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三章 悪魔戦線
三十話 終わりへの祈り
しおりを挟む「散れやぁぁ!!!」
ウィルヴィの風に吹き飛ばされたグーロが温泉旅行の壁を突き抜けて外へと放り出される。そして地面に着地したタイミングに暴風の刃をグーロに向けて放った。
「はっ!その程度かよ!!」
ウィルヴィの暴風の刃がグーロの漆黒の岩と衝突する。その衝撃により周囲の街が崩壊していく。それだけで四代悪魔の強さの証明となるだろう。
「はっ!いい風じゃねえか。会わねえ間にお前、強くなったか?」
「当たり前じゃボケ。お前の力は変わらんな。そんなんやからワシに負けるんやで?成長がないやっちゃなぁ」
ウィルヴィが煽る様に変顔をしながらグーロを挑発するとグーロが血管を浮き上がらせて怒る。
「成長なんぞいらねえよ。オレの力はお前よりずっと強ぇぇ!てめぇがいくら成長しようが!オレには届かねえんだよぉ!!」
「そういう慢心がザコっちゅうとるんじゃ!!地獄で後悔せえや!!」
ウィルヴィとグーロがお互いの属性を腕に纏わせて拳を振るう。ウィルヴィの暴風の左腕とグーロの岩石の右腕がぶつかり合い、またしても衝撃により周囲の景色が変わっていく。
「ほれほれほれほれほれほれほれほれ!!」
「おらおらおらおらおらおらおらおら!!」
二匹の悪魔の蓮撃は続く。ウィルヴィの左拳がグーロに止められても、まだ右拳がある。しかし右拳を攻撃に使っていてはグーロの左拳の一撃を凌ぎきれない。故に右腕はガードに使う。グーロにとっても同じ事だ。攻め続ける姿勢を崩したりはしないが、やはり防御も必要となる。
「ちっ!相変わらずの馬鹿力やなぁ!!」
「はっ!てめえの持ち味は速度だろ!?もっと速い一撃をぶち込んでこいよ!?それとも、出来ねえか?」
「うっさいわボケ!!」
風と岩の攻防は止まらない。どちらかが手を緩めるか、それとも隙を付くか。相手の腕を破壊するか。相手の足を切り落とすか。それらの変化が生じない限り、この攻防は永遠に続くだろう。その変化は、生じた。
「かっ!」
グーロの拳に込める魔力を高め、棘の付いた漆黒の岩がウィルヴィにぶつかった。その岩が風を貫き、ウィルヴィの腕を破壊した。粉々になった訳ではないが、間違いなく骨が砕けた。こんな状況では拳を振るう事は出来ても、威力が相当落ちる。
「所詮ザコはザコって事だよ!!」
「ごはぁぁ!」
その圧倒的な隙を見逃す程グーロは優しくない。ウィルヴィの拳を破壊した一撃を今度は拳ではなくウィルヴィの顔面にクリーンヒットさせた。
「スリ潰れな!!ウィルヴィ!!!」
拳の威力で吹き飛び、地面に倒れ込んだウィルヴィにグーロが必殺の一撃を放つ。グーロの纒う岩は隕石の如く勢いでウィルヴィが倒れ込んでいる場所を襲った。凄まじい轟音。その後に作られたのは、巨大なクレーターだった。
「あん?肉片とか骨くらいは残ると思ってたが、欠片もねえな」
「はい、ウィルヴィさんは潰れてませんので」
「ほう?面白ぇ芸当が出来んだなガキ」
グーロが楽しそうに声のした方向、グーロの背後を見た。そこには負傷したウィルヴィと、いつの間にかその場にいたメルティがいた。
「ちっ、来るのが遅いねん」
「仕方ないじゃないですか。衝撃が強すぎて中々近づけなかったんですよ」
メルティに毒を吐くウィルヴィだが感謝の一言もないとは。流石のメルティも少し不服だ。
「悪いなグーロ。アシストありでもかまへんか?」
「構わねえよ?どうせそのガキがいた所で結果は変わらねえし。それはお前一人じゃオレに勝てねえ事の証明だ」
「ちっ、鬱陶しい返しやなぁ」
グーロの言う事は半分正しい。確かにメルティの力を借りて戦えば、それはウィルヴィがグーロに勝った事とは言えないかも知れない。
「いえ、勝ちですよ」
「あん?」
悪魔同士の会話にメルティが口を出してきた事が不快なのか少し苛立ちげにグーロがメルティを睨む。その姿はとても恐ろしい。少し前のメルティなら怯えて続く言葉を紡げなかっただろう。しかし、今は違う。
「二人で力を合わせて勝ったとしても勝ちは勝ちです。一人で勝てない相手にも、二人なら勝てます。それは恥じゃありません。勝てば官軍負ければ賊軍と、どこかの国ではそう言う言葉があるそうですよ?」
一人で勝つことに意味などない。この殺し合いは避けられないが、その殺し合いを一人で乗り越える理由などどこにもない。大切なのは勝つ事。死なない事。この先の人生を続けていく事だ。その為には二体一をしようが、卑怯な手を使おうが、勝てば良いのだ。
「実は援軍も呼んでいるんですよ。もっと大人数があなたの敵になりますよ」
