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48話 アルガスと過ごそう その2
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「兵士の霊廟へのご同行、申し訳ない」
「いえ、お気になさらないでください」
馬車で向かったアルガスとアイリーンは、エオリテネスの地へと降り立った。アルガスの屋敷から1時間ほどの道のりである。道中はそれほど危険ではないが、馬車の御者役と護衛役を兼ねて、ミランダも付いて来ている。
「……はあ、ここま相変わらず、怖いですよね……」
「アイリーン殿はお越しになったことがあるのですか?」
「え? い、いえ……おほほほほほっ!」
ついついゲームをプレイしていた時の感想を出してしまったアイリーン。慌てて取り繕うが、特に警戒されている様子はない。エオリテネスは霊廟という大層な名前が付いてはいるが、いわゆる土葬を施された墓地区画でしかない。放射状に墓地が並んでおり、その中央部分には荘厳な石碑が設置されている。
「あの石碑の前に行ってもよろしいですか?」
「はい、お供いたしますわ」
「ありがとう」
アルガスとアイリーンの二人は、霊廟(墓地)の中央部にある石碑の前に足を運んだ。アランドロ女王国の言語が書かれているようだ。後ろから付いて来ているミランダは少し離れた位置で、二人を見守っている。
「古い言葉で書かれているんですか?」
アイリーンは現代のアランドロ女王国の言葉であれば、読むことはできる。しかし、石碑に書かれている文字は読みにくかった。日本でいうところの古文のようなものか。
「現在のシエラ女王の曾祖母に当たる、ウィレオーネ様が記されたとされています。まだ100年ほどしか経っていないので、それほど昔ではないですね」
「100年……言語がその間に、相当変わったのですね……」
「ええ、女王国は植民地支配が長かったですから」
「……」
アイリーンは無言になってしまった。アランドロ女王国は数百年の歴史を誇るが、100年前までは周辺国家に占領された弱小国だった。100年前、ウィレオーネ女王が兵士を鼓舞し大戦争を起こし、真なる独立を勝ち取ったのだ。
「ウィレオーネ様が率いた大戦争……この霊廟の勇敢なる兵士達の多くは、その時に死亡した者達です」
「……なるほど」
アイリーンは自然と黙祷を捧げていた。その後はアランドロ女王国は大きな戦争は起こしていない為、小規模の争い意外で兵士が死亡することは少なかったのだ。
アイリーンは設定資料集で多少は知っていたが、ここまでの歴史があるとは知らなかった。メタ的に言えば政策スタッフも考えていないところなのではないだろうか。これはおそらく、この世界が現実化した時に生まれた設定のようなものだ。
しかし、現実である事実に変わりはない。アイリーンはシエラが頑なに兵士の派兵を拒んでいた理由が、ここにあることを悟った。忌まわしい歴史……なるべく兵士を失いたくないという反動なのだろうか。
アイリーンは辛い決断をしてくれた彼女に対して、惜しみない感謝の意を心の中で贈っていた。
「いえ、お気になさらないでください」
馬車で向かったアルガスとアイリーンは、エオリテネスの地へと降り立った。アルガスの屋敷から1時間ほどの道のりである。道中はそれほど危険ではないが、馬車の御者役と護衛役を兼ねて、ミランダも付いて来ている。
「……はあ、ここま相変わらず、怖いですよね……」
「アイリーン殿はお越しになったことがあるのですか?」
「え? い、いえ……おほほほほほっ!」
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「あの石碑の前に行ってもよろしいですか?」
「はい、お供いたしますわ」
「ありがとう」
アルガスとアイリーンの二人は、霊廟(墓地)の中央部にある石碑の前に足を運んだ。アランドロ女王国の言語が書かれているようだ。後ろから付いて来ているミランダは少し離れた位置で、二人を見守っている。
「古い言葉で書かれているんですか?」
アイリーンは現代のアランドロ女王国の言葉であれば、読むことはできる。しかし、石碑に書かれている文字は読みにくかった。日本でいうところの古文のようなものか。
「現在のシエラ女王の曾祖母に当たる、ウィレオーネ様が記されたとされています。まだ100年ほどしか経っていないので、それほど昔ではないですね」
「100年……言語がその間に、相当変わったのですね……」
「ええ、女王国は植民地支配が長かったですから」
「……」
アイリーンは無言になってしまった。アランドロ女王国は数百年の歴史を誇るが、100年前までは周辺国家に占領された弱小国だった。100年前、ウィレオーネ女王が兵士を鼓舞し大戦争を起こし、真なる独立を勝ち取ったのだ。
「ウィレオーネ様が率いた大戦争……この霊廟の勇敢なる兵士達の多くは、その時に死亡した者達です」
「……なるほど」
アイリーンは自然と黙祷を捧げていた。その後はアランドロ女王国は大きな戦争は起こしていない為、小規模の争い意外で兵士が死亡することは少なかったのだ。
アイリーンは設定資料集で多少は知っていたが、ここまでの歴史があるとは知らなかった。メタ的に言えば政策スタッフも考えていないところなのではないだろうか。これはおそらく、この世界が現実化した時に生まれた設定のようなものだ。
しかし、現実である事実に変わりはない。アイリーンはシエラが頑なに兵士の派兵を拒んでいた理由が、ここにあることを悟った。忌まわしい歴史……なるべく兵士を失いたくないという反動なのだろうか。
アイリーンは辛い決断をしてくれた彼女に対して、惜しみない感謝の意を心の中で贈っていた。
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