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二章 騎士の誓い
二十一話 利害の一致
しおりを挟む「・・・んっ」
唇に柔らかい違和感を感じてキョウヤは目を覚ました。周囲を見渡すとどうやら場所は移動していないようでキョウヤは郊外で寝かされていた。
「目を覚まされましたか?」
見るとどうやらメルティに膝枕されている状況の様だ。そして先程の柔らかい感覚はメルティの唇の様だ。メルティの口から唾液が垂れている。その様子は大分センシティブだが、今はそれどころでは無い。
「意識を失った相手を襲うのは」
「別に性欲に負けてちゅーしたわけじゃないです!!ちゃんと血を飲ませる為っていう言い訳があるんですから!!」
「言い訳なのか」
キョウヤとキスがしたかったという事は否定しないメルティに呆れながらも体を起こす。すると真っ赤な顔を手で覆ってはいるものの指の隙間からガン見しているナグサと目があった。その奥を見ると反対を向いて不貞腐れているルピナスが座っているのも分かった。
「これは、どういう状況だ?」
「ナグサさんが分かってくれたんです。キョウヤ様は悪い人じゃないって」
◇
時間は少し遡り、ナグサがメルティを抱えてキョウヤとルピナスの戦いの場から離れた時の事だ。
「ナグサさん!聞いてください!キョウヤ様は悪い人では無いんです!」
「何度も言いますけどメルティ殿は洗脳されてるんですよぉ!あの人は吸血鬼でありますよ!!」
このやりとりはナグサが戦闘の場から離れてから四回目のやりとりである。全く同じ答えが返ってくる事は分かっていてもメルティは何度も同じ言葉を繰り返していた。その甲斐あってかナグサも少し疲れてきていた。攻めるなら今だろう。
「ナグサさん。あなたが見たルピナスさんは傷を負っていましたか?」
「傷、でありますか?」
何度も繰り返されていたキョウヤへの弁明が代わりナグサは視線をメルティに向けて足が少しゆっくりな動きになる。
「確かに、ルピナス殿は無傷だったような」
「キョウヤ様にその気があればきっとルピナスさんは今頃死んでいます」
メルティの言葉にナグサは身震いする。真剣な顔で死について語るメルティのせいでナグサが最悪な想像をしてしまったのだ。
「つ、つまり。あの人にルピナス殿を殺すつもりはないと?」
「そう何度も言っているでしょう!!こほん。キョウヤ様は本気で人間に危害を加えるつもりはありません。実際キョウヤ様と私は何度も奴隷にされかけていた人々を救っています。我々に悪意があったらそんな事しないのでは?」
「た、確かに、そうであります?」
ナグサの目が分かりやすくぐるぐる回っていく。申し訳ないがナグサは頭が良さそうには見えない。その為、畳み掛ける。
「吸血鬼に洗脳能力などありません!私はキョウヤ様が吸血鬼である事を知っていて尚キョウヤ様を愛しているのです!それは顔、が全く無い訳ではありませんが。その心に惹かれたからです!キョウヤ様は人に危害を加えず、人の為に戦っているのです!その為キョウヤ様を殺すのは間違っています!騎士のお二人としても奴隷売買が無くなるのはいい事でしょう!?ね!?つまりキョウヤ様を殺すのは間違っているのです!!戦いを辞めさせましょう!!!」
「は、はいであります!?」
早口でペラペラと自分の思う言葉を口走ったメルティにナグサは混乱していく。そして、目をぐるぐる回しながらメルティに敬礼した。
◇
「と、この様にナグサさんを説得して味方に付けたのです」
「それは洗脳じゃないのか?」
メルティが誇らしげに胸を張ってキョウヤに事のあらましを伝えるがキョウヤは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「いえ、確かに最初は困惑しましたが、今はキョウヤ殿が悪人ではないと心から思っているでありますよ?ね、ルピナス殿」
「・・・」
ナグサから話しかけられたルピナスはチラリとキョウヤを見たがすぐにそっぽを向いた。
「ルピナスさん!?キョウヤ様に剣を向けた事まだ一度も謝罪の言葉を聞いてませんよ!?ほら!謝って下さい」
「断る。私は悪い事はしていない。吸血鬼を斬ることは我が使命にして宿命だ」
「まだ言いますか!」
小さな声で呟くルピナスにメルティが怒りルピナスに殴りかかろうとするがそれをキョウヤが止める。
「ルピナス」
「・・・何だ、吸血鬼」
「俺は吸血鬼だ。貴方が憎んでいる吸血鬼ではないが、それは間違いない」
キョウヤの言葉に「何を今更」と思いながらもルピナスは頬杖を突きながら話を聞き続ける。
