いろはにほへと ちりになれ!

藤丸セブン

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六十九限目 チョコで掴もうバレンタイン

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 バレンタインとは、3世紀のローマ帝国で皇帝の禁令に背き、若者の秘密結婚式を行って処刑された司祭バレンチヌス(聖バレンタイン)の命日、2月14日に由来する「愛の守護聖人」を偲ぶ日である。
「いいえ!!バレンタインとは!!男女の美しき愛!!!真実のラブ!!!この世全てのロマンチックが詰まった愛の宝庫なのです!!!」
「うわー。今回のろっちゃんはめんどくせぇ方のろっちゃんだ。関わらんとこ」
 
 <六十九限目 チョコで掴もうバレンタイン>
 
「はい!というわけで戸部さんに渡すチョコを作りましょうへーさん!!!」
「待て。どういう訳でこうなったんだ?一から説明してくれないか?」
 時は放課後。しかしただの放課後ではない。翌日がバレンタインの放課後である。そんな一日に舳螺は六花の家の台所に立っていた。
「理由は簡単です!へーさんが戸部さんに手作りチョコをあげた事がないと聞いたので作りましょう!!」
 バレンタイン前日に乙女がやる事など一つ。チョコ作りである。しかし、舳螺が透に手作りチョコを渡した事がないというのは六花にとっては意外の一言だった。バレンタインデーの手作りチョコなど愛しか感じないであろうに。
「うむ。まあ色々理由はあるのだが、一番はカカ様でな」
「あぁ。何となく分かった気がします」
 以前風邪を引いた時に日華の母親である桃と舳螺の母親の愛に看病して貰ったが、後で聞いた話、愛の作ったうどんはとてもこの世の物とは思えない物体だったらしい。だがそれでいて愛は料理が好きなのだそうだ。今は蛇塚組の人間が毎食舳螺達の食事を作っているらしいが、本音を言うなら愛が自分で作りたいらしい。そんな愛が娘のバレンタインのチョコ作りを見たらどうなるか。当然手伝いに来るだろう。そして、チョコは物体Xとなる。
「それに、純粋に恥ずかしい」
「えぇー?堂々と人前でダーリンなんて言っちゃって今更それですかぁぁ?」
「ニヤニヤしないでくれ。全く。色恋が絡むと六花はいろはそっくりだな」
「それは嬉しくないです」
 購入してきたチョコを取り出しながら二人の会話は続く。
「でも良いですねぇ。想い合う男女。想いを告げる甘いチョコ。わたくしもいつか素敵な殿方に手作りチョコを振る舞いたいです」
「ふふ、そうなったら我も手伝おう。だが、六花に相応しい相手かどうかは確認させて貰わなければな」
「ふふふ。それを言ってしまっては戸部さんはへーさんに釣り合いませんよ?」
「そうか、確かに我ではダーリンに釣り合わないか」
 六花が言いたいのは真逆なのだが、これ以上この話の深掘りはやめよう。恋している男性の嫌な話など誰も聞きたくはないだろうから。
「そういえば今日はいーさん達が何も言わずにわたくし達を帰してくれましたね。いつもは駄々を捏ねて「遊ぶんだ!遊ぶんだぁぁぁ!!」と泣き叫ぶのに」
「いろはも察していたのだろうさ。今日の六花は梃子でも動かないだろうと」
 恋に恋する六花ちゃんはこの手の話になるとブレーキが壊れる。普段からブレーキが壊れているいろはですら怖気付く程にブレーキが壊れるのだ。だからいろはと波瑠はそういうタイミングでは六花に従うしちょっかいもかけない。今頃は自分達用のチョコでも買って他の仲間達と食べているかも知れない。
「戸部さんは甘いの好きですか?」
「嫌いではないが、それ程好きでもないと思う」
「なるほど。ではビターチョコと二種類用意するというのはどうでしょう!?」
「いい考えだな」
 六花と舳螺のチョコ作りは実に順調に進んでいく。特別難易度の高いスイーツを作ろうとしていないし、二人は料理は苦手ではない。つまり、そう。オチがないのだ。このままいけば何の問題もなく美味しいチョコが完成して透に渡される。そして喜ばれて終わりだ。ついでに補習部メンバーにもチョコが送られて喜ばれるだけ。それでは、あまりにオチとして弱い。その為。
「舳螺ちゃーん!!!いるのは分かっているのよー!!!」
 六谷家のチャイムが鳴ると同時に恐ろしい声が聞こえた。
「カカ様!?何故ここに!?」
「GPSよー!!」
 どうやら舳螺のスマホにはGPSがついており愛に位置がバレバレだったらしい。スマホの電源を切っておけば良かったと今になって後悔するが、もう遅い。
「どうしましょう!?」
「まあここまで来たなら致し方ない。共にチョコを作るとしよう」
「しかしそれでは戸部さんに渡すチョコがダークマターに!!?」
 茶色のチョコが真っ黒になる恐怖を六花は恐れるが、ここで扉を開けないわけにもいかないだろう。近所迷惑だから。
