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2話 少女は話したい
しおりを挟む「お、嫁さん?」
「そう!お嫁さん!」
「俺の?」
「うん!蓮くんの!」
突然の話に困惑しかないが、花梨の真っ直ぐな目を見ていると嘘をついていないことは分かる。しかし、しかしだ。
「もしかして、あの約束か?」
「うん!!」
適当に答えたが、不味い。約束というものは思い出した。幼い頃に公園でした約束。しかしその内容を明確に思い出せない。
「もしかして昔の話だからそんな約束無しとか言うつもり?」
助け舟が出た。これに乗るしかないと思った蓮は即座に首を縦に振る。
「男の子に二言はないんじゃないの?」
花梨は少しニヤつきながら蓮の表情を見ようと顔を動かす。それに合わせる様に表情を見せない様に蓮が動く。
「なんてね」
「え?」
「流石にそんな事本気で言わないよ。今すぐお嫁さんになるのはかなり無理があるしね」
花梨が笑ってそう言うと蓮は本気で気が抜けた。良かった。本当に。
「で・も」
「でも?」
「蓮くんのお嫁さんになりたいのは本当だよ」
花梨は楽しそうに蓮に笑顔を見せる。その笑顔はとても可愛さしいが、だからと言っていきなり結婚などの話は非常に重い。
「うるさいぞれーん。ご近所迷惑でしょう、が」
「あ、寧々さん!久しぶりー!」
家から寧々が扉を開いて顔を見せると花梨と目が合う。花梨は笑顔で久しぶりに会う寧々に手を振るが寧々は呆然としている。
「か、かっかかっ!」
「か?」
「カーリン!?!?!?!?」
寧々は蓮を押し出すと花梨の元へ走っていった。
「うっそ本物じゃん!?えー!?どうなってんの!?ドッキリ!?うわ、間近で見るとクソ可愛い!!顔ちっちゃ!!」
「えっと、あれ?もしかして寧々さん私のこと覚えてない?」
「えっ?えっ?アイドルが私の名前把握してるんですけど!?何で!?モニ◯リング!?」
慌てすぎてぐるぐるとその場で回っている寧々を蓮が押さえつける。
「こいつは俺が小学生の頃くらいまで隣に住んでた花梨だよ」
「えっ?えっ?えっ!?花梨ちゃんなの!?花梨ちゃんがカーリンなの!?うえ?ホント?えっ?」
「テンパりすぎだろ」
説明を受けた寧々はさらに動揺してもう日本語が使えなくなっている。語彙力が皆無だ。
「とりあえず家に入ろうか。こんな状況じゃご近所さんに変な噂される」
「それって私もお邪魔していいの?」
「昔はよく家に来てただろ?気にせず入れよ」
蓮とずっとよく分からない声をあげている寧々、そして嬉しいけれど少し恥ずかしがっている花梨が家の中へと入っていった。
「そういえばカーリンって何だ?」
「はぁ?もしかして蓮、カーリン知らないの?」
知らない。もしかしてそんなに有名になっているのか?
「どれどれ」
本人の前で調べるのもどうかと思ったが本人が緊張と照れによって少し話せなさそうなのでやむ終えずスマホで調べてみた。
「アイドルか。しかも百五十年に一人の逸材とか言われているのか」
「そうよ!カーリンは歌もダンスもドラマとかだってめちゃくちゃ上手くてもう最高なんだから!!この間なんて」
「まっ、待って寧々さん!本人の前でそんなにベタ褒めしないで!!なんか恥ずかしいっ!!」
花梨が手で顔を覆う。まさか花梨がここまで人気のアイドルだったなんて。普段テレビなどは見ないから全く知らなかった。
「そういえば花梨は東京で活動してたんだよな?こんな所にいて大丈夫なのか?」
「大丈夫!これからは地元から活動していく事にしたの!なんなら本来の目的は果たせたしね!」
「本来の目的?」
花梨の言葉に引っ掛かった寧々が花梨に質問する様にもう一度繰り返す。
「うん!蓮くんとの約束!それを果たしたから蓮くんのお嫁さん候補になれるの!」
「は?」
よく分からないが、子供の頃の約束により花梨はアイドルになったのか。しかしそんな約束を律儀に果たすとは誰も思わない。よって蓮は自分は悪くない、と自己保身の精神を持ち寧々の言葉を待つ。
「あんたカーリンと結婚する訳!?となると私はカーリンのお姉ちゃん!!!?え、えへへへへ。結婚しなさい!今すぐに!!」