「はっ!確かに一理あんな!!勝てば官軍負ければ賊軍、か。面白え。気に入ったぞオンナ!オレのオンナにならねえか!?」
「ごめんなさい。私には心に決めた方がいるで」
グーロの告白を即答された事にグーロは何が面白いのか声を出して笑い始めた。
「ガハハハハハ!ますます気に入ったぜ!決めた!ローグには内緒でお前だけは持ち帰る!!」
「話聞いてました!?私はキョウヤ様の物なのであなたには着いて行きません!」
「ならそのオトコを殺せばいいって事だろ?それはローグがやるから心配すんな」
「は?」
まるで人の心が分からない発言にメルティは思わず人生で初めてと言えるレベルの低い声を出した。
「キョウヤ様を、殺す?」
メルティを連れ去る為にキョウヤを殺す?そんな事、許される筈がない。許されて良い筈がない。メルティはキョウヤのものだ。キョウヤはメルティの全てだ。そのメルティの全てを、奪うというのか?この、"たかが"四代悪魔程度の存在が。
「傲慢が過ぎますね」
メルティが血走った目で、両手を胸の前に合わせる。祈るように、しかし。とても神に祈りを捧げる様には見えない敵意しか感じられない目で。
「お?」
メルティがその姿勢を取った瞬間。グーロの姿は消えた。否、先程グーロ自信が放った漆黒の岩が突然グーロの真上に出現しグーロを潰したのだ。
「はっ!何だぁ急に!?だがこの程度屁でもねぇ」
グーロがそう言いい周囲を見渡すと、上空に同じ岩の欠片が降ってきているのが見えた。
「岩を操ってる、いや。転移させてんのか。さっきウィルヴィが消えたのも同じ原理か」
脳筋の様な見た目と戦い方をしている割に頭の回転は遅くはないらしい。メルティが転移の軌跡を発動させている事くらいは理解している。
「ウィルヴィさん!あいつ!ぶち殺して下さい!!!早くあいつぶち殺してキョウヤ様を助けに行きますよ!!」
「おっしゃ!任せときや!!」
転移で運んだ岩の自由落下と同時にウィルヴィが風を纏い駆け出す。
「はっ!てめえのその腕で何が出来るってんだ!!」
「ワシの腕が、何やってぇ!?」
グーロがウィルヴィの腕を見て息を呑む。ウィルヴィの腕は、負傷など無かったかのように見事に完治していた。
「ぶっ飛べや!!!」
その一瞬の隙が命取り。ウィルヴィの拳を回避する時間が足りない。
「こんなもん受けきりゃ良いだろうが!」
「甘いですよ」
グーロが両手に漆黒の岩を生み出して胸の前でクロスさせる。ウィルヴィの拳を完全に耐え切る姿勢だ。だが。
「っっっ!!?」
風に岩が切り裂かれる。グーロを守る強固な岩が風に抉られる。しかもその速度は一秒にも満たない。ウィルヴィの拳はグーロの守りを突破してグーロの体を吹き飛ばした。
「ごぁぁぁ!?」
「もいっちょ行くでぇぇぇ!」
一瞬の後、再度ウィルヴィの拳が叩きつけられる。先程の防御では足りない。ならば更に強固な岩で防御形態を取れば良い。問題ない。ウィルヴィの拳を振るう速度よりもグーロが漆黒の岩を作り出す時間のほうが速い。速い、筈なのに。
「がっ!ぁぁぁぁ!?」
グーロの守りが追いつく前にウィルヴィよ拳はグーロの顔面を捕らえた。ここで顔を狙ったのはウィルヴィなりの意思返し、顔を殴られたら顔を殴り返せという考えのものだ。しかしその一撃は確かにグーロにダメージを与えている。
「てめぇ、何だその変化はよぉ!」
「あん?そんなもん、援軍のお陰に決まっとるやろうが」
ウィルヴィの治癒能力では未だ一度破壊された腕は完治していないだろう。ウィルヴィの風だけではグーロの守りを砕くのに時間がかかっただろう。ウィルヴィの加速力ではグーロの顔面に改心の一撃を叩きつけられなかっただろう。全て、メルティの力だ。
「治癒の奇跡、支援の奇跡。そして転移の奇跡。今私の持てる全ての祈りを込めて、あなたを終わらせます」
「はっ!ははははははははは!!いい!!ますますお前が欲しくなったぞ!オンナァァァァ!!!ウィルヴィを殺して、テメェのオトコも殺して!!!お前を奪う!!!」
「なんか、やりずらいのぉ。誰もワシを見とらんやんけ」
直接グーロと殺し合いをするのはウィルヴィだと言うのに、グーロはウィルヴィの事をメルティを奪う為の前菜としか見ていない。そしてメルティはウィルヴィを仲間ではなくグーロを殺す為の武器としか見ていない様な。四代悪魔同時の殺し合いだと言うのにまるで闘気が湧いてこない。
「まあ、ええか。今だけは上手く使われたる!!あのいけ好かない同僚、ぶち殺したるわ!!」
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