Vampire escape

藤丸セブン

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二章 騎士の誓い

十九話 吸血鬼と騎士

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 それはルピナスにとって実に驚くべき事だった。部下と稽古をする約束をすっぽかされたルピナスはそこで部下とお茶会をしていた少女を仲間の元へ送る事とした。それは別に特別な事ではない。騎士として少女を無事に仲間の元へ送り届ける事は基本の仕事だ。道中メルティが探検家だと聞いた時も嫌悪感はまるでなかった。こんな幼い少女が探検家であるという事実は少し悲しかったけれど、そんな世の中をこの手で良くしていきたいとより一層願うきっかけになった。その為、彼女を仲間の元へ送り届けたら宿敵を倒す為ナグサと鍛錬に挑まなければ。そんな風に考えていた矢先だ。ルピナスが目の前にいる宿敵に邂逅したのは。
「いきなり、何をする」
 ルピナスがキョウヤの首に振り下ろした騎士剣はキョウヤが装備していた手甲に防がれた。
「拳を振るう吸血鬼。貴様が悪魔殺しか」「っ!そういうお前は王国の騎士か」
「ええ!?キョウヤ殿が吸血鬼でありますかぁぁぁ!?」
「ぇぇぇ!!?ルピナスさん騎士なんですか!!?」
 ルピナスとキョウヤが今にも命を失うかも知れない状況で捻り出した言葉にナグサとメルティは大声で驚く。
「ナグサ!何故彼女が吸血鬼の同行者だと気がつかなかった!?世間話を長い事していたのだろう!?」
「す、すみません!まさかメルティ殿が吸血鬼の同行者だなんて夢にも思ってなかったであります!!だって普通思わないじゃないですか!!私達が追いかけてる吸血鬼の仲間がこんな可愛い女の子だなんて!!」
 もっと早く気がつけていれば完璧な装備で吸血鬼退治に挑めたのだが、ナグサの言い分にも一理ある。ルピナスも吸血鬼の同行者がこんな少女だとは思っていなかった。
「メルティ!」
「はい!ごめんなさい!!ナグサさんは確かにこちらの情報を掴めなくても無理はないと思いますが、私側はお二人が騎士だって気づけたんじゃないかって話ですね!?言われてみればそれっぽい発言は多かった気がします!!でも完全に他の事に気を取られていて気づきませんでした!!ごめんなさい捨てないでー!!!」
「貴様っ、彼女に洗脳を施したのか!?」
「何もかも違う!!!」
 キョウヤがメルティの名を呼んだのは決してメルティを責めるためではなかったが、勝手に勘違いされて怒涛の謝罪をされた。そしてその謝罪によりルピナスがあらぬ勘違いをして怒りによって剣に込められる力が強くなる。
「転移だ!この二人を兎に角遠くへ!!」
「な、成程!任せて下さい!!」
 キョウヤの指示にメルティが応じようと動く。しかし、それを許してくれる程騎士は甘くない。
「させないであります!!」
「きゃっ!」
 メルティは隣にいたナグサに腕を掴まれ地面に叩き伏せられた。その動きは洗練されておりナグサもやはり騎士なのだと実感させられる。
「メルティ!」
「余所見とは、いい度胸だ!!」
 ルピナスの剣の力が更に増す。このままではいずれ押し切られる。
「仕方がないっ!」
 キョウヤが魔力を込めて照準をルピナスとナグサに定める。
「ブラッティスピア!!」
「ナグサ!彼女を連れてここを離れろ!!」
「はっ、はい!」
 二人に向かって放たれた血の槍をルピナスはキョウヤと距離を取ることで回避。ナグサも回避しようとしたがその前にルピナスによって弾き飛ばされた。
「よし。だが、ここからどうするか」
 先程放った技は二人を倒すための物ではなく距離を取るための物だ。その目論見は上手くいきキョウヤとルピナスの距離は離れたがメルティはナグサに捉えられたままだ。何とかメルティを回収してこの場を離れなければ。
「待って下さい!キョウヤ様は悪い吸血鬼ではありません!!人間の血を吸っていないのです!」
「吸血鬼が洗脳を使えるとは知らなかったな。吸血鬼本来の力か?それとも貴様個人のものか?」
「吸血鬼は洗脳なんて使えない。彼女は本心で話している」
「嘘が下手だな!吸血鬼!!!」
 メルティの必死の訴えとキョウヤの冷静な説得はルピナスには何の意味も持たない。寧ろルピナスの怒りは更に高まり、再びキョウヤに騎士剣を振り下ろした。
「話を聞いてくれ!俺は貴方達と争うつもりはないし、無辜の民を傷つけるつもりもない!寧ろ悪魔や吸血鬼を全滅させたいと思っている!!」
「白々しい嘘だな!!!吸血鬼が!善性を持つ訳がないだろうが!!!」
 ルピナスの一撃をキョウヤは手甲で防ぐ。しかしその一撃は想像以上に重く、後方にキョウヤが吹き飛ばされる。
「天にいらっしゃる我らが神よ。今、我に邪を祓う力を貸し与え賜え!!!」