「え、そうくる?」
予想外の大賛成だ。蓮は「適当に結婚の約束なんかして!このおバカ!」などと怒られることを予想していたので目を丸くする。
「というかもしかして姉ちゃんが好きなアイドルって花梨だったのか?」
「いや、最推しはカーリンじゃなくてマコト様だけど。カーリンも大好きよ!!私はアイドル箱推しなの!!!」
アイドル箱推しとは幅が広い。どうりでバイト代が一銭も残らないわけだ。
「まさか寧々さんに賛成されるとは思ってなかった。じゃあ高校卒業したらすぐ籍を入れようね!あ、そういえば寧々さん。あの計画は順調?」
「勿論!時がきたら蓮にも教えてあげるわ」
何の話かよく分からないが、今はそれどころではない。
「いやそんな上手くいく訳ないだろ。この話はしっかりと考えさせてもらう」
蓮の言葉に花梨は頬を膨らませるが直ぐに納得する。流石に現実味がないことは花梨も分かっているようだ。
「ん?待って。それってつまりアイドルが恋愛するわけよね。それって大ニュースじゃない!?」
「私としては蓮くんと結婚出来るならアイドルを辞めることも全然問題ないけど、やっぱり手続きとか色々してから籍を入れなきゃダメだよね」
「いや、問題はそこじゃないわ」
確かに問題はそこではない。問題は当然のように蓮と花梨が結婚すると言う話になっていることだ。
「カーリン、いや、花梨ちゃん。あなたはアイドルを辞めることをそんなに簡単に決めていいの?あなたにとってアイドルは蓮と結婚する為なら簡単に捨てられる程安いものなの?」
寧々の真剣な表情に花梨は少し驚く。
「確かに、アイドルのお仕事は楽しい。レッスンは厳しいけど、踊れるようになったら凄く嬉しいし、ファンのみんなに褒められると凄く幸せになれるし私の天職といえるお仕事だけど」
「花梨ちゃんは凄くアイドルであることを楽しんでいるわよね。アイドルは一度辞めたら復帰するのは難しいわ。だから、アイドルを続けるにしろ、アイドルを辞めるにしろ、花梨ちゃんの後悔のない道を進みなさいね」
「寧々さんっ!」
妙にキラキラしたオーラを醸し出しながら話す寧々に花梨は感動で目を湿らせる。
「大好き!お義姉ちゃん!!」
「カハっ!推しに抱きつかれたっ!!!我が生涯いっぺんの悔い無し!!」
たまらず寧々に抱きついた花梨を寧々は優しく受け止めながら花梨には衝撃がいかないように地面に盛大に倒れる。何をやっているんだこの人は。
「あ、あの。俺の意見は?」
「あ、そうだよね!蓮くんの意見も聞かなきゃ!」
鼻血を出して幸せそうに気絶した寧々をソファに寝かせて花梨は席に座る。
「さっきも言った通り、私は蓮くんのお嫁さんになりたい。でも、それは今すぐじゃなくて、いつかなれればいいと思ってる。蓮くんは私のことどう思ってる?」
狙ってやっているのか素でやっているのか上目遣いで花梨が蓮に問いかける。蓮の答えとしてはもう決まっている。
「花梨は可愛いと思う。けど、俺のお嫁さんなんかにはならない方がいい。きっと他にもっといい人がいるさ」
「私は蓮くんがいい。うううん。蓮くんじゃないと嫌なの。蓮くんは私がお嫁さんじゃ嫌?」
分かっていたつもりだったが、花梨の意思は相当固い。蓮の言葉だけでは諦めないと言う強い意思を感じる。だが、それは蓮も同じだ。
「悪いけど、俺は結婚するつもりはない。花梨だからダメなんじゃなくて、結婚するつもりがサラサラないんだよ」
「え?」
「俺は、女性が信用できない。女性の事を性的な目で見ることは出来ないし、友達として付き合っていくことも苦手なんだ。だから、結婚なんて絶対にしたくない」
花梨の意志が固いように、蓮の意思も少しの事で折れるほど脆くない。この考えだけは絶対に変わらない。
「そっか。分かった」
「分かってくれたか」
蓮が胸を撫で下ろしてそう言うと花梨はまたしても椅子から勢いよく立ち上がり指を突きつける。
「それなら!蓮くんが私と結婚したいって思うくらいに私に惚れさせて見せる!」
花梨はそう言い残して「お邪魔しました!」と大声で叫んで家から出て行った。
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