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三章 悪魔戦線
二十九話 悪魔戦線
しおりを挟む「信じていたのに。どうしてボクを裏切ったの?どうして。ファングアス様を、裏切ったの?」
突然現れた全身黒ずくめの男にキョウヤは警戒を露わにする。警戒するなと言う方が無理な話だ。
「何や、ワシは眠いんや。その話明日じゃダメなんか、ローグ」
「ローグ、その名前は」
ウィルヴィから聞いた事がある。先程キョウヤが目を通した手帳の持ち主。そしてその持ち主は。
「土の、四代悪魔!!?」
「君は?あぁ、最近噂の悪魔狩りか。そうだよね。ウィルヴィとウォカンナが裏切ったのは君のせいだものね」
光のない瞳でローグと呼ばれた土の四代悪魔はキョウヤに向けて攻撃を開始しようと腕を前に向ける。が、
「待って。何か勘違いしていないかしら?」
その攻撃はウォカンナの言葉によって止められた。
「勘違い?」
「ええ、まずはあたし達の話を聞いてくれない?」
ウォカンナの語りかけにローグは攻撃を止め、無言で続きを促す。仲間だった悪魔の言葉を信じたいのか。それとも事態を理解してからでも遅くないと判断したのか。どちらかは分からないが、少なくともローグはウィルヴィの様に感情型の悪魔でない事だけは理解できた。
「あたしは彼と休戦しただけ。別にファングアスを裏切った訳ではないわ」
「どうして休戦なんてしたの?君は生きているじゃない。なら、命が尽きるまでファングアス様の敵を殺すべきだよね」
「・・・やっぱり、そう言うわよね」
ウォカンナが苦笑いを浮かべて両手をお手上げと言わんばかりにあげる。話し合いを申し出た癖に手札が少なすぎる。
「ウィルヴィ、ファングアスというのは?」
「何となく分かるやろ?火の四代悪魔や。一応ワシらのリーダーみたいなもんやな。まあ別にワシはファングアスに従った事はあらへんし、ウォカンナも結構命令無視して好き放題やっとったから、上司とかでは無いんやけど」
初めて火の四代悪魔の情報を聞いたが、まさか悪魔達にリーダーがいるとは思わなかった。ならば奴隷売買などはそのファングアスの指示によって行われているのだろうか。そして、目の前にいるローグは恐らくこのファングアスに絶対的な忠誠を誓っているのだろう。
「纏めるよ?つまり、君達はファングアス様を裏切ったんだね?」
「別に裏切ってはいないわよ。最初から仲間じゃなかったんだもの」
「同族ってだけやもんな。他にやりたい事も無かったで一緒におっただけやし」
「それは!ボクに対する裏切りじゃないか!ボクは!君達の事を仲間だと思っていたのに!!」
ウィルヴィとウォカンナの言葉にローグは叫んだ。この叫びこそが、会戦の合図。次の瞬間には真っ黒な岩と激しい嵐がぶつかりあった。
「ぐっ!メルティ!」
そのぶつかり合いによって生じた突風により夢の世界に旅立っているメルティが吹き飛ばされる。そんなメルティをキョウヤは吸血鬼の羽を広げて何とかキャッチした。というかよくこの状況で眠り続けられるものだ。
「メルティ!起きろ!」
「むみゃ、おはにょうごちゃいま、ふにゃっ!!?私!?キョウヤ様にお姫様抱っこされてる!?なんて素敵な夢ぇ」
「寝ようとするな!緊急事態だ起きろ!」
一度目を覚まし、キョウヤの腕の中にいる事を認識したメルティは再び眠りへと落ちようと幸せそうに瞳を閉じたがここで寝させる訳にはいかない。全力でメルティを揺らして目を覚まさせる。
「襲撃だ!相手は土の四代悪魔!血の量は回復し切っていないが、援護を頼む!」
「四代悪魔ぁ!?そんな!私も万全な状況じゃないんですが!!?」
二人ともウォカンナとの戦闘で少し前まで満身創痍だった。食事と温泉により少しは回復したがまるで万全の状態ではない。祈り事態は魔力などとは関係ないが、やはり肉体疲労は祈りの効力と比例するのだろう。
「どこ見てんだおらぁ!!!」
メルティとの情報共有に意識を向けすぎた。気づくとキョウヤとメルティに向けて真っ黒な岩を拳の様に形づくり二人に迫る黒ずくめの男がいた。対応が遅れる。
「流れなさい」
が、岩の拳が二人を捉える事は無かった。キョウヤとメルティは突然現れた水に押し流されて拳を回避出来たのだ。
「ウォカンナさん!?私達を手伝ってくれるのですか!?」
「手助けするつもりは無かったんだけどね。彼ら、このままじゃあたしもウィルヴィも殺すつもりだし」
ウォカンナの言葉にキョウヤは違和感を覚えた。皆殺しにするつもり、という見解に異論はない。しかし、引っかかる言葉があった。
「彼ら?」
「ええ、土の四代悪魔はひとりじゃないの」
