Vampire escape

藤丸セブン

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三章 悪魔戦線

二十八話 穏やかな夜に

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「酷いです!こんなの寝取られですよ!!浮気です!!脳破壊です!!!」
「寝てから言えや」
 温泉から上がって暫くの時間が経過した。妙に熱っぽかったキョウヤだが暫く時間が経過した今は普通の状態に戻ってきているが、メルティはまだ顔が赤くなっている事からウォカンナの鍋の効果が出ているのかもしれない。
「ずるいですずるいです!!今日は私とキョウヤ様が結ばれる筈だったのにぃぃ!!」
「うふふ。ごめんなさいね。あなたのキョウヤ、あたしが食べちゃったわ。式ではスピーチをお願いね」
「しっ!ししししししし式ぃぃぃい!?そんなの許しません!!!キョウヤ様は私のものなんですぅぅ!!!」
「あら?メルティちゃんはキョウヤのものかも知れないけれど、逆は違うんじゃないの?メルティちゃんはキョウヤの所有物だけど、キョウヤの妻はあたしよ」
「いやいややいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 あまりにも駄々を捏ねるメルティが騒ぎ立てる為キョウヤとウィルヴィも我慢の限界が来た。
「うっるさいねん黙れや!!!」
「キョウヤ様は私のものですぅぅぅ!!!」
「違うが」
「ちーがーいーまーせーーーーんーー!!!」
 普段のメルティならここまで意地を突き通したりはしない気がするが、今日は妙に駄々が長い。まるで酒に酔っている様な。
「面倒だな。メルティ、血を飲ませてくれ。俺が血を飲むのはあなたのものだけだ」
 キョウヤがそう言うとメルティの表情が一瞬で光輝き、即座にキョウヤに首を差し出した。
「っ、この味は」
 メルティの血に鍋に入っていた成分が混じっていてとても美味しくない。だが、血と一緒にこの成分を吸ってしまえばメルティも静かになるだろう。
「ふぁ、キョウヤ、様。何だか眠く、」
「眠ってもいい。今日は俺もすぐ休む」
「ふぁぁい」
 吸血が終わるとメルティは電池が切れた様に敷かれた布団に倒れて眠り始めた。
「あまり揶揄わないでくれウォカンナ。ああなったら手が付けられない」
「うふふ、あたしは悪魔よ?悪魔に人を揶揄うなと言うのは、無理な相談ではなくって?」
 実に嬉しそうな笑顔を浮かべるウォカンナに逆にキョウヤは苦い顔を浮かべる。休戦しているとはいえ、やはりウォカンナはあまり信用すべきではない。メルティが起きたらウォカンナはキョウヤの事を男として見ていない事をしっかりと伝えなければ。
「あら?あたしはちゃんとあなたの事を男として見ているわよ?」
「性別が男性だと思っている、と言う事だろう?そこに恋愛感情はない」
「うふふ、どうかしらね?」
 妖艶な微笑みを見せるウォカンナにキョウヤの苦い顔は収まらない。どうにもキョウヤはウォカンナが苦手だ。メルティも単純で純粋なのでウォカンナには振り回されるだろうし、必要以上にウォカンナとは関わりたくない。
「さて、本題に移らせてくれ。次の奴隷売買の情報を教えろ」
「あら、随分とせっかちね。明日の朝でもいいのではなくって?」
「早めに知って情報を整理する時間が欲しい」
 その言葉は嘘ではない。しかし本音はウォカンナから早く離れたいに尽きる。
「ほらウィルヴィ、ご指名よ」
「あん?ワシかいな」
「それはそうでしょう?あたしは別に奴隷売買の情報を教えるなんて契約はしていないもの」
 ウォカンナの言葉にウィルヴィは深いため息を吐き、「それもそうか」と呟く。そしてウィルヴィらしくない手帳を取り出す。
「そこにメモってあるで」
「珍しいな。あなたがこんな几帳面な事をするなんて」
「それはワシのやないで。土の四代悪魔、ローグのもんや」
 突然登場した四代悪魔の名前にキョウヤが驚きを口にする。
「何故その人の手帳をあなたが持っているんだ!?」
「いや、わざわざ口で一個一個伝えるのダルいし。だからといって自分で紙に書くのとかダルいやん。そんな事思っとったら。ちょーーーうどおったんよな。几帳面に色んな情報をメモする同僚がな」
 なんて身勝手な悪魔だろう。悪魔なのだから仕方がないが。
「まあここはありがたく見させて貰おう」
 少々気が引けるが今はそんな事を言っている場合ではない。四代悪魔の手帳なのなら有用な事が多く書かれているだろう。
「ん?これは、奴隷売買の情報しか書かれていないな」
「ええ、あの子は手帳を五、六個持っていてね。それぞれ書いてある情報は違うのよ。それは奴隷売買専用の手帳なんでしょうね」