「まあ我が作るものに手を出したりはしないだろう。キッチンの後片付けは責任を持つ故、どうか頼まれてくれ」
「うう、分かりました」
 舳螺とて愛が料理をしたいなら、お菓子作りをしたいと願うならそうすれば良いと思う気持ちがある。それが明確に害になるからやらせないだけで。だが今日は特別な日の前日だ。一年に一度くらいは愛の望む事をさせてあげたかった。
「お待たせしました、カカ様。黙って来てすみません」
「本当よ!楽しい事は共有して頂戴ね!だから妾も共有したの!」
「離して下さい。私はあなたの料理には二度と関わりたくないんです」
 扉を開けて愛を迎え入れるとその手には運ばれた形跡のある日華の母親、桃の姿があった。この人も大概巻き込まれ気質だなと思いながら六花は苦笑い。そして謎の仲間意識も芽生えた。
「さあ!チョコを作るのよ!!!バレンタインはチョコでハートを掴むものだもの!!」
「はぁ、何で私まで」
「まあまあいいではないですか。きっとにーさんのお父さん喜びますよ?」
「まあ、そうだろうけど」
 六花がそう言うと頬を朱色に染めて桃が六花から視線を逸らす。そう!これだよこれ!これこそがラブコメの醍醐味!ラブコメの波動を感じる!乙女の恥じらいと希望の詰まったこの表情こそが堪らなくエモい!!!」
「六花、途中から声に出ていたぞ」
「おや、それは失礼しました」
 桃に釣られて(釣られてはいないが)頬を赤くする六花。考えが口に出てしまうとはまだまだだ。もっと精進しなくては。というかラブコメするのが主人公達じゃなくて主人公の友達の母親って何なのさ。
「甘酢っぽいのよー!!ダーリンったら喜んでくれるかしらー!!」
「トト様がカカ様からの贈り物に喜ばない筈がないだろう。勿論ダーリンも我からの贈り物に喜ばない筈がない」
「あっちは凄いね。確信持ててるよ」
「桃さんも確信持てると思いますけどね。わたくしだけ渡す相手が同性。何だか負けた気がします」
 作者にくれてもいいんだよ!!?愛娘からのチョコとか喉から手が出るほど欲しいんだが!!?
「貴方はわたくしのお父さんじゃありませんよ」
 くそー。幾ら否定しようが六花の父親だけは絶対作中に出さないからな。俺が六花のお父さんなんだぞ。
「好きにしてください」
 そんなこんなでチョコ作りは続いていく。愛が自分のチョコ作りに集中している間に舳螺と六花は自身のチョコを完成させ、桃は何故か愛に絡まれる為上手くチョコ作りが完成しない。何故絡んでくるだけでチョコの形や味が変わるのか。これが分からない!
「うーん。何か隠し味とかを入れてみたいのよ」
「お~。イカはイカがー?」
「あら!良いアイデアね!!」
「どっから出てきたんですか!?今回は完全に戦犯になりにきましたねあなた!?今のは忘れて下さい!!チョコにイカなんて絶対合わな」
「そーれー!!!」
 突如現れた謎のイカ星人に唆されて愛のチョコレートが完成した。
「上手くできたのよー!」
 そのチョコは紫色だった。そのチョコはぬるぬるしていた。そのチョコからは発せられてはいけない匂いがしていた。そして何より、そのチョコは蠢いていた。
「うげっ!」
「こ、れは?」
「うむ。カカ様。流石の我もこれはフォロー出来ない」
 その物体Xに桃はまるで可愛くない声で顔を顰め、六花は自身の目を疑い、舳螺はそれから目を逸らす。そんなモノが誕生したのだ。そんな時だった。六谷家のインターホンが鳴ったのは。
「我が最愛の妻の手作りチョコレートが貰えると聞いて」
「りゅりゅりゅ竜斎さん!!!?」
 なんと、普段は表情の変化が少なく感情が分かりづらい竜斎が明らかに浮き足だった様子で六谷家を訪問したのだ。
「ダーリン!!良いところに!!はい!あーーーーーーん!」
「うむ。あーん」
 普段は絶対に見せないであろう油断しきった表情で愛に言われるがままに口を開ける。愛の手に握られているモノを見る事もなく。
「危険です!!我が家で死人が出ます!!」
「竜斎さんストーッッップ!!!」
 だが、遅い。竜斎は『ソレ』を口にした。そして深く噛み締めた後に。
「ごふっっっっ!!」
 勢いよく吐血した。
「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」」
 そして、倒れた竜斎は呟く。
「まるでこの世のモノとは思えない味わい。この世全ての料理人を集めたとしても、君の料理には敵わないだろう」
「きゃぁぁ!褒めすぎなのよー!!!おかわりどうぞ!!!」
「頂こう」
 竜斎は終始嬉しそうに愛から差し出される物体Xを食べ続けた。そして六花は愛情というものに少し恐怖を覚えた。恋は盲目、とは。こういう事なのだろうか。蛇塚愛はまさしくチョコで心臓(ハート)を破壊(掴んだ)のである。
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