「神の奇跡!?キョウヤ様!!」
「浄化の剣!!!」
 ルピナスが祈りを終えると神の奇跡がルピナスの騎士剣に宿り、光剣へと変化させる。ルピナスがその光剣をキョウヤに振り下ろすと剣先の光が伸びてキョウヤの体を抉りにかかる。
「ブラッティステップ!」
 急にリーチが伸びた事により普通の回避では間に合わないと踏んだキョウヤが足から血を噴射させて光剣を回避する。だが不安定な体勢となる。
「浄化の光!!!」
 空中に飛んだキョウヤをルピナスが放つ光線が飲み込んだ。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
「キョウヤ様ぁぁぁぁ!!」
「うわぁ!暴れないで下さい!あなたはあの吸血鬼に洗脳されているのであります!!我々が必ずあなたを救ってみせますから!!」
 神の奇跡には主に二種類の奇跡が存在する。一つはメルティが使うサポート系の奇跡。これが神の奇跡の九割を締めており基本的に神の奇跡とは支援魔法と考えて差し支えない。だが、そうではない一割が存在する。それこそが浄化の力だ。ルピナスの祈りは自身の強化やナグサの支援ではない。ただ目の前の悪を殺す為の力を得る事を願っている。その祈りに神は答え、浄化という力を貸し与えてくれるのだ。
「がはっ、まっ、たく。人の話を、少しは聞くほうがいい」
「人?笑わせるな。貴様は人ではない」
 全身火傷を負った様な傷跡を付けながらキョウヤが立ち上がる。浄化の力は悪魔や吸血鬼といった邪悪なるものへの天敵。魔法を使えない人間からしたら最強の対抗手段となる。
「キョウヤ様の傷の治りが遅い!今すぐにでも私の血を吸って貰わないと。ナグサさん!離して下さい!私をキョウヤ様の元へ!!」
「ダメであります!分かっているんですか!?彼は吸血鬼、人に害を齎す存在であります!そんな奴、生きていてはいけないのです!」
「キョウヤ様はそんな人ではありません!!!吸血鬼だから悪、人間だから善だなんて、そんな考え方は間違っています!!!」
「っ!」
 メルティの言葉にナグサは少し動揺した。メルティの言葉は、確かにその通りかも知れない。人間の中にも売買されている奴隷を買って悪逆非道な事をする人間もいる。故に人間だから善性であると定義するのは早計だ。
「し、しかし」
 だが、人の血を吸わない。人を襲わない吸血鬼など聞いたことがない。
「ナグサ、騙されてはならない。奴は間違いなく彼女の血を吸っているぞ」
「それは私が望んだ事です。キョウヤ様から血を吸いたいと言われたことは一度もありません」
「大丈夫だ。私がすぐ奴を浄化し、君を囚われの身から解放しよう!!」
 浄化の剣を構えて再びキョウヤに突貫してくるルピナスに仕方なくキョウヤが応戦する。光剣に少しでも触れればキョウヤの体は光剣に焼かれてしまうが幸いにも手甲で受ける分には光剣は普通の剣と違いはない。だが少しでもタイミングがずれればそれはキョウヤにとって致命症となる。
「話の通じない人ですね!ナグサさん!私あの人と話をつけて来ます!」
「ダメでありますよ!!吸血鬼はとても危険な存在なんです!!」
 暴れるメルティを抑えながらこの場から離れようとするナグサ。その力は騎士だけあって強く、駆け出し探検家のメルティの腕力ではどう足掻いても逃れる事はできない。
「せめて支援の奇跡をっ!」
「それもダメであります!もう少ししたらきっと正気に戻りますから我慢して下さいぃ!」
 メルティがキョウヤに向かって手を伸ばすがその腕をナグサに止められる。神の奇跡は特別なモーションがなければ発動できないものではない。しかしメルティは神の奇跡を使う事がほとんど無かった為ナグサに腕の拘束をされた状態で上手く奇跡が使えない。
「やはり奇跡を起こすには両腕を合わせる必要があったんですね。勉強していて正解だったのであります」
「別にそんな事は無いのですが、うう。実際使えていないから言葉が返せません。というか、騎士の皆さんは全員奇跡が使えるのですか!?」
 キョウヤの支援が出来ないのならせめて有意義な情報だけでも持ち帰ろうとメルティがナグサに質問を投げかける。ナグサはその問いに答える必要はないのだが律儀に答えてくれる。
「いえ、騎士の中でも奇跡が使える騎士はほんの一握りであります。神の奇跡が使えればとても強くなれるのでありますが、残念ながら私もまだ使えなくて。何かコツとかってありますか?」
「コツ、ですか?私も気がついたら使えていたので。教えられるものはあまり」
 先程まで敵対していた事を忘れて二人は会話を続けた。
「早く行け!」
「あっ!は、はぃぃ!!」
 ちんたらしているナグサをルピナスが叱り、ナグサはメルティを抱えてその場を離れた。
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