「貴方のその憎しみは間違っていない。吸血鬼はこの世にいてはならない。だから、この国に潜む吸血鬼を全て殺すまで、俺を生かしておいて欲しい」
「・・・ふん。まるで貴様以外の吸血鬼が死んだら貴様を殺してもいいと言ってる様だな」
「その通りだ」
キョウヤの言葉に三人が目を見開く。
「言った筈だ。吸血鬼はこの世にいてはならない。その為、全てが終わったら俺を殺して欲しい」
「そんな!ダメです!!キョウヤ様は私以外から血を吸っていないじゃないですか!!」
「それでも俺は吸血鬼だ。何が暴発して人を襲うか分からない」
これは少し前から考えていた事だ。悪しき存在を全て打ち果たしたら自分も消えようと。しかし自殺は上手くいかなさそうだしメルティに殺しをして欲しくもなかった。そんな事を考えていたらメルティがルピナスを連れてきた。そう考えると状況としては悪く無いかも知れない。
「俺は貴方の家族を殺した吸血鬼の仲間だ。だから、頼む」
「断る」
キョウヤの願いをルピナスは即座に断った。
「何故?」
「何故だと?自分で生かして欲しいと命乞いをしてきた分際でよく言う」
ルピナスの言葉にキョウヤが困惑する。それはまだ悪しき存在を全部消せていないからであって生きていたいからでは無い。賢いルピナスならそれを分かっている筈だ。
「まさか、俺からの頼みだからか?」
「っ!そんな幼稚な物ではない!!」
キョウヤがもしかするとと思ってそう聞いてみると妙に体をビクッと震わせてルピナスが否定する。が、その否定は肯定と同義だ。
「まさかルピナス殿にこんな子供っぽい一面があるなんて。可愛いでありますぅー!」
「上官に向かって可愛いとは何だ!?」
小さい子供を撫でるかの様にルピナスに手を伸ばすナグサの手を振り払って咳払いを一つ。
「確かに貴様は吸血鬼だ。だが、自分が殺されそうになっていると言うのに私を殺そうとしなかった。この正義感だけは認めてやる」
「ルピナス」
「勘違いするな!私は貴様が少しでも人間に危害を加えたというなら即座に貴様の首を切り落としてやる!今はまだ貴様に利用価値があるから生かしてやるだけだ」
ルピナスがキョウヤに顔を見せずにそう言い放った。これが、ツンデレと言うやつか。
「男のツンデレに何の需要があるんですか?」
「需要大有りであります!!!イケメンのツンデレなんてどれだけあってもいいであります!!ごはんが進むー!」
「・・・二人ともそんなキャラだったか?」
初めて会った時とは大分違う二人を見てキョウヤが困惑する。
「せいぜい同族殺しを頑張るんだな。私は貴様の倍の吸血鬼を殺してやるからな」
「お二人とも!旅の無事をお祈りしているであります!騎士団に捕まらない様にしてくださいねー!」
剣を鞘に収めてマントを広げながら去るルピナスと友人であるメルティに手を振りながらナグサは去っていった。
「ふぅ。さてキョウヤ様!まだ残っている傷を治療してしまいましょうか!」
「・・・いや、結構だ」
「無茶言わないで下さい。まだ怪我は治りきってませんし、ルピナスさんとの戦いで血を使い切っちゃったのでしょう?」
メルティの言う傷の治療とは神の奇跡による治療ではない。吸血鬼ならではの回復方法、つまりは人間の血の吸血である。先程はキョウヤの意識がなかった為メルティの血液を口移しで飲ませたのだがやはりキョウヤが思う存分飲むにはキョウヤ自身が血を飲むのが一番だ。
「もし飲まないというのなら無理矢理飲ませます。キョウヤ様とのファーストキス、とっても良かったですし」
「そういえば知らない間に俺のハジメテが奪われている」
「キョウヤ様も初めてだったんですか!!?これはもう運命ですね!死ぬまで一緒にいましょうね、キョウヤ様」
キョウヤを失うかも知れないという怖い出来事を体験した為か、メルティが少しヤンデレっぽくなっている。元々押しが強い一面があったがそれに束縛までついたらたまったものでは無い。ここは素直にメルティに甘えるとしよう。
「分かった。頼む」
「はい!いっぱい召し上がって下さいね」
キョウヤがそう答えるとメルティは即座に上の服を脱ぎキョウヤに首元を差し出す。
「服を脱ぐ必要はない」
「でもこの方が吸いやすいでしょう?」
出来る事なら服は着て欲しいが、メルティが大人しく服を着てくれるとは限らないし何より今はキョウヤも早く血が飲みたい。その為そのままメルティの首元に鋭い歯を突き立てた。
「あぁん!んっ、んぁぁ!」
「卑猥な声をあげないでくれ」
再度こんな子がシスターなのはどうなんだと思いながらキョウヤは吸血を続けた。
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