り投げる。
程無くして爆発すると、正樹は階下へ向けて制圧射撃。
頭上から軍用機関銃で制圧射撃されれば、トーシローのカカシと変わらぬヤクザ達は完全に動けなくなってしまう。
そんな正樹を他所に涼子は屋上までのルートの安全確保の為、屋上に上がる階段を登っていた。
屋上までのルートと屋上自体が安全である事を確認すれば、涼子は制圧射撃とM67破片手榴弾で敵を抑え込み続ける正樹へ大声で告げる。
「クリア!!」
涼子の「クリア!!」を聞けば、正樹は更に追い撃ちを掛ける為、持っていたM67破片手榴弾を2つ手に取ってピンを抜く。
それから直ぐに階下へ放り投げると、急いで階段を駆け上がった。
階下から2発の爆発が起きるのを尻目に涼子が確保した屋上まで駆け上げれば、涼子と共に屋上へと走っていく。
そして、屋上の中心まで全力で走れば、正樹が屋上の出入口へM60E6の銃口を向けて警戒。
正樹がセキュリティとして敵の追撃を警戒している間、涼子は逃げる手筈を整える為に呪文を詠唱していく。
程無くして詠唱が済めば、屋上の床に手を乗せて魔法を発動させる。
すると、涼子の目の前に門が現れた。
「逃げ道確保したわよ!!」
涼子が言うと、正樹は警戒心と共に銃口を向けたまま後退りながら涼子の方へと向かう。
敵が来ない。
そう確信すると、正樹は踵を返して走り出す。
涼子と共に門を駆け抜ければ、門は光の粒子となって霧散。
文字通り、2人は跡形も無く消えた。
それから程無くして、ホテルの最上階が爆発と共に跡形も無く消し飛んだ。
それは同時に2人の虐殺とも言える凶悪な犯行を裏付ける証拠が爆発四散し、跡形も無く消し飛んだ事を意味していた。
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