ウォカンナにそう言われてキョウヤが先程の黒ずくめの男を見た。確かに、ローグに比べて体格が随分と鍛えられている。ローグは小柄な少年という印象を受けたが、今対峙している男は随分と筋肉質な青年の見た目をしていた。
「土の四代悪魔は、二人いるのか!?」
「あん?何だ知らなかったのか。そうだぜ!!オレはグーロ!ローグの兄にして、弟だ!!!」
「どう言う事ですか!?」
グーロと名乗った男にメルティが混乱して叫ぶ。兄にして弟。どっちなのか分からないがそんな事は重要ではない。問題なのは四代悪魔が二人いる事。
「うげぇぇ!!」
強く唇を噛み、どう二人の四代悪魔に対処するかを考えていると情けない声をあげてウィルヴィが吹き飛んできた。そしてそのウィルヴィを追いかけてローグも目の前に姿を現す。
「よぉローグ。こいつら、皆殺しで良いんだよな?」
「構わないよグーロ。あいつら、皆殺しにしてやろう」
今、二人の四代悪魔が並んでキョウヤ達の目の前に立つ。対するこちらは四人。数では有利だがキョウヤとメルティは万全ではなくウォカンナもキョウヤとの戦いで疲弊はあるだろう。つまり仲間で万全なのはウィルヴィのみ。しかしその頼みの綱は先程ローグに吹き飛ばされていた。
「おい、なんやその視線?ワシがローグより弱いって!!?んな訳ないやろ!!!?ワシがこの世界の頂点や!!!」
「キョウヤ様に負けた癖に」
「ええ度胸や表出ろや!!!」
意味深な視線を送ってしまったキョウヤにも罪はあるがこんな所で喧嘩しないで欲しい。ここでもし仲間割れでも起こればキョウヤ達の旅はここで終わる。
「はっ!そのガキの言葉にゃあオレも同感だな!この四代悪魔の面汚しがよ!」
「何やと?」
グーロの安い挑発に血管を剥き出しにして怒り出すウィルヴィが乗った。
「おいメルティ!!ワシを援護しろや!!!あいつぶっ殺す!!!」
「上等だザコ!!!サポートなんぞあったってテメェのザコさは変わらねぇよ!!!」
大声で怒鳴り合ったウィルヴィとグーロが同時に地面を強く蹴り付けお互いに殴り合った。二人の拳はウィルヴィの方が早かった様でウィルヴィの拳がグーロを殴り飛ばす。
「タコ殴りやぁぁ!!」
風の拳に殴りつけられたグーロを追いかけてウィルヴィがその場から去っていく。そんな状況をメルティがアワアワしながらキョロキョロと周りを見る。
「行ってあげなさい。こういうとまた彼は怒るでしょうけれど、ウィルヴィはグーロに一人では勝てないわ」
「いえ、普通に私はキョウヤ様のお側に居たいのですが」
ウィルヴィのサポートに行っても良いのか迷っているのかと思えば純粋に断る理由を探していた様だ。だが残念ながら逃げ道はない。
「メルティ、ウィルヴィを頼む。メルティも、絶対に死ぬなよ」
「はい!!!必ず!!!」
キョウヤにそう言われた事にメルティは喜びながらウィルヴィを追いかける。そんなメルティをローグは黙って見逃した。
「簡単に行かせてくれるんだな」
「当然だよ。あの子が行った所でウィルヴィは死ぬし、あの子もその後死ぬ。わざわざボクが殺さなくてもグーロが殺すからね」
ローグはグーロがウィルヴィとメルティに勝つと信じて疑わない。否。それが確定事項であると完全に思い込んでいるのだ。そんな考えでは、キョウヤ達には勝てない。
「ウォカンナ、あなたに背中を預けるのは正直恐ろしい」
「あら、この後に及んでまだそんな事を言っているの?」
ウォカンナは接近戦闘を行うタイプというより後方からの戦いの方が得意だろう。そうすると必然的にキョウヤの背中をウォカンナに晒す事になる。キョウヤは後ろに目などないから背中から攻撃されたら対応が遅れる。その背中をウォカンナに預けるには信頼関係が無さすぎる。
「だが、頼りにはしている。だから、力を貸してくれ」
「・・・ウフフフフ。あなた、人を垂らし込むのが上手いのね。本当にあなたの事が欲しくなってしまいそう」
何度か見た不敵な笑みや、何か含みのあるような妖艶な笑みではなく普通の女性の様な笑みを見せて楽しげに笑って見せる。その笑顔を見てキョウヤも少し頬を緩める。
「ねぇ、何微笑みあってる訳?あぁ、今から死ぬから最後の思い出ってやつ?ボクは優しいから、死ぬ前の思い出くらいあげるよ。存分に微笑み合いなよ」
「それは優しい事だが、そんなつもりは一切ない。始めよう」
「そっか、分かった。それにしても、四代悪魔が三人も揃って殺し合うなんて、初めての事だよね」
ローグは表情を動かさずに、しかし少しだけ楽しそうに笑う。
「始めよう、悪魔戦線を」
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