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三章 悪魔戦線
二十六話 お友達
しおりを挟む「かはっ」
ウォカンナに血の一撃を叩き込んだ後キョウヤは力尽きた様に地面に倒れ込んだ。
「キョウヤ様!!」
「・・平気だ。傷は大した事はない」
メルティが駆け寄って来て治癒の奇跡を祈ってくれる。お陰でキョウヤの体にある傷はゆっくりと消えていくがキョウヤが倒れた理由は貧血にある。ウォカンナを打ち滅ぼすのには血を出し惜しみなどしていられなかった。故に仕方がない事だが吸血鬼にとっての貧血はかなりの体の怠さや疲労感を伴う為出来る事なら貧血に陥らないに越した事はない。だがそれより嫌なのは。
「ぐっ!!」
強い吸血衝動だ。貧血状態の吸血鬼の本能が働き強力な吸血衝動がキョウヤを襲う。この吸血衝動が人間から血を吸わないと誓ったキョウヤにとって一番嫌な貧血の症状だ。
「キョウヤ様!吸血衝動があるなら躊躇わず襲って下さい!私はキョウヤ様のものなんですから!」
もうそこそこの付き合いになったメルティはキョウヤの異変に気づき首元をキョウヤを見せる。それによりキョウヤの吸血衝動は更に増すがキョウヤはメルティから視線を逸らした。
「キョウヤ様?まさか今でも尚私から血を吸いたくないと?」
「そうじゃない。もうメルティから血を吸う事に躊躇いはない」
頬を膨らませて怒るメルティにキョウヤはサラリと考えの変化を口に出す。出来る事ならメルティからも血は吸いたくないが、それが他ならぬメルティの願いであり、メルティの望む世界の為に必要な行為だというのならば。キョウヤはメルティの血を自身の血肉へと変えよう。キョウヤとメルティは運命共同体なのだから。
「では何故?」
「これ以上の吸血はメルティの血が足りなくなってしまう。それに、今は少し腹に入らない」
メルティの血は上質で吸血鬼にとってはご馳走と言える。しかし、上質過ぎる為。
「私の血は胃もたれするんですか!!?」
「そうは言っていない。ただ、一日一回で充分だ。それ以上は少し、腹に入らない」
「人の血を油こってりラーメンみたいにぃ!!」
メルティがポカポカとキョウヤを殴ってくるがキョウヤにはどうする事も出来ない。
「なら、温泉で血行を良くするなんて考えはどうかしら?」
突如聞こえてきたその声にメルティの表情は恐怖に歪み、キョウヤは真っ直ぐにその声の人物を見据えた。
「やはり、死んでいなかったか」
「いいえ。確かにあのあたしは死んだわ。大したものよ」
拍手をしながら二人を褒めるウォカンナは体のどこにも怪我などは見えない。その事にメルティは頭に疑問符を大量に浮かべる事しか出来ない。
「俺達が殺したあのウォカンナという名の悪魔は、あなたの心臓の一つか?」
「百点よ。そう、あの子はあたしでありあたしではない。貴方達も一度は考えた事がない?もし自分が二人いたらって」
強大な悪魔にはどういう理屈か心臓が三つ存在する。その三つの心臓のどれか一つでも活動をしていれば四代悪魔は死なない。その心臓を中心に新たな体が生成される。
「そんな、心臓を自分で捻り出してもう一つの体を作ったと言うのですか!?」
「ええ、でも簡単では無かったのよ?色々と苦労したの。水の体を作ってその中に心臓を突っ込んだりね。最終的にどうやって作ったのかはあまり覚えていないけれど、とにかく頑張ったのよ。褒めて欲しいわね」
「・・・」
ウォカンナが話をしている間に体制を整えようと両足で体を支えて立ちあがろうとするが上手く力が入らずキョウヤは再度倒れ込んだ。
「無茶しちゃダメよ。安心して?あたしにもう戦意はないわ。元々貴方達を殺すつもりもあまり無かったし」
「メルティが助けに入ってくれる前は明確な殺意を感じたが?」
「ああ。それはウィルヴィに文句を言って欲しいわね。あの子が貴方達をかなり気に入っていたからあたしも期待していたのに、いざ殺り合ってみたら大した事無かったんだもの。ね、ウィルヴィ?」
ウォカンナがそう言って何もないところに水の鉛玉を放つ。するとその弾が爆発するとそのに風の四代悪魔、ウィルヴィが立っていた。
「ちっ。つくづく変な女やわ」
「あら?貴方に言われたくないわね。この戦闘狂」
ウィルヴィが悪態を突きながら三人の前に姿を見せて怠そうな顔をする。
「勘違いすなよ?ワシは暇だから見に来ただけやからな」
「ああ、感謝してる」
