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三章 悪魔戦線
三十一話 共にいるという事
しおりを挟む「散り散りにしたるわ!!」
「すり潰してやるよ!!」
ウィルヴィの風とグーロの岩が正面から激突し合う。威力は互角。否、ウィルヴィの方が優勢となっている。その理由は単純。ウィルヴィは一人ではないのだ。
「神よ、かの者に悪き者を祓う力を。支援の奇跡!!」
メルティの神の奇跡の力は絶大。ウィルヴィだけでは突破出来なかったグーロの岩を抉り攻撃をグーロに当てる事が出来る。しかし、グーロもそれで簡単に押し切れる程弱くなどない。
「はっ!オレの力は!まだまだこんなもんじゃねぇぇぇぞ!!」
抉られた岩から更に新しい岩を作り出して結合。斬られた岩の数分新しい岩を作り出していく。それだけではない。
「こういうのはローグの得意技なんだがな!!」
作り出した岩の塊をウィルヴィに向けて放つ。
「ちっ!こんな攻撃おんなじや!切り刻んだる!」
「いえ、その必要はありません」
メルティの言葉が終わるとウィルヴィの周囲に光の枠が作り出された。その枠に岩が触れるとその放たれた岩はグーロの方へと飛んできていた。
「なっ!!」
自分の技が自分に返ってきたグーロは目を開いて驚く。別に自分の岩の対処は容易い。作り出した岩を消し去れば良いのだ。しかし、それをしている時間にも隙は生まれる。
「どうしたどうした!?岩の再生が遅いで!?」
他ごとをしている間にウィルヴィの風がグーロの左腹部を切り裂く。心臓には届かなかった為致命症にはならないが、間違いなくダメージには繋がった。
「クソが。楽しくなってきたじゃねえか!!」
グーロが大きな口を開けてゲラゲラと笑う。そして、その体が内部から段々と膨らみ、大きくなって行く。
「ひぃ!何ですか!?」
「ほぉ、決着つけようってか?」
人の体をしていたグーロは膨らみ、巨大化。その形は四メートル程の漆黒の狼と変わった。
「お前達を強者と認める。だから、全力ですり潰してやるよぉぉぉぉ!!!」
叫びと共に大きな遠吠えを一つ。その遠吠えだけでメルティは耳の鼓膜が破れそうになるのを感じた。
「ウィルヴィさん!?この悪魔って狼だったんですか!?」
「元の姿なんてもんは悪魔にはないで?まあこいつらは自分の力をそのまま巨大化に使ったんや。狂獣化、っちゅうこいつらの得意技や」
狂獣化。自身の力を自身の肉体に使い、その体を獣へと変化させる悪魔の技の一つ。しかし使い手によってはそのまま肉体が破裂してしまったり、溢れる力に溺れて自我を完全に失ってしまったりと代償も大きい為自ら狂獣化を行う悪魔は稀である。しかし狂獣化の力は絶大だ。
「じゃあな!ウィルヴィ!!」
「っ!!」
狂獣化の最中にも行われていた風と岩のぶつかり合いの状況に変化が訪れた。これまでは風の勢いの方が強かったが、グーロが狂獣化をした事により岩の威力が上がり、風が押し負ける。しかしウィルヴィ自身は上手く身を捩り岩の一撃は回避。腕を掠った程度ですんだ。
「流石の速さだな。いや、オレが遅くなってんな。こうなっちまうから狂獣化も一長一短だよな」
「何が一長一短じゃボケ。狂獣化の狂って字がどう言う意味か知っとるか?」
狂獣化とは本来全てを力に任せて狂った獣に変化する技。だというのにパワーだけは急激にアップしているが、グーロが自分の意思を放棄した様にはまるで見えない。速度が遅くなったとは言ってもそれは避けるのが容易い程の退化でもない。
「まあかまへんわ。どちらにせよお前をぶっ殺す事に変わりはないんやからな!」
「はっ!どの口がほざきやがる!」
ウィルヴィの風を纏った拳とグーロの岩で作られた爪がぶつかり合う。
「ぐっ!こっのやろ!」
岩の爪での攻撃は予想よりも重い。ウィルヴィが全力を出しても爪の破壊が出来ない。
「ウィルヴィよぉ!狼の爪ってのは一本だけじゃねえんだぜ!!?」
「やっべ!」
当たり前の事だが、これまでグーロと互角に殴り合っていたウィルヴィがグーロと互角に殴り合えていたのは一本の腕で一本の腕の相手が出来ていたからだ。しかし今回は違う。片腕の爪の一振りに対してウィルヴィは体全体で対処をしてしまっている。ならば当然、次はグーロのもう片方の爪がウィルヴィの肉を抉りに来るだろう。
「転移の奇跡!」
一人では対処が間に合わなかったウィルヴィの体はメルティの助けによりメルティの横へ移動させられる。これにより一度距離をとる事には成功した。
「なっ!」
