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87話 休戦協定会議 その4
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「ねえねえ、ハズキちゃん。どうなってる?」
智司の館から外れた場所にある小さな小屋。その中にはハズキとアリスの二人の姿があった。休戦協定会議に訪れている5人に悟られないように、館からは離れた場所に隠れていたのだ。
会議の様子を伺っているハズキに、中にあったベッドに寝転がりながらアリスは質問していた。
「智司さまに恐れている印象を受けるわ。交渉自体は上手く運びそうね」
「適当に殺して、食べたらダメなの?」
「……あなたなら簡単にできるだろうけど、今回の目的はあくまで話し合いよ。それに……私達の存在は知られない方が、何かと便利に動けると思うわ」
最強の智司の護衛二人は、今回の5人の使者を敵と認識していない。倒すだけならば簡単だが、それ以前に自分たちが出るまでもないと考えているのだ。
「ここって、ウチの部屋なんやけど……」
彼女ら以外にも小屋には本来の住人が居た。アリスによって捕らえられた智司の慰み者であるジェシーだ。顔やスタイルはなかなかのもので、アリスやハズキよりは劣るが智司も気に入っていた。館から外れた小屋での生活を強いられているが、ベッドやお風呂など、生活に必要な物は揃えられており、ある程度快適な暮らしをさせてもらえていた。
特に洗脳されているわけでもなく、逃げない限りは命の保証もされており、かなりの好待遇だと言えるだろう。ただし、レドンドやケルベロスたちの遠隔監視は常にあるが。
「まあまあ、ジェシーちゃん。いいじゃん別に」
「いや……ウチは何も言われへんけど……」
性奴隷のような存在のジェシー。彼女に発言権はほとんどないようなものだったのだ。智司はまだ手を出してはいないが、それも時間の問題なのかもしれない。もちろん、手を出したら出したで、色々とトラブルが舞い降りるだろうが……。
-----------------------------
その頃、休戦協定は滞りなく進んで行き……。
「……じゃあ、魔神殿としてはこれ以上の殺生は好まないということさね?」
「そういうことだ」
交渉役を続けるアナスタシアだが、魔神の機械的な言葉を聞く度に反吐が出そうになる。闘気の強さからしても、目の前の人物がボスであることは間違いないだろうが、色々と腑に落ちないことが多すぎる。
なぜ、シルバードラゴンのレドンドやレジナの姿が見えないのか? アナスタシアはコンバットサーチを持ってはいないが、感覚的に目の前の魔神よりも強いと考えていたのだ。そしてそれは間違っていない。
「休戦条約を結ぶことは、国王陛下も望むことだろうさ」
「……それは何よりだ」
「ただし……」
「……?」
アナスタシアの表情は大きく変わって行く。目の前の人物は、自らが信頼していた仲間達を殺したのだ。エルメスを配下に押さえ、ランパードとニッグの二人は殺したのだろう。だからこそ、絶対に約束させなければいけないことがある。
「あんたら魔神の軍勢は、私達の仲間をこれ以上奪わないって誓えるんだろうね?」
「それはお互い様だろう? こちらは忠告したが、攻撃をしてきたのは評議会の者たちだ」
「どっちが先かというのは、この際どうでもいいさね。つまりは、攻撃を仕掛けない保証はないってことだよね?」
アナスタシアは魔神との会話を通し、その部分の合意には至らないと判断した。お互いの不可侵条約は、絶対に互いが攻撃をしないという保証がなければ成立しない。人と悪魔……お互い、真の意味で信じることができないのは必然と言えた。
「随分な自信だけど、君やその部下たちでは俺達には勝てないよ」
「ん?」
威圧感を出していた魔神に反論したのはグウェインだ。魔神とその周囲の部下たちでは、こちらには勝てないと踏んでいるのだった。
「不可侵条約の締結への譲歩。それをしなければいけないのは、果たしてどちらかな?」
