婚約破棄令嬢、不敵に笑いながら敬愛する伯爵の元へ

あめり

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49話 見送り

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 いよいよこの時がやってきた。期間としては数か月と経過はしていないので、些細な時間と言えるだろうか……。しかし、アイリーンの精神状態としてはかなりの努力を施した結果だ。思い返せば、アルガス伯爵に取り入り、金鉱山の一件を解決し、タイネーブへの協力体制も成就させた。

 実際に流れた時間はそこまで長期間というわけではないが、アイリーンにとっては10年くらいの時間と言えるかもしれない。

 ゲームを通しての知識……それをフル活用し、今日の集大成に至ったのだ。


「ほんなら、アイリーン。行ってくるわ」

「ええ。タイネーブも気を付けてね」

 アルガス伯爵の屋敷の前で二人は堅い握手を交わした。知り合ってからまだそんなに時間は経過していないが、二人は既に、親友以上の絆で結ばれていると言えるだろう。タイネーブの後ろには冒険者たちの姿とテッドの姿もあった。アイリーンだけが一方的に知っているだけだが、思わず苦笑してしまっている。

 テッドからしてみれば、美しい見知らぬ女性に観察されている状態だ。悪い気分ではないが、目的がわからない為、顔を赤くしながら視線が泳いでいた。

「ったく、あの阿呆は……」

 テッドの様子を見ながら、タイネーブは愚痴をこぼしていた。アイリーンはそこに、嫉妬の感情が芽生えていることをキャッチした。

「タイネーブ、けっこう上手く行ってるんじゃないの?」

「さあ? どないやろな」

「絶対に無事に戻って来てよね」

「わかってるて。あんたはほら、もっと気に掛けないとあかん人が居るやろ?」

 そう言いながら、タイネーブは隣に立っているアルガス伯爵に目を向けた。彼女の心中を汲み取り、アイリーンもそちらに視線を移す。


「アルガス伯爵……」

「アイリーン殿……」


 二人は視線を合わせた。それだけで全てが通じ合っているのか、それ以上の言葉はお互いに話さない。アイリーンとアルガスは他の者達が見ている中、大胆に抱き合ってみせた。

「うわ~~、すごいな、二人共。このままキスとかしそうな勢いやん」

「確かに……そちらも見どころではありますが」

「ミランダは結局、アイリーンの護衛に専念するんやろ?」

「ええ……万が一のこともありますので」

 当初、ミランダも作戦に参加する可能性も考慮に入れられていたのだが、彼女はアイリーンの警護を優先する意志を固めたのだった。アルガス伯爵の屋敷で帰りを待つ係になっている。


「アルガス伯爵……どうかご無事で」

「ええ。必ずまた会いに戻って来ますよ」

 アルガスの近くにはシミターたち護衛の姿もある。彼らは作戦に参加するのだ。公にはアランドロ女王国は参戦しない形式での戦い。「蒼き月のカンパニュラ」のラストエピソードが幕を開けた瞬間であった……。
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