成功したが、それだけだ。ウィルヴィとメルティが立っている地面の上には既にグーロの岩で作られた尻尾が振り回されていたのだから。
「ごはぁ!」
「きゃぁぁ!」
いきなりの事でメルティの転移も間に合わない。咄嗟にメルティと自分の体を風でコーティングして防御姿勢は取れたが、岩の尻尾はその風を押し退けて二人を弾き飛ばした。
「がはっ!ごほっ!生きとるか!?」
「な、何とか」
ウィルヴィの問いかけにメルティは声を振り絞って答える。キョウヤが買ってくれた良い防具がメルティの命を繋いでくれた。しかし、その防具はたったの一撃でボロボロ。次はきっと砕けてしまうだろう。そうなればメルティの命綱が千切れると同義だ。
「クソが」
ウィルヴィは立ち上がり即座にメルティから離れ、狼と化したグーロへ迫る。流石は四代悪魔だ。狂獣化したグーロの一撃程度で死にはしないし、戦闘不能にもならない。しかし。
「吹き飛べやぁぁぁ!!」
ウィルヴィの渾身の一撃は巨大な狼を少し後ずらりさせる程度でしかなかった。
「痛ってぇな。お返しだ!!」
「っっっ!」
狼の腕がウィルヴィに直撃し、ウィルヴィは声にならない声をあげながら吹き飛ぶ。地面に二度ぶつかり、砂煙をあげながら地面に擦り付けられる。その熱によってウィルヴィの皮膚が裂け、血が噴き出て、肉が視認出来た。
「ぷっ!きったないのぉ」
それでもウィルヴィはやる気だった。その目には恐怖など微塵もない。痛みや身体の負傷具合よりも先に口の中に入った砂を吐き出して背後を見る。背後、即ちグーロの尻尾により負傷したメルティだ。
「さて、あいつの傷が癒えるまでの時間稼ぎ、頑張らなアカンな」
ウィルヴィが真っ先にグーロの元へ迫った理由はそこだ。ただでさえメルティの奇跡のお陰でウィルヴィは今グーロと戦えていた。しかしここでメルティを失い、奇跡を失えば今のウィルヴィがグーロに勝てる確率は一桁ないだろう。故にここでウィルヴィがやるべき事はメルティの安全確保。メルティの傷の具合などを確認もせずに飛び出して来た為、あの後で死んでいたり、自身の治癒は出来なかったり、まず奇跡を使う体力が無いなど。様々な要因でメルティが戦線離脱したら既に詰みだが、負ける事を考えた作戦などウィルヴィはたてない。メルティは生きている。自身の治療も出来る。ウィルヴィが時間を稼げれば数秒後、数十秒後、数分後には今は切れてしまっている神の奇跡を再びウィルヴィにかける為に前線に戻ってくるだろう。そうでなければウィルヴィは終わりだ。
「と、思ってんだろ?」
グーロが不敵に笑った。その笑みの理由にウィルヴィは一瞬で後ろへ振り返り、全速力で走った。
「マジかあいつ!!」
走る、走る、走る、走る。理由は簡単。グーロからの遠距離攻撃からメルティを助ける為だ。グーロの戦闘スタイルは基本接近戦だ。岩を纏い殴る。これがグーロの戦い方。勿論岩を投げれば遠距離攻撃となるが、それは好まないしコントロールが下手なので命中率が低い。しかし、今なら問題ないだろう。何故なら今グーロが作り出す岩ならば例えある程度軌道が逸れてもそれを補えるだけの大きさがある。満身創痍の少女一人など容易くすり潰せるだろう。
「させるかいな!」
風を纏い、自身が一陣の風となって駆ける。頭は意外にも冷静で、メルティを失ったらどう死んで見せるかなどを考えはいたが、兎に角必死で、全力で、死に物狂いで走る。
「ははっ、なんか。変な感じやなぁ」
ウィルヴィはこれまで一人で生きて来た。食事、殺し、睡眠、戦闘、仕事、虐殺。全て一人でこなしていたし、それでいいと思っていた。仲間はいる。同族もいる。同僚もいるし、友人(向こうがそう呼んでいただけでウィルヴィは今まで考えたこともなかった)相手もいた。しかし、一人でいいと思っていた。実際に一人で良かった。しかし、人生とは何があるか分からないものだ。一人で生きていけると思っていたウィルヴィはとある少年に夢を見て、とある少女に助言をし、今。自分が生きる為に、勝つ為にただの人間を救おうとしているのだ。数ヶ月前の自分にそう言った所できっとウィルヴィという悪魔はその言葉を信じなかっただろう。しかし、それでいい。今は、この誰かと。共にいるという事が、悪くないと思える。
だからこそ。
「・・・マジか」
全速力の自分の上を巨大な岩が通り過ぎ、頼みの綱である。少女がいた場所へ落下した時、ウィルヴィの頭は真っ白になった。
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