「几帳面な悪魔なんだな」
 個人的な意見でしかないが、悪魔というのはみんなウィルヴィの様に雑で大雑把な生き物だと思っていた。しかしこの手帳には随分と細かく色々な事がメモしてある。日時、場所、警備の数、予想来客数、一言メモまで書かれている。これに目を通すだけで奴隷売買を止めるのがかなり有利に進められそうだ。
「だが、逆にいえばこの悪魔が警備する奴隷売買はかなり慎重に動かないとな」
 これ程までに几帳面にメモをしている悪魔が手帳が無くなった事に気づかない筈がない。ならばこの手帳に書いてある警備の隙を突かれやすそうな場所一覧は当然警備が強くなっているだろう。
「ありがとう。かなり参考になった」
 情報の量は多ければ多いほど強力な武器になる。正直ウィルヴィのこれまでの情報よりローグという悪魔の情報の方が非常に役に立った。
「しかし、どれも少し日時が離れているな」
 だが問題が一つあった。どの奴隷売買も今日より一ヶ月程度遅くにしか行われないのだ。
「どうしてだが分かるか?」
「知るわけ無いやろ」
 自分の興味のある事しか知らないウィルヴィに期待したキョウヤが馬鹿だった。ウォカンナならば知っているかも知れないが、これ以上ウォカンナに貸しを作りたく無い。
「まあ、この程度ならあたしが教えてあげるわ」
「・・・はぁ。頼む」
 貸しにさせられる可能性はあるが、これ程間があるのは気になる。
「実に簡単な話よ。商品がないから商売が出来ないの」
「・・・つまり、奴隷にする人間が足りていないのか」
「せやな。お前らと騎士共の働きのせいで上手く奴隷を見つけられてないらしいで。実際の所はよー知らんけども」
 キョウヤ達の働きは基本奴隷売買が行われてからしか動けない為奴隷にさせられそうな人々にまでは手が回っていなかったが、どうやら向こうは相当警戒してくれている様だ。
「それは想像以上に良い傾向だ。ならこの期間に更に腕を磨いていかないとな」
「あら、それで良いのかしら?」
 キョウヤの言葉にウォカンナはクスリと笑いながらキョウヤを見る。実に含みのある言い方の言葉にキョウヤはその真意を問いただすかどうか悩む。何か情報を持っていそうだが、これ以上ウォカンナに貸しを作るのは避けたい。今更な気もするが。
「貸し借りの事ならそんなに気にしなくても構わないわよ。あたしが話したいから話すの」
「そうか。あまり信用できないが」
「悪魔やからな。信用せん方がええ」
 酷い言われようではあるがウォカンナもその反応を完全に受け入れている。今会話をしている三人は皆人間ではないのだ。彼らの話を一ミリも信用に値しない話だと考える人間は多いだろう。その様な扱いしかされていないからこういう時にショックを受けたりはしない。
「あたしの提案はこうよ。奴隷売買が行われるまでの時間で、奴隷狩りを捕えるの」
「奴隷狩り?」
「そのまんまの意味やな。人攫いや人攫い」
 奴隷売買に必要なのは奴隷を買う人間、奴隷を売る人間。そして奴隷を捕まえてくる人間の三種類だ。今までは売り手と買い手にしか手を出せていなかったが、その奴隷狩りとやらを捕える事が出来れば奴隷売買事態が行われなくなる。まさに理想とする形だ。
「その人物の場所に心当たりが?」
「ええ。とはいっても奴隷狩りは一人じゃ無い。あたしが今から伝えるのはその中でも断トツで奴隷を捕まえた数が多い人物の情報よ」
「それでもありがたい。ならばそいつを捕らえに行こう」
「あら?あたしの言葉を簡単に信じちゃっていいのかしら?」
「・・・今更そんな事を言うのか」
 散々自分を信用させる様な事を言っていたというのに今になって妙に疑わしい事を言ってくる。弄ばれている様な気がして若干疑ってしまうが、ここで嘘を伝えるメリットもないだろう。
「話し合いが終わったんなら寝よや。ワシもう眠いわ」
 大きなあくびをしたウィルヴィに呆れ半分に頷き敷かれた布団に入ろうとした、その時。
「「「っ!」」」
 何者かによる殺意の塊を感じ取った。
「ブラッディストライク!!」
「吹き荒れろや!!」
「守りなさい」
 その殺意の塊に即座に三人は対処する。血の一撃と嵐の攻撃に殺意の塊が激突し、その破片が飛び散る。しかし飛び散った破片はウォカンナの水の壁に防がれる。殺意の塊の正体、それは。
「岩、か?」
 温泉宿事木っ端微塵にしようとする真っ黒な岩だった。
「信じていたかった。信じていたのに、どうして、ボクを裏切ったんだ。ウィルヴィ、ウォカンナ」
 こんな穏やかな夜に。そんな言葉を口にしながら、真っ黒な髪に真っ黒なマントを羽織った全身黒ずくめの男は現れた。
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