「解っとらんやんけ」
ウォカンナに殺されそうになった時、メルティが動かなければウィルヴィがキョウヤを助けてくれたのだろう、そうキョウヤは思えた。なんだかんだウィルヴィはキョウヤの事を気に入ってくれている様だ。それはキョウヤにも言える事だが。
「良いわよね。殺し合いの末に生まれる友情。あたしもその仲間に入れてくれないかしら?」
「入れるかアホ。お前は状況次第でコロッとキョウヤの事裏切るやろが」
「あら残念。ならお友達になりましょう?それなら良いでしょう?」
妙に馴れ馴れしいウォカンナに警戒を強めるがウォカンナからは本当に敵意を感じないし、殺しをしなくても済むのならばそれに越した事は無い。
「人間に危害を加えたら、俺達は躊躇わずにあなたを討伐しに行くぞ」
「構わないわよ。そうなったらあたしも次は全力で貴方達を殺しにかかるわ」
ウィルヴィの様に人間に危害を加えないという条件は結べなかったが、ここで戦闘を続行してもキョウヤ達に勝ち目はかなり薄い。故にここは休戦を受け入れるしかない。
「おい。こんな女ワシ一人で殺せるわ」
「あら?四代悪魔最弱が吠えているわ。貴方くらい心臓二つで充分殺せるわよ?」
「上等や。今力関係はっきりさせたろやないか!!?」
休戦を受け入れようとした瞬間ウィルヴィとウォカンナが戦闘形態を取るので力を振り絞って二人の仲裁に入る。
「待った!せっかく争わずに済みそうなのにどうして争おうとするんだ!?」
「ワシの方が強いって証明する為や」
「あたしの方が強い事を証明する為よ」
同じタイミングで同じ事を言う二人にキョウヤは頭を抱える。悪魔というのはみんな力の証明に飢えているのだろうか。
「まあいいわ。お友達になったんだもの、今夜は親睦を深めましょう?」
「今夜?確かに今からこの街を出発するには遅い時間ですけれど、この誰もいない街に宿屋なんてあるんですか?」
「勿論!ここは昔から伝わる伝統的な温泉宿があるの。あたしもここに入ってみたかったから場所をここにしたのよ」
伝統的な温泉宿と思われる場所をウォカンナが指差す。そこには当然当時の様な賑わいはなく設備もあちこちが壊れている様に見える。
「断る。行くぞメルティ」
「あら連れないわね。確かに豪華な料理とかは出ないけれど温泉はまだ生きているわよ?傷を治すのにも温泉はとてもいいと思うのだけれど?」
ウォカンナが笑いながら「それに」と言ってメルティに耳打ちをする。
「はっ!行きましょう!温泉!私!断然温泉に行きたいです!!!」
ウォカンナに何やら吹き込まれたメルティが実に興奮した様子でキョウヤの腕を引っ張る。この行動をみてキョウヤは更に温泉宿に行きたくなくなってきた。
「ほなワシは先に行っとるで」
「な、ウィルヴィ!?あなたまで乗り気なのか!?」
「アホ。乗り気やないけど、どうせこれは行く流れやろ?ワシが参加する必要はあらへんけんども、これはお前が流されるパターンやろ。酒くらいはあるんやろな?」
「ええ、とっても強いのが」
「ほなええわ」
そう言うが早くウィルヴィの体はその場から一瞬で消える。三対一となってしまったキョウヤは深々とため息を吐きながら、温泉宿への一泊を受け入れたのだった。
「ようこそ!温泉宿へ!」
「妙にテンションが高いな」
「ウォカンナさんがここの主でもないと言うのに」
宿に着いた二人は妙にテンションの高いウォカンナの案内で宿の中を紹介される。いかにも何か出そうな雰囲気のあるオンボロ宿をそんなに嬉々として紹介されてもとても乗り気にはなれないのだが、何故かメルティはノリノリである。
「メルティ、あの女に何を吹き込まれたんだ?」
「いいいいいいいえ!?何も言われていませんが!?温泉が、温泉ですが!?」
分かりやすく焦るメルティに不安を覚えつつもここまできて何処かへ行く訳にもいかない。次の目的地すら決まっていないのだし、向かう場所もないのだ。ならば大人しくここで心と体を休めるのも悪くないかも知れない。
「部屋はこの宿で一番上質な大部屋よ。四人でお布団を並べて恋バナしましょ!」
「恋バナ!!やります!やらせて下さい!」
「話す事なんてないやろ。つーかワシも同室なんかい」
そんなこんなで水の四代悪魔、ウォカンナと友達になった(?)キョウヤとメルティは温泉宿へ宿泊する事となった。
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