グウェインは自らでは勝てないことはわかっているが、ライラック老師が近くに居るからか、自信満々に言ってのけている。虎の威を借る狐のようなものだろうか……魔神こと、智司は静かに溜息をついていた。
------------------------
「……この状況なら、自分たちに分があるという考えか、なるほど」
智司は考えを巡らせた……。
アナスタシア達にはハズキとアリスが近くの小屋に隠れていることは確認出来ていない。敵が想定以上の戦力を確保してきた場合は、二人の出撃も考えてはいたが、どうやら必要はないようだ。しかし、敵側の自信は挫いておく必要がある。
「レドンド、レジナ、ゴーラ。来てくれるか?」
智司は3体の配下の名前を呼んだ。彼の言葉に呼応するかのように、強烈な闘気が智司の周囲を包み込んだ。
「な、なんだい……!? この尋常じゃない気配は……!?」
アナスタシアとしても10年に及ぶ評議会人生の中で、初めてと言える強力な闘気を感じ取っていた。智司を包み込む圧倒的な闘気群は、評議会序列1位のランファーリ以上と言えるかもしれない。
「オデ、頑張る」
「ゴーラ、ダメダメ。レジナが一番頑張るから」
「お前ら、少しは自重しろ……」
ゴーラは館の裏手から、レドンドは空から舞い降りてきた。レジナは智司の足下から現れたが、どこから出現したのか、冷静に見ていた者は居ない。当然だ、天変地異にも等しい魔物たちが目の前に3体も出現しているのだから。
「くっ……! シルバードラゴン……!? それに、それと匹敵する闘気が2体も……! 嘘……」
現れた魔物に真っ先に反応したのは、嫌な記憶のあるサラだった。ニッグ達の死を遠隔で感じ取ったことや、戯れの一撃をハンニバルと二人でようやく弾いた記憶も蘇っている。機を抜けば、その場で倒れこんでしまいそうだった。
「ギギィィィィィィ!!」
上空を飛んでいたワイバーン5体は、突然現れた格上の存在に恐れおののいていた。それは、アナスタシアたちも同じだが。
「こ、こんなことが……嘘だろ……!?」
「グウェイン! あいつらの強さはどのくらいさね!?」
明らかに取り乱しているグウェインに、アナスタシアは叫んだ。一刻も早くコンバットサーチでの数値を確認したいのだ。彼女の予感が正しければ、3体とも人間状態の智司を上回っているのだから……。
「あの巨人は絶滅種のフロストジャイアントだね……戦力は100000だ……」
「10万……!? 馬鹿な……」
あまりの数値にアナスタシアも言葉を失ってしまった。続く言葉が出て来ないのだ。しかし、驚愕の数値はまだまだ続く……。
「シャドーデーモンの種族だと思うが……あの女の強さは120000……そして……」
最後にグウェインはシルバードラゴンことレドンドに視線を合わせた。
「シルバードラゴンの戦力は……140000だ……こんなことが……こんな数値が、あり得るわけが……! こんな数値、あり得ない!!」
ゴーラ:10万、レジナ:12万、レドンド:14万という戦力数値であった。レジナは防御能力の高さを考慮すれば、レドンドと互角くらいにはなる。人間状態の智司やライラック老師すらも軽く凌駕する3体の魔物の実力……それを目の当たりにしたグウェインは、叫びながら発狂していた。
「あり得ない……! こんな魔物がヨルムンガントの森にこれほど集中しているなんて……老師!」
戦力40000のメドゥシアナも信じられないといった表情になっている。マリアナ公国のエースという肩書きへの自信……それが一気に崩された形だ。
「これ程とはの……この3体だけでも、大陸内の国家の多くを滅ぼせそうじゃ……。世界は広いとはいうが……いやはや、250年という月日では、まだまだ語りつくせんな」
流石は年の功と言えるのか。ライラック老師は絶対に勝てない存在を目にしながらも、冷静に状況を把握していた。既に十分に生きたという思いもあるのかもしれないが。老師は伝説の竜族の実力がわかったことを密かに嬉しく思っていた。彼も長きに渡り生きてはいるが、流石に竜族に遭遇したことはなかったからだ。
「アルビオン王国は、我々の気が変わらないように気を付ければいいさ。間違っても、攻めてくるようなことはしないことだ」
