Vampire escape

藤丸セブン

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三章 悪魔戦線

二十七話 女の友情(?)

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「さて、温泉に浸かる前に、まずは食事よね。あたしがここの料理に劣るとも勝らない料理を作ってきてあげるわ」
「不要だ。申し訳ないがあなたから出される料理を口にできる程、俺はあなたを信用していない」
 流れで崩壊した温泉宿に泊まる事になったキョウヤとメルティ。そしてウィルヴィとウォカンナは少しだけ宿を堪能した後食事に移ろうとしていた。
「そう?でも、メルティちゃんは食べたいわよね?」
「はい!はい!食べたいです!」
 ウォカンナがメルティにウインクするとメルティが勢いよく手をあげる。どうもウォカンナに何かを吹き込まれてから様子がおかしい。洗脳などの類ではなさそうだが、どうにも引っかかる。
「キョウヤ様!私達の食糧も無限ではありません!そしてお金もそれ程まで余裕がある訳でもありません!ならばここは無料で一食分を浮かせるべきではないでしょうか!?」
 妙に説得力のある言葉がメルティから飛び出してキョウヤは少し驚く。今の所この口論はメルティに武がありそうだ。
「誰も無料とは言っていないだろう?」
「無料で提供するわ」
「ここでウォカンナに貸を作っては後で何と言われるか分からない」
「これはあたしの我儘よ。それを聞いてくれたのだから、寧ろあたしが貴方達に貸を作っていると言ってもいいわ」
「・・・毒が入っているかも知れない」
「ならウィルヴィに食べさせればいいわ。毒味ってやつね」
 何と言う事だ。これ以上ウォカンナの手料理を食べる事を否定する材料が見つからない。横でウィルヴィが「ワシを毒味役にすんなや!」と喚いているがまあそれは気にしなくても構わない。
「寧ろどうしてそこまで食べたくないの?」
「あなたがメルティと二人で何かを企んでいるからだ」
 正直な所、ウォカンナが食事に毒を入れてくるとは一ミリも思っていない。毒を入れてくるならもっと確実にこちらを殺す方法があっただろうし、何より彼女は毒殺を好まないという謎の自信がある。何故こんなに宿でおもてなしをしたがっているのかは本当に謎だが、彼女は悪魔だ。つまり殺し以外の目論見がある筈。
「まあとにかく作ってくるわ。メルティちゃんは食べるんだし」
「はい!私もお手伝いしますね!」
「あらあら。ならお願いね、可愛い助手ちゃん」
 そんな会話をしながらウォカンナとメルティは部屋を出て行った。その様子はまるで仲の良い姉妹の様だった。
「敵にあんなに懐いて。あの子大丈夫か?」
「あなたと俺たちも元は敵同士だっただろう?」
「ワシはあんなにお前らに馴れ馴れしくしとらんぞ。ワシはあくまでもお前らと協力関係にあるだけや。力の限り反逆せえよ」
 よく考えればウィルヴィの言う通りだ。元は敵だったウィルヴィをキョウヤは今やかなり信頼してしまっている。ここまで来てウィルヴィが裏切るとは思えないが、警戒心が無いと言えばその通りだ。
「やはりウォカンナの料理には手を出さない方がいいか」
「まあせやろな。ワシもあいつが何考えとるかは知らへんけど、碌でも無い事企んどるのは分かるわ」
 それから暫くするとウォカンナとメルティの話し声が外から聞こえてきた。
「お、どうやら完成した様やな。腹減ったわぁ」
「え?食べるのか!?少し前に食べない方がいいと話を」
「あれはお前の話や。別にワシはどうって事ないやろ。悪魔やし」
 キョウヤには手を出させず自分だけは食べると言うその魂胆、実に悪魔だ。
「お待たせしたわね。本日のディナーはお鍋よ」
 部屋に入ってきたウォカンナが宿のテーブルに大きな鍋を置いた。その鍋からは実に食欲を唆らせる素晴らしい匂いが漂っていた。
「キョウヤ様!なんとレバーも用意しましたよ!吸血鬼にはレバーが良いんだとか!」
「あ、あぁ」
 その時、キョウヤの腹の虫が鳴った。
「あ、お待たせしてしまって申し訳ありません。さぁ!どうぞ!!」
 メルティが笑顔でレバーを渡してくるが、どうもそれだけでは無い様に見える。何か、瞳の奥に何かが血走っている様な、何とも言語化は出来ないがキョウヤの警報はなり続けていた。が、腹の虫も鳴り続けていた。
「空腹では傷の治りも遅いでしょう?それに、メルティちゃんが頑張ってあなたの為に作ったものを無碍にするつもり?それならこちらにも考えがあるわよ?」
 ウォカンナが笑顔で手のひらから少量の水を垂らしてみせる。それだけでは何を考えているのか分からない人もいるかも知れないが、そこに明確な殺意が乗せられていれば嫌でも何を考えているのか分かる。
