魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり

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25話 課外活動 その1

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「しまった……」
「え、えっと……」

 サラはもじもじと身体を震わせながら、智司から目線を逸らしている。場所はランシール学園のSランク教室だ。智司は少し固まった表情になっており、目の前のサラ・ガーランドは顔を赤らめている。

 周囲の生徒たちも何事かと彼らに目線を合わせていた。近くに居た、リリーとナイゼルも同様だ。

「なんだ、相沢? てめぇもしかして、サラ・ガーランドに惚れてるのか? ふはははは! これは傑作だな!」
「ま、待て……! ……そ、そういうわけでは……!」

 同じく近くに居た、デルトがからかい半分の顔をしながら、智司に対して言葉を発した。周囲の生徒たちは必死に弁解しようとしている智司に半笑いの表情を見せている。どうしてこのような状態になったのか……。原因は数分前、サラが教室に入ってきたところから始まった。


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「サラさん!」
「えっ? 智司くん?」

 ヨルムンガントの森の一件から数日。サラの姿が見えない為に、不安が募っていた智司であったが、彼女は特に怪我をしている様子はなく、教室に現れたのだ。

 周囲の者達からすれば、いつものサラの光景であったので、別段不思議はないのだが、事情を把握している智司は違っていた。

 彼女の前に現れると、告白でもするかのような勢いで話し始めたのだ。

「サラさん! 無事だったんですね?」
「えっ? 無事って……なにに対してでしょう?」

 智司はこの瞬間、不味い発言をしてしまったと思い至る。この数日間でも評議会のメンバーが死亡したという情報は流れていなかった。おそらくは公式では明らかになっていない事態と言えるだろう。それだけに、彼女への言葉が矛盾してしまうのだ。サラも怪訝な表情で智司を見ている。


「あ、いえ……南の森へ調査に行ったとは聞いていたので……」
「そうですか……」

 サラの表情は暗くなった。それだけで智司は理解した。レドンドが逃がした人物はサラに間違いないと。自らの住処を襲われかけた上での正当防衛のような撃退であったと自負はしている智司だが、サラの心情を察知すると、少し複雑な気持ちになっていた。

「あそこは突然変異の魔物も出るって聞いていたので。サラさんが無事で良かったです、本当に……」
「え? ええ、ありがとう……。で、でも智司くん……あの、その言葉は……」
「えっ?」

 智司は、なぜか顔を赤くして目を逸らしているサラを不思議に思っていた。この言葉が周囲への勘違いの元になったとは、少しの間、分からない智司であった……。



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 智司は困惑していた。一度話した言葉を否定するのは難しい。彼女を心から心配していたのは事実である為だ。

「ちょ、智司?」
「リリー? な、なに?」

 リリーの焦ったような声。めずらしい声色であった為に、智司は何事かと思い彼女の方向へ振り返った。

「え、えと……どういうつもりよ?」
「な、なにが?」

 智司はリリーの言葉を理解できなかった。思わず聞き返してしまう。

「だから……智司ってサラさんのこと好きなの?」
「あ、いや違う……そりゃ、好きか嫌いかで言えば好きだけどさ……」
「智司くん……そ、それは……? いえ、智司くんにそのように言ってもらえるのは嬉しいですが」

 恋愛経験のないサラはさらに顔を赤くした。特に嫌な表情をしていないことが、周囲をより面白くさせている。智司の言葉を勘違いしている節は多分にある態度ではあるが、智司もなんとなく泥沼に嵌っているような感覚になっていた。

「智司……そ、そうなんだ……」
「いや……あの、勘違いしてるような気がするんだけど……」

 暗い表情になっているリリーに智司は悪いことをしたのかと思い言葉をかけた。だが、彼女に智司の言葉はあまり伝わっていない。

「ほほう、これはこれは。三角関係の様相を呈しとるな」

 ナイゼルは一人、冷静に状況を分析し、事態を楽しんでいた。そう、智司とサラ、リリーの3人は下手をすると三角関係のような仲になりそうであったのだ。智司はまだ気づいていないが、ある意味では彼の求める充実した生活と言えるだろう。