智司からの残酷な強制力の強い言葉……休戦協定の真相は、平和条約なのではなく、圧倒的な魔人有利の条約であったのだ……。事態はさらに混沌の様相を呈していた。
智司の館から外れた場所にある小さな小屋。その中にはハズキとアリスの二人の姿があった。休戦協定会議に訪れている5人に悟られないように、館からは離れた場所に隠れていたのだ。
会議の様子を伺っているハズキに、中にあったベッドに寝転がりながらアリスは質問していた。
「智司さまに恐れている印象を受けるわ。交渉自体は上手く運びそうね」
「適当に殺して、食べたらダメなの?」
「……あなたなら簡単にできるだろうけど、今回の目的はあくまで話し合いよ。それに……私達の存在は知られない方が、何かと便利に動けると思うわ」
最強の智司の護衛二人は、今回の5人の使者を敵と認識していない。倒すだけならば簡単だが、それ以前に自分たちが出るまでもないと考えているのだ。
「ここって、ウチの部屋なんやけど……」
彼女ら以外にも小屋には本来の住人が居た。アリスによって捕らえられた智司の慰み者であるジェシーだ。顔やスタイルはなかなかのもので、アリスやハズキよりは劣るが智司も気に入っていた。館から外れた小屋での生活を強いられているが、ベッドやお風呂など、生活に必要な物は揃えられており、ある程度快適な暮らしをさせてもらえていた。
特に洗脳されているわけでもなく、逃げない限りは命の保証もされており、かなりの好待遇だと言えるだろう。ただし、レドンドやケルベロスたちの遠隔監視は常にあるが。
「まあまあ、ジェシーちゃん。いいじゃん別に」
「いや……ウチは何も言われへんけど……」
性奴隷のような存在のジェシー。彼女に発言権はほとんどないようなものだったのだ。智司はまだ手を出してはいないが、それも時間の問題なのかもしれない。もちろん、手を出したら出したで、色々とトラブルが舞い降りるだろうが……。
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その頃、休戦協定は滞りなく進んで行き……。
「……じゃあ、魔神殿としてはこれ以上の殺生は好まないということさね?」
「そういうことだ」
交渉役を続けるアナスタシアだが、魔神の機械的な言葉を聞く度に反吐が出そうになる。闘気の強さからしても、目の前の人物がボスであることは間違いないだろうが、色々と腑に落ちないことが多すぎる。
なぜ、シルバードラゴンのレドンドやレジナの姿が見えないのか? アナスタシアはコンバットサーチを持ってはいないが、感覚的に目の前の魔神よりも強いと考えていたのだ。そしてそれは間違っていない。
「休戦条約を結ぶことは、国王陛下も望むことだろうさ」
「……それは何よりだ」
「ただし……」
「……?」
アナスタシアの表情は大きく変わって行く。目の前の人物は、自らが信頼していた仲間達を殺したのだ。エルメスを配下に押さえ、ランパードとニッグの二人は殺したのだろう。だからこそ、絶対に約束させなければいけないことがある。
「あんたら魔神の軍勢は、私達の仲間をこれ以上奪わないって誓えるんだろうね?」
「それはお互い様だろう? こちらは忠告したが、攻撃をしてきたのは評議会の者たちだ」
「どっちが先かというのは、この際どうでもいいさね。つまりは、攻撃を仕掛けない保証はないってことだよね?」
アナスタシアは魔神との会話を通し、その部分の合意には至らないと判断した。お互いの不可侵条約は、絶対に互いが攻撃をしないという保証がなければ成立しない。人と悪魔……お互い、真の意味で信じることができないのは必然と言えた。
「随分な自信だけど、君やその部下たちでは俺達には勝てないよ」
「ん?」
威圧感を出していた魔神に反論したのはグウェインだ。魔神とその周囲の部下たちでは、こちらには勝てないと踏んでいるのだった。
「不可侵条約の締結への譲歩。それをしなければいけないのは、果たしてどちらかな?」
グウェインは自らでは勝てないことはわかっているが、ライラック老師が近くに居るからか、自信満々に言ってのけている。虎の威を借る狐のようなものだろうか……魔神こと、智司は静かに溜息をついていた。
