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二章 騎士の誓い
二十話 信じる心
しおりを挟むとある町から離れた郊外で、金属がぶつかり合う音が響く。一方は人間の血を吸わない吸血鬼の手甲。もう一方は人を守る王国の剣だ。
「浄化の鎖!」
「ブラッティスラッシュ!」
ルピナスが祈りなしで浄化の力を宿した鎖を召喚しキョウヤの動きを完全に静止させようと四本の鎖を発射する。しかしキョウヤはその動きを読み切って血の斬撃を放ち鎖をバラバラに断ち切る。
「浄化の光!」
「ブラッティストライク!」
しかしルピナスもそのキョウヤの動きに動じる事なく即座に剣先に光を宿してキョウヤに向かって放つ。が、こちらも血の塊の一撃により相殺させられた。
「貴様、私を舐めているのか!?」
キョウヤの戦闘スタイルにルピナスが怒鳴りをあげた。そう。キョウヤは一度たりともこちらから攻撃をしてはいない。あくまでルピナスが攻撃をしてきたものを防御する事しかしていないのだ。
「言ったはずだ。俺は貴方達を傷つけるつもりはないと」
「ふざけるな。吸血鬼は悪だ。見殺しにするべき存在だ。そんな吸血鬼が、人を傷つけるつもりが無いだと?そんな筈はない!ならば、そうなのだのだとしたら!何故私の両親は!生まれる前の弟は!!村の人々は死ななければならなかった!!!」
ルピナスの怒号をキョウヤは真正面から受け入れる。ルピナスの反応から吸血鬼に身内が殺された経験がある事は予測できていたが、まさか村ごととは。
「・・・あなたの言う通り。吸血鬼は基本人間を食糧だと思っている。だが、俺はそうは思わない」
「貴様はおもちゃだと思っていると?」
「貴方は少し捻くれすぎていないか?俺は人間は人間だと思っているさ。食事の為に傷つけてはいけない、尊い生き物だ」
想定外の返しに少し動揺しながらも心からの本心をルピナスに伝える。村を滅ぼされたというルピナスの怒りは最もだし、相当な物だろう。だが、キョウヤはここで死ぬ訳にはいかないし、ルピナスもここで負傷する必要はない。ルピナスが負傷する事によってルピナスが救う筈だった人々が救えなかったとなってはキョウヤもそれは本望では無い。
「信じられるか」
「俺は、人間を食糧だと思えなかったから吸血鬼達に嫌われ、疎まれ、迫害され、追放された。それでも、俺はどうしても人間を殺せなかった。傷つけられなかった」
キョウヤの言葉を聞いてルピナスの反応が少し止まる。吸血鬼の中でもキョウヤは異質。その異質となら争う必要がないと、どうにかしてルピナスに信じさせなければ。
「それでも。俺は人間と関わるつもりは無かったんだが。一人の少女に出会って考えが変わった。これ以上、吸血鬼や悪魔のせいで悲しむ人々を出してはならない。これは、吸血鬼の殲滅は。人間よりも強く、人間よりも死に辛い、俺のやるべき事なんだ」
「・・・ふざけるな。貴様も!!!吸血鬼だろうが!!!今の貴様の感情など、知らん!例え今は善性を持っていようが、血を流した人間を前にしたらどうなる!?吸血衝動を抑えられるのか!?絶対に害を及ぼさないと断言出来るか!?出来ないだろう?出来てたまるものか!!だから、私は!ここで貴様を殺す!!!」
ルピナスの怒りはキョウヤでは抑えられない。普段は冷静沈着な人物程一度怒りが爆発すると止められないと聞いた事はあるが、まさかこれ程だったとは。これでは、交渉や休戦は無理だ。
「分かった」
怒りに燃えるルピナスに、キョウヤは初めて拳を向ける。
「今から貴方を殺さない程度に戦闘不能にする。そして、メルティを取り返す」
「そんな甘い考えをもって、私を殺せると?その弛んだ心ごと!私が貴様を浄化する!!」
どちらが合図をした訳でもないが、二人はほぼ同時に地面を蹴りお互いに肉薄する。そしてキョウヤの拳がルピナスの左頬に。ルピナスの光剣がキョウヤの左胸に突き刺さる。が、ルピナスは拳の痛みなど気にせず光剣を更に突き刺そうと力を込めるがそこに既にキョウヤの姿は無かった。
「なっ!」
「歯を食いしばれ!!」
キョウヤは光剣による攻撃を恐れずに殴りにかかったが、大人しく重傷を負うつもりはない。一撃は覚悟するがそれ以上は喰らわない。吸血鬼の回復速度を活かしてルピナスに貫かれた胸部から即座に剣を引き抜き、本命となる右ストレートをルピナスの腹部へ叩きつけた。
「がはっ!」