「いつの間に彼女とそんなに仲良くなったんだ?」
「さっき少し話しました」
 どうもメルティは人と仲良くなるのが早い。いや、早すぎるレベルだ。ナグサとの時もそうだが、今回は数時間前まで殺し合いをしていたウォカンナと共に料理をし、その頑張りを粗末にされたら殺すと言わせるまでに友情を築いている。何をどうしたらそこまでのコミュニケーション能力が備わるのだろうか。
「キョウヤ様、あーーん」
 メルティが嬉しそうにキョウヤの口に料理を運んでくる。こうなっては仕方がない。例えメルティが何を企んでいようがこちらがしっかりと迎撃すれば何の問題もないのだ。大丈夫。・・・大丈夫。
「うん、上手い」
「良かったです!!さあ!どんどん食べて下さいね!!」
 料理は普通に美味しかった。一口食べてしまったのだから後はもうどれだけ食べても一緒だろう。キョウヤは既に料理を食べ始めているウィルヴィの横に座り、共に鍋を突き始めた。
「どうなっても知らんで」
  ◇
 そして数時間後。
「ふぅぅぅ。確かにいいお湯だ」
 キョウヤは鍋を平らげて自慢の温泉とやらに浸かっていた。メルティとウォカンナは料理の後片付けをしてから共に温泉に入ると言っていたが、二人だけにしてしまって大丈夫だろうか。
「いや、今更か」
 何度も思うが、ウォカンナにキョウヤやメルティを殺すつもりがあるなら今頃キョウヤもメルティと仲良く死んでいる。それにあれだけ仲睦まじく会話していたのだ。きっと大丈夫だろう。
「何だか体が熱いな。ウィルヴィも今はいいって入って来なかったし。のぼせる前に早めに上がるか」
「あら、それは残念ね。せっかく今から絶景が見られると言うのに」
「なっ!!?」
 熱で頭がぼーっとしていたが、声を聞いて覚醒する。その声は大人びた女性の声、つまりウォカンナの声だ。ここでウォカンナの声がする筈がない。何故ならここは、男湯だからだ。
「え、えっと。こんばんわ」
「・・・まあウォカンナがいる時点でいるのだろうとは思ったが」
 背中の方からウォカンナとは別の少女の声が聞こえる。当然メルティの声だ。彼女達の企んでいた事とは男湯への潜入だったのか。
「犯罪だぞ。騎士に叩きつけてやろうか?」
「あら?その前にあなたが捕まるわよ?」
 くすくすと笑うウォカンナにキョウヤは冷や汗を流す。ここで振り返ってしまっては彼女達の裸体を見る事になってしまう。だが、こんなくだらない事に力を使いたく無い。
「だ!大丈夫です!この温泉は!混浴!ですので!!」
「・・・なるほど」
 温泉に入る前、看板が壊れていたが少し青っぽい色素が残っていた為深く考えずここを男湯だと思っていたが、どうやらここは混浴温泉だったらしい。恐らくメルティがウォカンナに囁かれたのもこの事だろう。温泉宿に泊まれば、キョウヤと混浴が出来ると。
「淫乱シスターめ」
「や、やめて下さい。そんな言葉をかけられると、何だか体がむずむずします」
「何を言ってるんだ」
 呆れた様にため息を吐き、目を瞑ったまま外へ出ようとすると、違和感を感じた。体が、熱い。何かおかしい。
「聞いてきた様ね。貴方達が食べた鍋、あれは。ラッコ鍋よ」
「ラッコ、鍋!?」
 聞いたことがある。ラッコ鍋には媚薬に似た効能があると。詳しくは分からないが、そんな様なことを本か何かで聞いたことがある。
「キョウヤ様ぁ、体が疼いて仕方がないのです。お願いしますぅ、止めて下さいぃぃ」
 ゆらゆらとメルティが近づいてくるのが分かる。まずい。どこから近づいてくるのか普段なら気配で分かるのに、今は妙に景色が歪んで頭が回らない。このままでは。
「ふふ、そろそろかしら」
 お互いの体が限界を迎えてきたタイミング。そのタイミングを測って。
「んっ」
「っん!!?」
 ウォカンナはキョウヤにキスをした。
「ええええええええええええええええええええええ!!?」
 想定外過ぎる事実にメルティが悲鳴を上げるがウォカンナは知らん顔を貫き通し、なんと舌までキョウヤと絡め合う。キョウヤもキョウヤで抵抗が上手くできない。
「ねっ!ねねねねねねっ!寝取られですぅぅぅぅぅぅ!!!」
「うふふ。ご馳走様」
 ウォカンナは何もキョウヤを性的に食べたという理由でご馳走様と言ったわけではない。彼女は悪魔だ。そして悪魔は悪感情を食べる。彼女が食べたのは、メルティのウォカンナへ対する強烈な嫉妬の感情。
「ほんとお前は悪魔やな」
「あら、最高の褒め言葉よ」
 メルティはあまりのショックに意識を失い、キョウヤもそのまま眠ってしまった。
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