 そんな時、教室内にトム教官が入ってくる。ホームルームなどを始めるわけではなく、いきなり智司たちを呼び出した。

「智司、ナイゼル。あとは……そうだな、リリーとサラも来てくれるか?」
「えっ、俺達ですか?」
「そうだよ、急いで教官室まで来てくれ」

 突然入ってきたトム教官からの呼び出し。特に心当たりはない彼らは、一体何事かと訝し気な表情にもなっていた。


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「課外授業?」

 智司達は教官室で聞かされた内容に、同時に声をあげた。ナイゼルやサラはそこまで驚いていないが、入ったばかりの智司とリリーは驚いている。

「ああ、将来的に就く確率の高い職業がどういったものか……それを含めて確認に行ってもらうことだ。課外授業ってよりは、見学会って言った方が正しいかもな」

 トム教官は明るく言ってのけた。智司達4人で泊まり込みで職業見学会に行って来いということである。さらに、その場所は……。

「場所はアゾットタウンだ。冒険者組合もその街には存在しているし、丁度いいだろ」

 アゾットタウン……智司としては聞き覚えのない単語ではあるが、ナイゼルは頭を抱えていた。

「よりにもよって、ソウルタワーの麓の街ですやん。どういう意図があるんですの? 普通はサーバン共和国の首都である、モンバールに行くんが普通でしょ」

 ナイゼルも怪訝な表情を見せていた。課外活動として、見学会は定期的に行われているが、ソウルタワー攻略の拠点である、アゾットタウンに行くことはめずらしいことであった。

「お前ら4人なら、良い刺激になるんじゃないかと思ってな。あそこは冒険者でもトップクラスの連中が集う街だ。お前らの実力的にも見合う場所だろ?」

 トムの提案は智司達、4人の実力を認めてのものだ。そこそこの強さの者には決して提案しない事柄。如何に彼が、4人を認めているかが分かる内容であった。

「まあ、中途半端な冒険者見てもしょうがないもんね。見学するなら、有名な冒険者の方が参考になるわ」

 リリーはトムに感謝しつつ、自信満々に言ってのけた。彼女の自信がよく表れている発言だ、リリーは並みの冒険者に実力で劣るなど微塵も思ってはいない。

「ああ、それで俺の師匠が在籍している「ランカークス」って冒険者チームを訪ねるといい。話は通してあるからよ」

 以前に聞いたトム教官の師匠の話。その師匠が道案内の役割をしてくれるというわけだ。

「ランカークスって……かなりの有名冒険者パーティやん。トム教官ってあのチームと仲良いねんな」
「まあな。俺の師匠が在籍してるってだけで、ランカークスのチーム自体とは面識はないけどな。まあ、ランカークスは塔の攻略組の中でも上位に存在しているチームだ。その点でも刺激になると思うぜ」

「確かに、刺激になりそうですね」

 サラもトム教官の言葉には肯定的であった。智司としても、プロの冒険者がどういった連中なのかを把握することには賛成であった。異論を唱えるつもりはない。ないのだが……泊まりでの4人旅。先ほどの、サラとの微妙な空気もあるだけに、どうしても意識してしまう智司。

「ああ、念のため言っとくが、変なことはするなよ? 一応、お前ら若いんだからよ」

 トム教官は智司たちに先回りをする形で釘を刺した。その言葉に真っ先に反応したのはサラだ。

「な、なにを言ってるんですか、教官! そんなこと起こらないです……!」
「そ、そうですよ……!」

 サラに釣られるようにして言葉を発したのは智司だ。思わず、サラの方向を見てしまった。彼女も彼を見ていたようで、お互いの視線は交差する。

「あ、いや……」
「え、ええ……」

 二人は顔を赤らめながら視線を外した。それを見た教官は苦笑いだ。彼らの微妙な空気を察知したのだ。

「おいおい、お前らのその反応……満更でもないってことか? ガキが色気づきやがって。間違いを起こしてもいいが、程々にな」

 意外にも肯定的なトム教官の発言。なんとなく応援しているようにも感じられた。智司とサラは余計に恥ずかしくなってしまう。

「避妊はしておけよ」
「どういう意味ですか!」

 トム教官の度を越した発言。智司とサラは同時に彼に叫んだ。二人の顔はリンゴのように真っ赤になっている。そんなやり取りを、リリーは口を尖らせて見ていた。


「ちょっと……なんか、釈然としない……」
「おいおい、なんかおもろい事態になりそうやんけ」

 リリーとナイゼルも各々口を開いた。前途多難な職業見学会。それぞれの恋愛的なことも含めて、先が思いやられるものとなっていた。
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