「逃がさない!」
手痛い一撃を喰らったルピナスが一度キョウヤから距離を置こうとするがキョウヤはその動きを読み、回避するであろう場所へ再度拳を叩きつける。
「はぁぁぁ!!」
キョウヤが放つ拳のコンビネーションは見事にルピナスの全身にヒットし、ラスト一発。吸血鬼の力を使わない自力だけによる全力でルピナスを殴り飛ばした。
「はぁはぁ。これで、終わりだ」
地面に倒れ込んだルピナスにそう告げてキョウヤはメルティを救いに歩き出す。が。
「やはり、そう簡単に倒れてはくれないか」
キョウヤのコンビネーション攻撃を食らってもなお、ルピナスは立ち上がった。
「治療能力は、貴様の特権ではない!!」
治癒の奇跡によってキョウヤから受けたダメージをかき消したルピナスは光剣をキョウヤへと放つ。
「今の貴方の実力では、貴方は俺には勝てない!剣を納めるんだ!」
「確かに、今の私は貴様より弱い。現に今の攻撃に血の斬撃が混ざっていれば、私は生き絶えていただろう。だが!その偽りの正義心と我が浄化の力があれば!勝機はある!!」
先程の攻撃でキョウヤに殺すつもりがあればルピナスの儚い命は今頃無惨に散っていただろう。だが、そうはしなかった。それがキョウヤの甘さだ。
「今ここで!貴様を滅する!」
「殺される訳には、いかない」
ルピナスの騎士剣が光ると再度騎士剣が光剣へ変化し、それと同時に光の鎖が大量に出現してキョウヤを捉えに動き出す。その鎖をキョウヤの血の斬撃が一本ずつ切り裂いていくがルピナスから放たれる鎖は次々と生成されていく。それに加えてルピナスの光剣もキョウヤに迫り来る。
「死ね!吸血鬼!」
「くっ、このっ!」
光剣を避けルピナスの顎に強烈なアッパーを直撃させる。その一撃にルピナスの脳が揺れ、脳震盪が起こりそうになるが即座に治癒の祈りを唱え強引に脳震盪を止め、再度光剣を構える。
「無茶な戦いはやめろ!神の奇跡とて無限では無い!このままでは死ぬぞ!」
「吸血鬼を殺せないなら、死ぬのと同じだ」
血を吐いても尚ルピナスは止まらない。光剣による攻撃は止んでも鎖は止まらない。その鎖をキョウヤは引き続き血の斬撃を飛ばし続けるが、キョウヤの血にも限度はある。
「っ!しまった!」
吸血鬼の力はそのまま人間から吸った血液の量に比例する。そしてメルティから少量分しか摂取していないキョウヤは己の肉体を使う体術には自信があるが吸血鬼としての力は最弱と言える。その為、長期戦となった今回の戦いはキョウヤには実に不利な戦いとなった。その為、血の斬撃の威力が落ちて鎖を断ち切ることが出来なかった。
「捉えた!」
キョウヤの右腕に鎖が巻き付いた事によりキョウヤの動きが制限された。この動きが止まった事でその他に迫ってくる鎖に四肢を絡めつけられて磔にされてしまった。
「ぐっ!」
「ははは!無様だな吸血鬼!これが!貴様達がやってきた事への報いだ!!」
キョウヤを捕らえた事が余程嬉しかったのかルピナスは狂気じみた高笑いをして光剣をキョウヤに向ける。
「貴方が吸血鬼を憎んでいるのは分かった。だがら俺を殺さないでくれとは言わない。だが」
「くどい!!!今こそ!神の名の元裁きを受けろ!!!」
ルピナスが勢いよくキョウヤの首に光剣を振り下ろした。
(メルティ、すまない)
キョウヤは覚悟を決めて飛んでくる斬撃を待っていた。が、いつまで待ってもキョウヤの首は飛ばなかった。出血もなかった。
「何が」
違和感を感じでキョウヤが目を開くと、ルピナスはしっかり光剣を振り下ろしていた。だがルピナスの光剣はキョウヤには届いていない。では何故光剣の動きが止まっているのか。
「な、何故。何故君が私を止める!!?ナグサ!!!」
キョウヤの首に光剣が届かなかった理由は一つ。ナグサがルピナスの光剣を受け止めていたからだ。
「落ち着いて下さいルピナス隊長!彼は嘘は付いていません!一度、話を聞いてみるのは如何でしょうか!!?」
「何を」
「キョウヤ様!!無事ですか!!?」
ナグサがルピナスを説得しようとしている間にルピナスの気持ちに動揺が広がった。その為祈りが不完全になり磔になっていたキョウヤの体が解放されて地面に叩きつけられる。
「メル、ティ」
一生懸命にこちらに走ってくるメルティを薄目で見ながら、キョウヤは意識を失った。
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