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「……この状況なら、自分たちに分があるという考えか、なるほど」
智司は考えを巡らせた……。
アナスタシア達にはハズキとアリスが近くの小屋に隠れていることは確認出来ていない。敵が想定以上の戦力を確保してきた場合は、二人の出撃も考えてはいたが、どうやら必要はないようだ。しかし、敵側の自信は挫いておく必要がある。
「レドンド、レジナ、ゴーラ。来てくれるか?」
智司は3体の配下の名前を呼んだ。彼の言葉に呼応するかのように、強烈な闘気が智司の周囲を包み込んだ。
「な、なんだい……!? この尋常じゃない気配は……!?」
アナスタシアとしても10年に及ぶ評議会人生の中で、初めてと言える強力な闘気を感じ取っていた。智司を包み込む圧倒的な闘気群は、評議会序列1位のランファーリ以上と言えるかもしれない。
「オデ、頑張る」
「ゴーラ、ダメダメ。レジナが一番頑張るから」
「お前ら、少しは自重しろ……」
ゴーラは館の裏手から、レドンドは空から舞い降りてきた。レジナは智司の足下から現れたが、どこから出現したのか、冷静に見ていた者は居ない。当然だ、天変地異にも等しい魔物たちが目の前に3体も出現しているのだから。
「くっ……! シルバードラゴン……!? それに、それと匹敵する闘気が2体も……! 嘘……」
現れた魔物に真っ先に反応したのは、嫌な記憶のあるサラだった。ニッグ達の死を遠隔で感じ取ったことや、戯れの一撃をハンニバルと二人でようやく弾いた記憶も蘇っている。機を抜けば、その場で倒れこんでしまいそうだった。
「ギギィィィィィィ!!」
上空を飛んでいたワイバーン5体は、突然現れた格上の存在に恐れおののいていた。それは、アナスタシアたちも同じだが。
「こ、こんなことが……嘘だろ……!?」
「グウェイン! あいつらの強さはどのくらいさね!?」
明らかに取り乱しているグウェインに、アナスタシアは叫んだ。一刻も早くコンバットサーチでの数値を確認したいのだ。彼女の予感が正しければ、3体とも人間状態の智司を上回っているのだから……。
「あの巨人は絶滅種のフロストジャイアントだね……戦力は100000だ……」
「10万……!? 馬鹿な……」
あまりの数値にアナスタシアも言葉を失ってしまった。続く言葉が出て来ないのだ。しかし、驚愕の数値はまだまだ続く……。
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最後にグウェインはシルバードラゴンことレドンドに視線を合わせた。
「シルバードラゴンの戦力は……140000だ……こんなことが……こんな数値が、あり得るわけが……! こんな数値、あり得ない!!」
ゴーラ:10万、レジナ:12万、レドンド:14万という戦力数値であった。レジナは防御能力の高さを考慮すれば、レドンドと互角くらいにはなる。人間状態の智司やライラック老師すらも軽く凌駕する3体の魔物の実力……それを目の当たりにしたグウェインは、叫びながら発狂していた。
「あり得ない……! こんな魔物がヨルムンガントの森にこれほど集中しているなんて……老師!」
戦力40000のメドゥシアナも信じられないといった表情になっている。マリアナ公国のエースという肩書きへの自信……それが一気に崩された形だ。
「これ程とはの……この3体だけでも、大陸内の国家の多くを滅ぼせそうじゃ……。世界は広いとはいうが……いやはや、250年という月日では、まだまだ語りつくせんな」
流石は年の功と言えるのか。ライラック老師は絶対に勝てない存在を目にしながらも、冷静に状況を把握していた。既に十分に生きたという思いもあるのかもしれないが。老師は伝説の竜族の実力がわかったことを密かに嬉しく思っていた。彼も長きに渡り生きてはいるが、流石に竜族に遭遇したことはなかったからだ。
「アルビオン王国は、我々の気が変わらないように気を付ければいいさ。間違っても、攻めてくるようなことはしないことだ」
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